法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣

橋本 直

文字の大きさ
上 下
10 / 211
第二章 落ちこぼれが落ちた『罠』

第10話 それ以上にパイロットに決定的に向かない理由

しおりを挟む
 それ以前に誠には決定的にパイロットには向かない理由があった。

 それは『乗り物酔い』である。

 最悪『ゲロを吐く』と言う結果が多くあった。当然のように小さいころから『乗り物』に酔う傾向が強かった。今でも誠は電車でさえ乗るのをあまり好まないほどの乗り物との相性は最悪だった。パイロット養成課程に進んだ後にもその症状は悪化を続けた。遼州星系では一般的なロボット兵器『シュツルム・パンツァー』に至っては、最初のうちは見ただけで吐くというありさまだった。

 それなのに、なぜか自分一人で運転するときのトラックの運転は得意だった。

 クレーンも得意。牽引の免許も研修中に取得した。パワーショベルなどの特殊重機の操縦も得意だった。他にもクレーンのワイヤーを結ぶ技術である『玉掛け』の資格もある。指導の教官から『港湾関係の仕事ならすぐできる』と太鼓判を押されたほどのものだった。

 誠の『乗り物酔い』は、操縦する機体に載っているのが荷物なら何でもないが、人が乗っているとまるで駄目だった。胃がしくしく痛み、運転どころではなくなる。

 トラックも助手席に教官でも乗って居ようものならアウトだった。バスも自家用車も一人で運転する分には何の問題も無いのだが、他人が一人でも乗って居ようものなら確実にハンドルを誤ったりした。

 自動車の免許は軍の入隊時に取らされたが、今では完全にペーパードライバーである。

 その結果、同期のパイロット候補達は誠を『もんじゃ焼き製造機』と呼んだ。他にも『しもつかれ』、『パイロット不適合男』、吐瀉物関係のあだ名にはそれこそ事欠かなかった。

 同期のパイロット候補生達は誠を完全に馬鹿にしていた。

 幼稚園時代から続くその『胃弱の呪い』は、見た目はさわやかなスポーツマン風の誠から友達と彼女を奪い続けることになった。

 そんな『乗り物に乗ることすら無茶』な誠である。パイロットなどとても無理なのははじめから分かっていたことだった。

 それでもある意図が誠を無理やりパイロットへの道を進ませようとしている。誠はその意図に逆らうこともできずにただ流される日々を送っていた。

 東和共和国宇宙軍に入隊して以来、誠は『胃薬』と『乗り物酔い止め』が手放せなくなっていた。それでも体を壊さなかったのは誠の類まれなる体力と食欲の賜物だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界に転生したのにスキルも貰えずに吸血鬼に拉致されてロボットを修理しろってどういうことなのか

ピモラス
ファンタジー
自動車工場で働くケンはいつも通りに仕事を終えて、帰りのバスのなかでうたた寝をしていた。 目を覚ますと、見知らぬ草原の真っ只中だった。 なんとか民家を見つけ、助けを求めたのだが、兵士を呼ばれて投獄されてしまう。 そこへ返り血に染まった吸血鬼が襲撃に現れ、ケンを誘拐する。 その目的は「ロボットを修理しろ」とのことだった・・・

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...