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嵐が去って

第43話 妹

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「じゃあ失礼しまーす」

 間の抜けた調子でかなめがそう言って先頭に立って隊長室を後にした。

「お姉さま!」

 そこには待っていたかのような笑顔のかえでとリンの姿があった。昨日の不機嫌さはどこへやらと言うようにかえでは笑顔で姉に熱い視線を送っている。

「なんだよ……気持ちわりいな」

 かなめはそう言って妹の濡れた瞳に目をやった。

「昨日は災難でしたね……あの無能な将軍様のお供なんて……身の毛がよだちますよ」

 かえでは吐き捨てるようにそう言った後すぐに表情を元の笑顔に戻した。その表情の変化から昨日の麗子への冷たい態度が思い出されて誠はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

「そう言ってやるなよ……アイツだって悪気がある訳じゃねえんだから」

 そう言うとかなめは麗子に同情するような笑顔を浮かべた。

「ただ単に運がいい以外何も取り柄の無い馬鹿貴族ですよ、あの女は。まったくお姉様もいい迷惑だ。あれが武家で良かったですよ……同じ公家だったら甲武の公家は馬鹿ばかりだと誤解されてしまう」

「まあ知り合いでもないのに付き合った私達の方が良い迷惑なんだけどね」

 不機嫌そうなかえでのつぶやきにアメリアはそう付け加えた。

「しかしあの馬鹿が右大臣とは……源実朝公が前例を作ったとはいえいやはや」

 かえでは呆れたようにそうつぶやいた。

「あれだ、足利義満が関白太政大臣になってるからな……徳川将軍家は関白以上の権力を持ってたし……ってかオメエは所詮大納言だろ?小豆でも食ってろ」

 かなめはそう吐き捨てるように言った。

「大納言はあまり気に入っていないんですよ……一応弾正の位は持ってますから……大納言だと殿上会には大臣以下なので武装して出れないですから。弾正なら甲武のどこでも武装してかまわないですから」

「言うねえ……かえで。アタシは検非違使だからな。アタシも武装し放題だ」

「武装禁止の東和でも武装して暮らしてものね、かなめちゃんは」

 かなめの不謹慎な発言にアメリアはそうツッコミを入れた。

「これは護身用だって何度言えば分かるんだ?まああの国は銃の規制はすごいからな……でも刀の規制はほぼ無しだ……まあ武家の国だから仕方ねえんだろ?」

 かなめはそう言うと妹のかえでに目を向けた。

「まあ僕の『鬼切丸』もおかげでフリーパスですから……東和じゃ持ち歩きに銃と同じ規制がかけられるので迷惑していますが」

「それって私のせい?それにアタシはゲルパルト国籍よ……東和国籍の誠ちゃんが責任を取れば良いんじゃない?」

「アメリアさん……なんでも僕のせいにすればいいと思ってません?」

「まあ半分は……」

 いつものようにアメリアは誠に責任を押し付けてくる。

「武器の規制は当然だろ?どこもアメリカみたいになりたくはない」

 カウラはそう言って苦笑いを浮かべた。

「まあ、まあ、まあ……良いじゃねえか。何なら神前もバスバの剣を持ち歩けば……」

「嫌ですよ、あんな重いの」

 かなめの提案を誠はあっさり却下する。

「そんなに重いかな……確か僕の鬼切丸と同じ重さ……重さなら義父上の『同田貫正国』の方が数倍重いはずだぞ」

「叔父貴は持ち歩いてねえじゃねえか。まあいいや、普段は神前のことはアタシが守ってやる」

「なに?かなめちゃんナイト気どり?」

「うるせえ!オメエがピンチの時はテメエで勝手にやれ!」

 アメリアに茶化されてむくれたかなめはそれだけ言うと誠達に背を向けた。

「西園寺はタバコか?」

「カウラ、分かってるなら言うな!」

 吐き捨てるようにそう言うとかなめはそのまま廊下を歩きだした。

「今日の帰りなんだけど……反省会しない?あのお姫様の世話で疲れたでしょ?」

「なんだ?ただ単に貴様が飲みたいだけだろ?」

 ナイスアイディアをあっさりカウラに否定されたアメリアは少し寂しそうに笑った。

「良いですよ……日野少佐達もどうです?」

 誠は気を利かせてそう言うがかえでは静かに首を横に振った。

「僕達は良いよ。お姉様と君達だけでやってくれたまえ……例の馬鹿な将軍様のことを思い出すと虫唾が走る!」

 そう言うとかえではそのまま誠達を置いて立ち去った。

「島田達はどうする?奴等にも迷惑をかけたわけだし」

「いいわよ、島田君達は。彼ったらおごりだというとめちゃくちゃ食べるんだもの」

 カウラの言葉をアメリアはそう言って中座させた。

「でも毎日行ってませんか、月島屋」

 誠はそう言って笑いかけてくるアメリアを見据えた。

「良いじゃないの、安いんだから……良い店じゃないあそこ」

「まあな」

 カウラはアメリアにそう笑いかける。

 こうして『将軍様』の来訪の一件は幕を閉じた。



                           了
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