特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第八部 「監査が来たぞ!」

橋本 直

文字の大きさ
上 下
26 / 43
帰ってくる問題児

第26話 奇妙な出会い

しおりを挟む
「それじゃあ案内してくださる?」

 麗子は愛想笑いを浮かべる誠に向けてそう言い放った。

「はい、わかりました」

 誠はそう言うとそのまま廊下を進んで二階に上がる階段に向かう。

「叔父貴のことだ、逃げてんだろ?」

 かなめは相変わらずニヤニヤ笑いながら麗子と鳥居のコンビの後ろを歩いていた。

 階段をのぼり、そのまま隊長室に誠は麗子を案内した。

「ここです」

「ありがとう」

 案内してきた誠に微笑みを投げた後、麗子は隊長室の扉を三回ノックした。

「はーい」

 意外にも嵯峨の声がした。

「いるじゃないの」

「おかしいな……」

 アメリアにつつかれてかなめは不思議そうに扉を見つめる。

「失礼しますわ」

 そう言うと麗子は静かに隊長室の扉を開いた。

「うっ!」

 麗子はそう言うとポケットからハンカチを取り出して口を覆った。

「やっぱりな……」

 かなめはそうなるのが分かっていたかのように苦笑いを浮かべる。

 この『駄目人間の巣窟』に初めて入った人は誰もが経験する埃とすえた匂いの歓迎に誠もまた納得した。

 隊長である嵯峨の辞書には『掃除』の文字が無かった。

 部屋には埃が充満し、仕事終わりに安い甲種焼酎のつまみとして持ち込んだスルメやエイヒレの匂いが来るものを拒むかのように広がっている。

「内府殿……」

 麗子は半分呆れたというようにそう言って大きな隊長室でのんびりと通俗雑誌を読んでいる嵯峨を見つめた。

「いらっしゃい……殿上会以来だな」

 嵯峨はそう言うと見るからに不機嫌そうな麗子の顔を嬉しそうな表情で見上げた。

「この匂いと埃……どうにかなりませんの?」

 不機嫌そうにそう言うと麗子は隊長室を見回した。鳥居は特に気にする様子もなくカメラで写真を撮り続けている。

「まあ……どうにも無精な性分でね。田安の右大臣殿は潔癖症か?」

「そう言う問題ではありません!」

 まるで気にする様子でもない嵯峨に麗子はそう言ってため息をついた。

「仮にも嵯峨家は甲武建国の祖である西園寺基公から連なる由緒ある家柄ですわよ」

「俺、養子だもん。血はつながってねえわな」

 麗子の言葉を遮ってそう言うと嵯峨は満足げな笑みを浮かべる。

「ですが、嵯峨の苗字を名乗る以上はそれなりの覚悟と申しますか……」

「覚悟も何も好きで名乗ってるわけじゃねえわな。親父が嵯峨家を継げって言ったから部屋住みの三男坊から嵯峨家を継いだだけだ」

 ああ言えばこう言う嵯峨らしい態度に麗子の怒りはさらにヒートアップする。

「ですが、甲武の四大公家の末席とは言え名門の当主としての心構えをですね……」

「現当主はかえでだ。俺は隠居の身だ。そんな心構えなんて御免だね」

 嵯峨はそう言うと満足げに手元のスナック菓子を口に運んだ。

「そんな減らず口を……」

 麗子の怒りはマックスに達しようとしていた。

「ここは俺の部隊。どんな隊長室にしようが俺の勝手だ」

 嵯峨は勝利を確信してそう言い放った。

「まったく……これでは甲武の恥です」

「別に一般公開されてるわけじゃねえんだから恥はねえだろ」

 そう言うと嵯峨は再びスナック菓子に手を伸ばす。

「よくこんなところで食べ物を口に……」

「菌は入ってねえよ。入ったところで人間そう簡単に死なないって……まあ俺は不死身だけど」

 いつもの調子の嵯峨に誠はせっかく上がった部隊の株が急降下していく様を見つめるだけだった

「それよりご苦労さんだな。監査とか面倒だろ?」

「この部屋で息をすること自体が面倒ですわ」

 麗子は汚いものを見るような目で自然体でお菓子を食べている嵯峨にそうつぶやいた。

「そう言いなさんな。軍なんて言うものはキツイ・汚い・危険の三拍子そろった職場だぞ。死人の腐敗集の中じっと敵を待ち伏せしたりとか、他に飲むものが無くて戦友の血を飲んで渇きをしのぐだの出来なきゃ立派な武門の棟梁にはなれねえよ」

 嵯峨はそう言って目の前の哀れな闖入者をあしらった。

「それはそうなんですが……」

 麗子も嵯峨にそう言われてしまえば何も言い返すことはできなかった。

「じゃあ、勉強になったろ?帰って良いよ」

 そう言うと嵯峨は誠達に背を向けてタバコに火をつけた。

「叔父貴……もっと言いようがあるだろうが」

「かなめ坊。俺の言葉に間違いがあったか?」

 背を向けたまま嵯峨はかなめにそう言って部屋を出ていくように手を振る。

「仕方が無いわね……じゃあうちで一番問題ありそうなところに行きましょ」

 アメリアは気を利かせてそう言うとドアを開いた。

「失礼しますわ」

 麗子は不機嫌そうにそう言うとアメリアに続いて隊長室を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。 その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。 しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。 さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。 直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。 他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。 しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。 考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。 誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」

高木一優
SF
タイムマシンによる時間航行が実現した近未来、大国の首脳陣は自国に都合の良い歴史を作り出すことに熱中し始めた。歴史学者である私の書いた論文は韓国や中国で叩かれ、反日デモが起る。豊臣秀吉が大陸に侵攻し中華帝国を制圧するという内容だ。学会を追われた私に中国の女性エージェントが接触し、中国政府が私の論文を題材として歴史介入を行うことを告げた。中国共産党は織田信長に中国の侵略を命じた。信長は朝鮮半島を蹂躙し中国本土に攻め入る。それは中華文明を西洋文明に対抗させるための戦略であった。  もうひとつの歴史を作り出すという思考実験を通じて、日本とは、中国とは、アジアとは何かを考えるポリティカルSF歴史コメディー。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...