特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第八部 「監査が来たぞ!」

橋本 直

文字の大きさ
上 下
25 / 43
帰ってくる問題児

第25話 カオスな展開

しおりを挟む
「入っていいわよ」

 運航部の部屋から顔を出したアメリアを見ると麗子は咳払いをしてそのまま部屋に入った。

「やっぱり片付けたんですね」

 誠はいつも飾られている映画に使った衣装のマネキンやギャグに使うタライや一斗缶が目につかないのを見てそうつぶやいた。

「どう、ちゃんとしたもんでしょ」

 ピンク色の髪のラストバタリオンの士官であるサラ・グリファン中尉が部屋の中央で胸を張った。

「自慢になるかそんなこと」

 かなめは明らかにやっつけで片づけたことが分かる部屋の隅の布をかぶせた一隅を見てそうつぶやいた。

「田安中佐、見てもそんなに面白いモノじゃないですよ」

 水色のショートカットの士官、パーラ・ラビロフ大尉はそう言ってきょろきょろと部屋を見回す麗子に声をかけた。

「これはパラダイスですわね」

「パラダイスだ?」

 確かに美女ぞろいの運航部は麗子にとってはパラダイスなのだろう。しかし、アメリアから麗子について何か吹き込まれているブリッジクルーの隊員達は麗子から距離を取っていた。

「聞いていたのとは違って……ずいぶん静かですわね」

 異変に気付いたのか麗子はそう言って小首をかしげる。

「どんなふうに聞いてたんだ?」

「なんでも芸人集団でいつも笑いが絶えないとか」

 麗子は机にかじりついて彼女と関わり合いになるまいと頑張っているアメリアの部下達の顔をいちいちのぞき見る。

「噂は噂。こんなもんですよ、うちは」

 アメリアはそう言ってごまかしにかかった。そんな彼女の思惑を無視するかのように一人写真を撮り続けていた鳥居が布で覆われた部屋の一隅の存在に気づいた。

「田安中佐。これは何でしょう?」

 大きなカメラで写真を撮りながら鳥居はじりじりとそれに近づいていく。

「なんでしょうねえ……気になりますわねえ」

 麗子と鳥居が布の中にある衣装や小道具に近づいていくのを見てアメリアは素早くその前に回り込んだ。

「うちは見るとこなんて無いんですよ!じゃあ次に行きましょう!」

 珍しく焦っているアメリアを見てかなめが噴き出した。

「でも……その布の掛けてある下に何があるのか……」

「書類ですよ!段ボールむき出しじゃかっこ悪いじゃ無いですか!武門の棟梁たる田安中佐にそんなものお見せできませんよ」

 アメリアはそう言って不思議そうに彼女を見つめる麗子を押しとどめた。

「書類?そうは見えませんけど」

 麗子は長身のアメリアの小脇から顔を出しながら部屋の隅の布の掛けてある一隅をのぞき見る。

「アメリア……どうする?」

 他人事であるかなめはニヤニヤしながら慌てているアメリアに目をやった。

「かなめちゃん……なんとかならないかしら」

 追い詰められたアメリアはそう言ってかなめに助けを求める。

「貸しだな……麗子。それより叔父貴に挨拶しねえで良いのか?一応監査だろ?部隊長の顔を見ねえで帰るってのは感心しねえぞ」

 かなめは満面の笑みを浮かべて麗子にそう言った。

「そうですわね。内府殿には甲武でお会いしてからご挨拶していませんもの……鳥居、行きますわよ」

 麗子はもうすでに目の前の不審な物体のことは忘れ果てたというようにそう言って部屋を出ていった。

「切り替えが早いというかなんと言うか……」

 その目移りする態度にカウラは呆れたようにそうつぶやく。

「まあ、うちが暇なときは遊んでるってバレると色々面倒ですから」

 誠はそう言うとドアの前で立ってそこが開くのを待っている麗子を先導して扉を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

処理中です...