特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第八部 「監査が来たぞ!」

橋本 直

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馬鹿が去って

第19話 甲武国貴族の暮らし

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「話は変わるんだけどさ」

 場の雰囲気を変えようというようにアメリアは明るい口調でそう切り出した。

「なんだよ、改まって」

「沙織ちゃんは甲武の庶民よね」

 アメリアはにこやかな笑みを浮かべながらかなめと鳥居を見比べる。

「士族は庶民じゃねえよ。士族はサムライだ。甲武で庶民と言ったら平民のことを指すんだ」

 かなめは明らかに不服そうにそう言うと鳥居に目をやった。

「そうですね……武士は食わねど高楊枝って亡くなった父も言ってましたから。下級士族とは言え下駄を履かせてもらって軍に入れた私なんか……」

 どことなく寂しげな表情が鳥居の顔に浮かんでいた。

「そんなの関係無いじゃない。かなめちゃんみたいなお姫様って沙織ちゃんからどう見えるのかしら?」

 アメリアは屈託のない笑みを浮かべながら尋ねてくる。

「まあ西園寺様は……これまで会った貴族の方とはかなり違うような……」

「そうか?こいつの吸ってるタバコは一本千円以上するんだぞ」

「そんな高いんですか!」

 カウラの何気ないつぶやきに誠がいつの間にか叫んでいた。

「でけえ声出すんじゃねえよ……アタシは酒とタバコにはこだわるんだよ……どっちも地球の中南米の奴に限るな……土が違うんだ」

 かなめはそう言いながら厚焼き玉子を口に運ぶ。

「でも確かに田安中佐の何と言うか……貴族らしい貴族と言う雰囲気は西園寺には無いな」

「かえでちゃんも貴族らしいところがあるわよね……いつも従者としてリンを連れてるし……趣味が狩猟だし……ああ、かなめちゃんは人を撃つのが趣味だったわよね」

「アタシのは趣味じゃねえ。仕事だ」

カウラとアメリアに見つめられながらかなめは意に介せずというようにそう言い放った。

「僕は西園寺さんは親しみやすくて良いと思うんですけど……」

「親しみやすい?かなめちゃんが?」

 何気なくつぶやいた誠の言葉にアメリアがすかさず食いついてくる。

「甲武は行ったことが無いからな……そもそも貴族と言うものに私はあまり会ったことが無い」

 カウラは弁当についてきたお茶を飲みながらそうつぶやいた。

「面倒なだけだぞ、貴族制なんて。親父に言わせればそれを形骸化できれば甲武の社会問題は半減するそうだ……どんな家に生まれようが馬鹿は馬鹿だ。麗子を見てみろ」

 投げやりにそう言うとかなめは弁当の端に残ったご飯を一気に口に流し込んだ。

「田安中佐は立派な……」

「いいの、そこには食いつかなくて……でも甲武じゃかなめちゃんみたいな貴族は他にいるの?」

 アメリアは好奇心半分というような表情で鳥居を見つめる。

「私は軍に入って1年ですからなんとも……訓練課程で会ったのは士族出身の女子隊員ばかりでしたし……田安中佐はあまり交友関係が広くないようで……その……」

「呆れられてんだよ。女学校の時からアイツと関わった奴はろくな目にあってねえ。武家貴族の連中はアイツが武門の棟梁だから目の前では良い顔してるが裏に回ったらそりゃあひでえ言われようだったからな」

 かなめは弁当を食べ終えて頬杖をつきながら鳥居を見つめた。

「かなめちゃんはかばってあげたんだ……優しいわね」

「アメリアうっせえよ!」

 顔を真っ赤にさせてかなめが抗議する。

「西園寺は陸軍士官学校で田安中佐は海軍兵学校に進んで士官になったわけだ……その頃はどうだったんだ?」

 こちらも食事を終えたカウラがかなめにそれとなく尋ねる。

「アイツの言うことが理解できると思うか?ただ自分がいかに優秀で周りが愚図で使えねえか言うだけだよ……まあ周りの連中もアイツの婿養子になって武家の棟梁と呼ばれてえ馬鹿がいるらしくてな」

「モテたんだ……誰かと違って」

 かなめの自爆にアメリアはすかさずツッコミを入れた。

「アイツは男には興味がねえの!まあ、女は女でアイツの馬鹿さを知ったら愛想つかすから……友達なんかできるわけねえじゃねえか」

「誰かは銃で脅して結果友達ができなかったわけだ。似た者同士というわけだ」

「ベルガーテメエ!」

 カウラの致命的なツッコミにかなめは左脇に下がっているスプリングフィールドXDM40に手を伸ばす。

「西園寺さん、落ち着いて……」

 なんとか誠が止めに入ってなんとかその場は収まった。
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