特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第八部 「監査が来たぞ!」

橋本 直

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馬鹿が去って

第18話 食卓を囲んでの本音

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「とりあえず島田のところだな……あそこにはいつもポットがある。コーヒーくらい飲みたいからない」

 カウラはそう言うとまっすぐと廊下を進んでいく。

「暖房が効いていないのは……予算の関係ですか?」

 本局のビルの居心地の良さに慣れているような鳥居の言葉に誠は力ない笑みを返した。

「まあね……光熱費もそうだけどここの建物も元はと言えば豊川工場の実験施設として五十年前に建てられた建物だから……隙間風がひどいのよ」

 アメリアはそう言いながら鳥居に笑いかける。

「今回の監査でなんとか建物の改修の予算を組めるように頑張ってみます」

 鳥居はそう言いながらにっこりと笑いかける。

「ああ、頼む」

 先頭を歩いていたカウラは無表情のままそう言うとそのままハンガーへつながる扉を開いた。

「ああ、ベルガー大尉……お茶か何かですか?」

 整備班の古参の下士官がカウラにそう言って笑いかけた。

「全部で……ポットの予備があったろ?」

「どうでしょう……まあ本庄さんが飲む分を減らせば有るでしょうけど」

 下士官は周りの整備班員達にそう言って笑いかける。

「じゃあ第二会議室に運んでくれ」

「承知しました」

 カウラの命令にいかにも形ばかりの敬礼をした後、整備班員達は散っていった。

「じゃあ行くぞ」

 そう言ってカウラは誠の機体を見上げているアメリアの背中を叩く。

「分かってるって」

 アメリアはそう言うと戸惑っている鳥居の肩を叩いて本部棟に戻っていった。

「でもたった四機のアサルト・モジュールを稼働状態に持っていくだけでもかなりのマンパワーが必要なんですね」

 鳥居は感心したようにそう言いながら階段を上り始めたアメリアに声をかけた。

「そうよ……それに加えてさらに手のかかるオリジナル・アサルト・モジュールが二機。そろそろ整備班の拡張とか考えてもらわないと」

 振り返ったアメリアはそう言って鳥居に笑いかけた。

「頑張ります!」

「期待しているぞ」

 カウラはどこか力なくそう言うと第二会議室の扉を開いた。

 ひんやりとした空気が誠達を包む。

「暖房入れないと」

 アメリアはそう言いながら空調に手を伸ばした。

「鳥居曹長、そこにかけてくれ。田安中佐もいないことだからくつろいでくれていいぞ」

 気を聞かせてカウラはそう言った。それでも鳥居はどことなく所在投げに視線を泳がせていた。

「はい!ありがとうございます」

 鳥居は元気にそう言うとカウラの指さした席に腰かけた。

「鳥居さん……下の名前は?」

 アメリアは鳥居の正面に腰かけると笑顔で尋ねた。

「沙織……鳥居沙織です」

「沙織ちゃんか……良い名前ね」

 笑顔の鳥居に向けてアメリアもまた笑顔でこたえる。

「鳥居曹長。あんまりアメリアに媚びない方がいいぞ。こいつは人の弱みに付け込むことの名人だからな」

 カウラは冷たくそう言うとアメリアの隣に腰かけた。

「ひどいこと言うわね。そんな初対面の人の弱みを握ろうだなんて考えないわよ」

「僕……初対面の時にアメリアさんにひどい目に逢わされたんですけど」

 誠は部隊配属直後にアメリアに頭にたらいを落とされたことを思い出しながらそう言った。

「あれよ、誠ちゃんはうちの身内になる人だから。沙織ちゃんはあくまでお客さん。お客さんには私は優しくする主義なの」

「そうですか……」

 鳥居はいまいち事態を飲み込めていないという表情でそうつぶやいた。

「それにしても……遅いわね、かなめちゃん」

「誰が遅いって?」

 アメリアの言葉に合わせたようにかなめが会議室に現れた。

「サンドイッチか……ツナがあると良いな」

 かなめの後ろから現れた白いつなぎの整備班員が二名弁当を誠達が座っているテーブルに並べていく。

「私も好きよ、ツナ。まあ……リンちゃんのことだから凝ってニシンの酢付けとかを作りそうだけど」

「単純に卵サンドかもしれないな」

 アメリアは受け取ったサンドイッチの入ったバスケットを開ける。

「いろいろ入ってますね」

 誠は視線をアメリアに向けた。アメリアは表情一つ変えずにご飯の入った小ぶりのサンドイッチの入った箱に手を伸ばす。

「しかし良いですね、東和は。新鮮な魚介類がいくらでも食べられるじゃ無いですか!」

 鳥居は嬉しそうにそう言うと割り箸に手を伸ばした。

「まあね……なんでも地球人がこの星に来るまでほとんど魚が居なかったらしいわよ、遼州系には。入植と独立戦争がはじまると魚の稚魚を地球から大量に持ち込んで海に逃がしたとか……」

「ご先祖様様だな」

 サバの切れ端を口に運びながらカウラはそう言ってほほ笑んだ。

「あれですか?甲武には海が無いから魚とかは……」

 誠は弁当の端に置かれた沢庵を口に運びながら鳥居に話しかける。

「庶民は人造魚肉のソーセージとかしか手に入りませんよ。肉は年に数回。それも質の悪い人造肉です」

 しみじみとした表情で鳥居はそう言ってサバの切れ端を口に運ぶ。

「じゃあ西園寺さんが居候の人達に安いとはいえすき焼きを食べさせるのはすごいことなんですね」

 誠は甲武国一のお姫様であるかなめをまぶしい瞳で見つめていた。

「なんだよ、きみが悪いな。そうだよ、安い肉でも東和の数倍はするんだ……平均賃金が東和の半分以下なんだぜ。居候の芸人達も喜んで安い肉を買いあさる訳だ」

 かなめはそう言いながらご飯を口に掻きこんだ。

「これも星の恵みだ……神前。東和に生まれて良かったな」

 甲武星の外側の外惑星群で製造された人造人間であるカウラはそう言って誠に笑いかける。

「そうですね……僕は幸せなんですかね」

 一瞬場がしんみりとした雰囲気に包まれた。
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