上 下
6 / 43
想像を絶する問題児

第6話 超絶ラッキー

しおりを挟む
「話を元に戻すけどまあさっきカウラの言ったことは半分正解、半分不正解だ」

 かなめはそのままニヤリと笑った。

「あの馬鹿がなんとか形だけとはいえ仕事ができてるのはな……」

 いかにも嫌らしい笑み。かなめに今浮かんでいる表情は誠にはそうとしか見えなかった。

「本当に仕事ができてるの?」

 めんどくさそうにアメリアが頭を掻く。それを見てかなめは顔を突き出し、誠達にささやきかけた。

「奴はラッキーなんだよ。それこそ天地の物理法則という奴を疑いたくなる程な」

 そう言い切るとかなめはにんまりと笑った。

『ラッキー?』

 誠、カウラ、アメリアの三人はかなめのあまりに意外な言葉に顔を見合わせた。

「そうだ。奴はラッキー、幸運なんだ。本当に嫌になるくらい……話は変わるが神前には言ってないがアタシは競馬が趣味でね」

「はあ」

 かなめの独白に誠は生返事をする。

「なんでその話とラッキーが関係あるのよ。ああ……そう言えば誠ちゃんが配属になったころくらいから、競馬で当たったってことでおごってくれること無くなったわね」

 そんなアメリアの皮肉にかなめは苦笑いを浮かべた。

「まあ、実際あれから一回も勝ってねえからな。それもこれも麗子の馬鹿がいけないんだ」

 かなめは自分自身に言い聞かせるようにそう言った。

「その様子だと神前と同時に東都の司法局本局に転属してきた田安中佐と競馬に出かけるようになってから負け続けというわけか……でもそれはおかしくないか?それなら田安中佐はラッキーというより疫病神じゃないか」

 冷静な表情でカウラは指摘した。かなめはその言葉に沈黙し、そのまま頭を掻く。

「まあ、奴は競馬で金を稼ごうなんて思っちゃいねえからな。一日、朝からアタシと付き合って最終レースまでアイツが買うのは多くて3レース。ひどいときは全く買わないこともある」

「なるほど。全レース勝負に出るかなめちゃんはなんやかんやで一日のトータルで大負け。ラッキーゆえに買ったレースはほとんど勝ってる田安のお嬢さんがまあそれなりに儲けてると……」

「そんな生易しいもんじゃねえ!」

 アメリアの茶々にかなめは思わず机を叩いて立ち上がった。

「ああ、あの馬鹿の面を思い出して興奮しちまった。そんなもんじゃねえ。アイツのもたらす不運と幸運の連鎖はそんな甘いもんじゃねえんだ」

 かなめはまるで何かにおびえてでもいるようにそう言った。

「まあ、アイツのラッキーはアタシも知ってるからな。アイツの買った馬が来るのは確実だからその馬を買おうとするが……何故か買えないんだ?」

「買えない?」

 不思議そうにカウラは尋ねる。かなめは大きくうなづいた。

「そうだ。よくあるのはアイツが買う馬を間違えるんだ。これはかなりの確率だ。まったく餓鬼じゃねえんだぞ!アタシが同じ馬を買おうとすると常に間違える」

「馬鹿なんじゃないの、やっぱり」

 アメリアは呆れた様子でかなめを見つめていた。

「最初から言ってるだろ?アイツは馬鹿だって。まあ、アタシも馬鹿じゃない。うまく同じ馬を買えるときもある。そういう時は決まってその馬は来る」

「なによ、勝ってるんじゃない!今度、おごりなさいよ!」

「早合点するなよアメリア。まあ、アイツは勝った訳だが……そういう時は必ず電光掲示板に『審議』の表示が出る」

「『審議』……進路妨害で失格か」

 カウラはそう言ってため息をついた。

「さすがギャンブルに詳しいカウラも競馬知ってんじゃないか。その通りだ。アタシとアイツが同じ馬を駆ったときは必ずその馬は失格する」

「偶然でしょ?」

 引きつった笑みを浮かべてアメリアが尋ねた。その表情を見てかなめは思わず吹き出しそうになる。

「アイツを知らないならそう思うだろうな。ただ、アタシはアイツと三つの時から付き合ってるんだ。アイツのラッキーは昔からだ。そして、それに誰も便乗できないのも同じ。アイツを知ってる奴で今でもアイツと付き合いがあるのはアタシだけじゃねえかな。一緒にいてもアイツだけ得をして周りはただ振り回されるだけだからな」

「西園寺。貴様、意外といい奴なんだな」

 カウラはしみじみとそう言った。

「カウラさん。西園寺さんはいい人ですよ。カウラさんが一番分かってるじゃないですか」

「ケッ」

 誠の優しいフォローの言葉にかなめはうんざりした顔をした。

「まあ田安中佐のラッキーは分かった。だが、常に勝者が田安中佐ならなんで司法局の監査室なんて閑職に飛ばされてきた?ツキがあるんだろ?田安中佐は」

 まだ納得ができないという表情でカウラはそう尋ねる。かなめはその言葉に大きくため息をつくと口を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

処理中です...