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第六章 誠がもたらした『世界』
第30話 誠を待つ宿命
しおりを挟むサインを書いた後、少し話をして冬哉が俺と同い年だと分かった。そして心臓に病を抱えていてずっと入院生活をしているということも聞いた。
そんな冬哉を励ましたくて、足が完治したあとも病院に通い続けた。病室でお互いのことを話すうちに、冬哉がピアニストになりたいという夢を抱いていることを教えてくれた。
俺がサインしたあの楽譜は、彼にとって大切なものだったのだ。ピアノを弾きたくて常に楽譜を見て頭の中でメロディーを奏でているのだと、笑いながら話してくれたことがある。
そんな冬哉に俺は、『退院したらピアノを披露してほしい』とお願いしたのだった。
それから一年が経ち俺たちはなんでも話せる親友となり、冬哉は俺のことを『サト』と呼ぶようになっていた。
性格は真逆で考え方もまったく違う。それでも一緒にいて心から楽しいと思える存在。彼は誰よりも、自転車でてっぺんを取りたいという俺の夢を応援してくれた。
その頃、一時退院した冬哉が自宅に招待してくれて、リビングの隣室にあったプレイルームへと連れて行かれた。そこには大きなグランドピアノがあって椅子に腰を下ろした冬哉が鍵盤にゆっくりと指をかけた。
あの日の俺のお願いを彼は覚えていてくれたのだ。
~~♪♪~~♪♪~~
~♪♪~~♪♪~~
嬉しそうに音を奏でる冬哉を見ていたら、なんだか感極まり視界が滲んだ。
このとき冬哉が弾いてくれたのが、リストの『愛の夢』だった。
壮大に、なおかつ感情豊かにそのすべてのメロディーを弾き終えると冬哉は満足げに笑ってみせた。そして、窓の方に目を向けてからこの曲にまつわるエピソードを語りだした。
それはショパンとリストの切なくも温かい話。
陽気なリストがサトで、寡黙なショパンが自分だと言って少し切なげに笑った。
冬哉が『リストのように華やかで、誰もが憧れる強いロードレーサーになってね』と言ってくれたので、俺も冬哉に『ショパンのような天才ピアニストになれよ』と言い返したけれど、彼はどこか困ったように笑ってみせた。
あとで知ったが、ショパンはその才能を惜しまれながら病に倒れ、若くして死んだそうだ。
冬哉は自分がもう長くは生きられないのだと心のどこかで悟っていたのかもしれない。
中学に上がる頃には、会話もできないほどに冬哉の病状は悪化した。
そして中学二年の夏。
彼が十四回目の誕生日を迎え数日が過ぎた頃、冬哉は安らかな顔をして天国へと旅立った。
それはあまりに残酷な別れで、そこから俺は心にぽっかりと穴が開いたまま、日々を過ごしていくことになる。
そんな冬哉を励ましたくて、足が完治したあとも病院に通い続けた。病室でお互いのことを話すうちに、冬哉がピアニストになりたいという夢を抱いていることを教えてくれた。
俺がサインしたあの楽譜は、彼にとって大切なものだったのだ。ピアノを弾きたくて常に楽譜を見て頭の中でメロディーを奏でているのだと、笑いながら話してくれたことがある。
そんな冬哉に俺は、『退院したらピアノを披露してほしい』とお願いしたのだった。
それから一年が経ち俺たちはなんでも話せる親友となり、冬哉は俺のことを『サト』と呼ぶようになっていた。
性格は真逆で考え方もまったく違う。それでも一緒にいて心から楽しいと思える存在。彼は誰よりも、自転車でてっぺんを取りたいという俺の夢を応援してくれた。
その頃、一時退院した冬哉が自宅に招待してくれて、リビングの隣室にあったプレイルームへと連れて行かれた。そこには大きなグランドピアノがあって椅子に腰を下ろした冬哉が鍵盤にゆっくりと指をかけた。
あの日の俺のお願いを彼は覚えていてくれたのだ。
~~♪♪~~♪♪~~
~♪♪~~♪♪~~
嬉しそうに音を奏でる冬哉を見ていたら、なんだか感極まり視界が滲んだ。
このとき冬哉が弾いてくれたのが、リストの『愛の夢』だった。
壮大に、なおかつ感情豊かにそのすべてのメロディーを弾き終えると冬哉は満足げに笑ってみせた。そして、窓の方に目を向けてからこの曲にまつわるエピソードを語りだした。
それはショパンとリストの切なくも温かい話。
陽気なリストがサトで、寡黙なショパンが自分だと言って少し切なげに笑った。
冬哉が『リストのように華やかで、誰もが憧れる強いロードレーサーになってね』と言ってくれたので、俺も冬哉に『ショパンのような天才ピアニストになれよ』と言い返したけれど、彼はどこか困ったように笑ってみせた。
あとで知ったが、ショパンはその才能を惜しまれながら病に倒れ、若くして死んだそうだ。
冬哉は自分がもう長くは生きられないのだと心のどこかで悟っていたのかもしれない。
中学に上がる頃には、会話もできないほどに冬哉の病状は悪化した。
そして中学二年の夏。
彼が十四回目の誕生日を迎え数日が過ぎた頃、冬哉は安らかな顔をして天国へと旅立った。
それはあまりに残酷な別れで、そこから俺は心にぽっかりと穴が開いたまま、日々を過ごしていくことになる。
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