法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
11 / 206
第三章 極秘法術研究施設

第11話 目的を知らされぬお出かけ

しおりを挟む
 食堂を追い出されて部屋に戻った誠は着替えを済ませると、部屋の隅に置かれた錦の袋に入っている部隊長の嵯峨惟基から拝領した日本刀によく似た刀、『バカバの剣』に手を伸ばした。

 その剣は400年前の遼州独立戦争の時に、独立の英雄『バカバ』が振るった遼帝国の国宝だと言う。なぜ、嵯峨がこの剣を持っているのかは誠には分からなかったが、とりあえずそれを手に取ると誠は剣を握りしめた。

『神前さんはお父様からいただいた刀を持っていらしてね』 

 部屋に戻る誠に茜がどういう意図でそう言ったのかは計りかねた。剣を持って来いと言うことは何かを斬ると言うことを意味していると思うのだが、誠には先ほどの遺体の写真とものを斬ると言うことが何処でつながるのか分からなかった。

 誠はずっしりと重い紫の袋に入れられた刀を握る。そしてそのまま紐を解いて金色の刺繍ししゅうが施された紫色の袋から刀を取り出した。剣道場の跡取りでもある誠は何度か日本刀には触ったことはあった。しかし、柄や拵えは明らかに東和や甲武国で作られた新刀とは趣が違った。

 鞘を払う。そしてそのまま自然に流れるような刃をじっと眺めた。銀色の刀身。おそらくは何人かの命がその波打つ刃で奪われたのかと思うと背筋に寒いものが走った。

「おい、何やってるんだ?切腹でもする気か?」 

 ノックもせずに部屋に入る遠慮の無い人物はかなめ以外にはいなかった。冬のよそ行きと言うようにスタジアムジャンパーにマフラー、いつものジーンズと言う姿の誠が正座をして真剣を眺めている光景はあまりにもシュールだったのでかなめは呆然と立ち尽くしていた。

「誠ちゃん!切腹でもするつもり?いいから来なさいよ!茜ちゃんが時間が無いって!」 

 デリカシーの無さではかなめに引けを取らないアメリアまでもが誠の部屋に入ってきてはなった一言に誠は我に返ると刀を鞘に納め、袋に仕舞って紐で閉じた。その手つきは剣道場の息子らしく、剣を扱うことになれている者のそれだった。

「自衛に刀か?叔父貴みたいな奴だな……ってあれも実際は拳銃くらいは持ち歩いているけどな。VZ52って言うチェコスロバキアの作った20世紀中期の拳銃だ。叔父貴はこいつで使える強装弾を使っててチタンの防弾チョッキでもぶち抜く奴を装備している。ローラーロッキングシステムのVZ52じゃねえと撃てねえサブマシンガン向けの弾が使えるのがこの銃の持ち味だ。うちのアモラーもあれには結構泣かされてるみてえだぞ」 

 諦めたようなかなめの声が響いた。誠もただ苦笑いを浮かべながらそのまま階段を下りて踊り場にたどり着いた。

「遅かったな、神前。じゃあ茜の車にはアメリアと島田とサラとラーナで。カウラの車にはアタシと西園寺と神前が乗る」 

 ランはそう言って乗車の割り振りを決めた。

「クバルカ中佐!なんで俺が茜さんの車に……あの車、香水きつ過ぎますよ!俺は嫌ですよ!」 

 島田が香水のきつい茜の車に乗るのを嫌がってそう言った。

「島田准尉。少しだけ我慢してくださいね。それと車内で暴れないで頂戴ね」

 茜は茜で負けていなかった。彼女もヤンキーである島田とは価値観がまるで違う人生を送って来たエリートだった。誠から見ても二人の相性は良いとは言い難かった。 

「あたしはなんでちっちゃい姐御と一緒なんだ?こっちの方もどうにかしてもらいてえな」

 かなめは慣れているカウラの『スカイラインGTR』に乗るのだから不満は無さそうなのだが、彼女としては口うるさい上司のランと一緒に乗るのはどうも気になる様だった。

「オメーには言っとく事が有る。日野の件だ。そう言えばオメーでも分かるだろ?」

 あっさりとそう言うランの言葉にかなめの顔が瞬時に青ざめた。

「かえでの馬鹿が何かやったのか?路上露出か?電車内露出か?それとも……それでどこの警察の拘置所に居るんだ?教えろ」

 かなめが妹であるかえでを徹底的なマゾヒストの露出狂へと調教したことは隊の全員が知るところだった。そしてかなめの言うどちらの犯罪をかえでが犯してもおかしくないと誠はかえでが誠に見てほしいと言う自分の行為を映した動画を見て知っていた。

「アイツには島田と違って学習能力が有る。どこの警察のお世話になっていると言う訳でもねー。むしろ仕事上の話だ」

 ランは冷静に取り乱すかなめをなだめた。

「仕事上の話ねえ……それだったら、小隊長同士カウラと話せば良いんじゃねえの?アタシは関係ないね」

 かなめは自分に火の粉が及ばないと悟ると安心して責任のすべてをカウラに押し付けた。

「だからクバルカ中佐は私の車に乗る。当然じゃないのか?貴様は私達の話をついでに聞けばいい。それだけの事だ」

 カウラは冷静に話を聞いていて微動だにすることは無かった。

「ほいじゃー行くぞ」

 ランの一言で食堂に集合していた一同は玄関へと向かった。いまだに、不服そうな島田の姿を見てサラが心配そうに彼を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

銀河英雄戦艦アトランテスノヴァ

マサノブ
SF
日本が地球の盟主となった世界に 宇宙から強力な侵略者が攻めてきた、 此は一隻の宇宙戦艦がやがて銀河の英雄戦艦と 呼ばれる迄の奇跡の物語である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...