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第一章 『特殊な部隊』の日常と非日常
第1話 珍しい客の到来
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「あの、皆さん……なんだか良く分かりませんけど、なんだか私の知らない作業をされているようなんですけど……一体何をそんなに一生懸命されてますの?まあ、いいですわ。それより今、少しお時間をいただけなくて?お仕事のお話ですの」
ここは豊川市南本宿1-3。ここは確かに遼州星系同盟機構司法局実働部隊の『男子下士官』寮の食堂のはずだった。本来はそのはずだった。その目的で司法局が用意した建物だった。その事実は今でも変わっていないはずだった。
しかし、今となってしまえばこの建物はすでに名目としての『男子』寮でも『下士官』寮でもなくなっていた。司法局本局の登録上はそうなっていても、実情はまるで違うものに成り果てていた。
言葉の主の嵯峨茜警部が指揮を取る、通称『法術特捜』が司法局実働部隊に捜査本部を間借りするようになったときには、すでに司法局実働部隊の人型機動兵器シュツルム・パンツァー部隊の女性隊員、カウラ・ベルガー大尉、西園寺かなめ大尉、そして運用艦『ふさ』艦長のアメリア・クラウゼ中佐はこの寮の住人となっていた。
この時点で『男子』寮でも『下士官』寮でもなくなってしまった。このことは司法局本局も把握しているはずだが、本局からは何の音沙汰も無かった。だから名目上は今でもここは『司法局実働部隊男子下士官寮』であると言うことに変わりはなかった。
司法局実働部隊隊長を務める茜の父、嵯峨惟基特務大佐に頼まれて茜自身も彼女達三人の引越しを手伝ったことがあった。特に荷物の無いカウラやかなめは別として、アニメや同人誌の収集の趣味のあるアメリアの引っ越しには大変な手間がかかった。結局、置ききれなかったそれらのグッズはアメリアのポケットマネーで借りたトランクルームに保存されていた。アメリアは時々そちらに出かけていっては、この寮の男子隊員達に彼等が欲しがる18禁の同人誌を貸し出して小銭を稼いでいた。
さらに彼女達三人や技術部整備班班長でこの寮の寮長島田正人准尉他数名の男性士官も住んでいると言うことで彼女達三人の士官がこの建物の住人になる以前に『下士官』寮と言う表現も本来は正確性を欠くものだったと茜は思っていた。すべては書類上の話。要するに『特殊な部隊』においては何でもありなのだと茜はこの寮の有様を見てそう理解した。
茜は紫の留袖の襟を整えながらそんな名称に疑問符がやたらと立ちそうな建物の食堂の入り口でただ中を眺めているだけだった。
その目の前に広がるこの寮の住人達がしている作業が学生時代は勉強に明け暮れてきて、趣味の世界の事にはとんと疎い茜の理解を超えたものだったのでただ立ち尽くしてその作業が一段落するのを待つしかなかった。
その光景は明らかに大の大人が非番の日にみんなで集まってやるようなものでは無い。大人である茜にはそう思えて、なぜこの司法局実働部隊が司法局本局から『特殊な部隊』と呼ばれ蔑まれているかをよく知るいい機会になったと前向きに理解することにした。
ここは豊川市南本宿1-3。ここは確かに遼州星系同盟機構司法局実働部隊の『男子下士官』寮の食堂のはずだった。本来はそのはずだった。その目的で司法局が用意した建物だった。その事実は今でも変わっていないはずだった。
しかし、今となってしまえばこの建物はすでに名目としての『男子』寮でも『下士官』寮でもなくなっていた。司法局本局の登録上はそうなっていても、実情はまるで違うものに成り果てていた。
言葉の主の嵯峨茜警部が指揮を取る、通称『法術特捜』が司法局実働部隊に捜査本部を間借りするようになったときには、すでに司法局実働部隊の人型機動兵器シュツルム・パンツァー部隊の女性隊員、カウラ・ベルガー大尉、西園寺かなめ大尉、そして運用艦『ふさ』艦長のアメリア・クラウゼ中佐はこの寮の住人となっていた。
この時点で『男子』寮でも『下士官』寮でもなくなってしまった。このことは司法局本局も把握しているはずだが、本局からは何の音沙汰も無かった。だから名目上は今でもここは『司法局実働部隊男子下士官寮』であると言うことに変わりはなかった。
司法局実働部隊隊長を務める茜の父、嵯峨惟基特務大佐に頼まれて茜自身も彼女達三人の引越しを手伝ったことがあった。特に荷物の無いカウラやかなめは別として、アニメや同人誌の収集の趣味のあるアメリアの引っ越しには大変な手間がかかった。結局、置ききれなかったそれらのグッズはアメリアのポケットマネーで借りたトランクルームに保存されていた。アメリアは時々そちらに出かけていっては、この寮の男子隊員達に彼等が欲しがる18禁の同人誌を貸し出して小銭を稼いでいた。
さらに彼女達三人や技術部整備班班長でこの寮の寮長島田正人准尉他数名の男性士官も住んでいると言うことで彼女達三人の士官がこの建物の住人になる以前に『下士官』寮と言う表現も本来は正確性を欠くものだったと茜は思っていた。すべては書類上の話。要するに『特殊な部隊』においては何でもありなのだと茜はこの寮の有様を見てそう理解した。
茜は紫の留袖の襟を整えながらそんな名称に疑問符がやたらと立ちそうな建物の食堂の入り口でただ中を眺めているだけだった。
その目の前に広がるこの寮の住人達がしている作業が学生時代は勉強に明け暮れてきて、趣味の世界の事にはとんと疎い茜の理解を超えたものだったのでただ立ち尽くしてその作業が一段落するのを待つしかなかった。
その光景は明らかに大の大人が非番の日にみんなで集まってやるようなものでは無い。大人である茜にはそう思えて、なぜこの司法局実働部隊が司法局本局から『特殊な部隊』と呼ばれ蔑まれているかをよく知るいい機会になったと前向きに理解することにした。
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