上 下
93 / 105
普段の一日

図書館と呼ばれる魔窟

しおりを挟む
「じゃあこれを図書館に運びましょう!」 

 昼食を終えたアイシャが誠達一同に声をかけてつれてきたのは駐車場の中型トラックの荷台だった。

「図書館?」 

 誠は嫌な予感がしてそのまま振り返った。

「逃げちゃ駄目じゃないの、誠ちゃん!あの部屋、この寮の欲望の詰まった神聖な隠し部屋よ!」 

「あそこですか……」 

 あきらめた誠が頭を掻く。西はそわそわしながらレベッカを見つめた。

「クラウゼ少佐。図書館や欲望って言われてもぴんとこないんだけどな」 

 ロナルドが手を上げてそう言った。隣で岡部とフェデロが頷く。

「それはね!これよ!」 

 そう言ってアイシャはダンボールの中から一冊の冊子を取り出してロナルドに渡す。ロナルドはそれを気も無く取り上げた次の瞬間、呆れたような表情でアイシャを見つめた。絡み合う裸の美少年達の絵の表紙。誠は自然と愛想笑いを浮かべていた。

「わかったんですが……こんなの堂々と見せるのは女性としては品格を欠くような気がするような……」 

「そういう事言う?まるでアタシが変態みたいじゃないの」 

「いや、みたいなんじゃなくて変態そのものなんだがな」 

 後ろからかなめが茶々を入れる。アイシャは腕を組んでその態度の大きなサイボーグをにらみつける。

「酷いこと言うわね、かなめちゃん。あなたに私が分けてあげた雑誌の一覧、誠ちゃんに見せてあげても良いんだけどなあ」 

「いえ!少佐殿はすばらしいです!さあ!みんな仕事にかかろうじゃないか!」 

 かなめのわざとらしい豹変に成り行きを見守っていたサラとパーラが白い目を向ける。とりあえずと言うことで、岡部、誠、フェデロ、西の四人がダンボールを抱えて寮に向かった。

「そう言えば棚とかまだ置いてないですよ……昨日部屋にあった奴は全部処分しちゃいましたし」 

 一際重いダンボールを持たされた誠がなんとか持ちやすいように手の位置を変えながらつぶやく。左右に揺れるたびに手に伝わる振動で誠は中身が雑誌の類だろうということが想像できた。

「ああ、それね。今度もまたキムとエダに頼んどいたのよ」 

「あいつ等も良い様に使われてるなあ」 

 誠の横を歩くかなめはがしゃがしゃと音がする箱を抱えている。そしてその反対側には対抗するようにカウラがこれも軽そうなダンボールをもって誠に寄り添って歩いている。

「これは私から寮に暮らす人々の生活を豊かにしようと言う提言を含めた寄付だから。かなめちゃんもカウラちゃんも見てもかまわないわよ」 

「私は遠慮する」 

 即答したのはカウラだった。それを見てかなめはざまあみろと言うように手ぶらで荷物持ちを先導しているアイシャに向けて舌を出す。

「オメエの趣味だからなあ。どうせ変態御用達の展開なんだろ?」 

「暑いわねえ、後ちょっとで秋になると言うのに」 

「ごまかすんじゃねえ!」 

 かなめが話を濁そうとしたアイシャに突っ込みを入れる。そんな二人を見て噴出した西にかなめが蹴りを入れた。

「階段よ!気をつけてね」 

 すっかり仕切りだしたアイシャに愚痴りながら誠達は寮に入った。

「はい!そこでいったん荷物を置いて……」 

「子供じゃないんですから」 

 先頭を歩いていた岡部が手早く靴を脱ぐ。西の段ボールから落ちた冊子を拾ったレベッカが真っ赤な顔をしてすぐに、西の置いたダンボールの中にもどしてしまう。

「二階まで持って行ったあとどうするんですか?まだ棚が届かないでしょ?」 

「仕方ないわね。まあそのまま読書会に突入と言うのも……」 

「こう言うものは一人で読むものじゃねえのか?」 

 そう言ったかなめにアイシャが生暖かい視線を送る。その瞬間アイシャの顔に歓喜の表情が浮かぶ。

「その、あれだ。恥ずかしいだろ?」 

 自分の言葉に気づいてかなめはうろたえていた。

「何が?別に何も私は言ってないんだけど」 

 アイシャは明らかに勝ったと宣言したいようないい笑顔を浮かべる。

「いい、お前に聞いたアタシが間抜けだった」 

 そう言うとかなめは誠の持っていたダンボールを持ち上げて、小走りで階段へと急ぐ。

「レベッカちゃん。もし好きなのが見つかったら借りて行ってもいいのよ」 

 アイシャのその言葉にレベッカは再び顔を赤らめてうつむく。

「しかし、気前が良いな。何のつもりだ?」 

 カウラが不思議そうにアイシャを見つめる。 

「これが布教活動と言うものよ!」 

 胸を張るアイシャに中身のあまり入っていない箱を抱えようとしていたサラとパーラは思わずそれを置いて頭を抱えた。嫌な予感がして誠はとりあえずかなめを追って二階に上がる。二階の空き部屋の前にはかなめが座っていた。

「西園寺さん」 

 声をかけると後ろに何かを隠すかなめがいた。

「脅かすんじゃねえよ」 

 引きつった笑みを浮かべるかなめの手には一冊の薄い本が握られていた。誠はとりあえず察してそのまま廊下を走り階段を降りた。

「西園寺は何をしている?」 

「さあ何でしょうねえ」 

 先頭を切って上がってくるカウラに誠はわざとらしい大声で答えた。二階の廊下に二人がたどり着くと空き部屋の前にはかなめが暇そうに立っていた。

「かなめちゃん早いわね」 

 アイシャの視線はまだ生暖かい。それが気になるようで、かなめは壁を蹴飛ばした。

「そんなことしたら壊れちゃうわよ」 

 サラがすばやくかなめの蹴った壁を確かめる。不機嫌なかなめを見てアイシャはすっかりご満悦だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推しのVTuberに高額スパチャするために世界最強の探索者になった男の話

福寿草真
ファンタジー
とあるVTuberを長年応援している主人公、柊木蓮也。ある日彼はふと思った。 「高額スパチャしてみてぇ」と。 しかし彼はしがないサラリーマンであり、高額スパチャを躊躇する程度の稼ぎしかない。そんな折、蓮也はダンジョン探索者の稼ぎが良いことを思い出し── これは『推しに高額スパチャしたい』という理由で探索者になり、あれよあれよと世界最強になってしまう1人のぶっ飛んだ男の物語。

新やる気が出る3つのDADA

Jack Seisex
SF
摩訶不思議な冒険SFダダ小説。

PULLUSTERRIER《プルステリア》

杏仁みかん
SF
人口爆発に大気汚染──地表に安全な場所を失いつつある現実世界に見切りをつけた人類は、争いのない仮想世界「プルステラ」へと移住する「アニマリーヴ計画」を施行するが、突如仕様外の怪物が現れ、大惨事となる。 武器が作れない仕様の中、人々はどうにか知恵を絞ってこれを対処。 現実世界へ戻れるゲートが開くのは、一年の試用期間後一度きり。本当に戻れるという保証もない。 七夕の日、見知らぬ少女ヒマリのアバターとなって転送された青年ユヅキは、アバターの不調の修正と、一緒に転送されなかった家族の行方を探すため、仲間たちと共に旅を始める。その旅の行方が、やがてアニマリーヴ計画の真相に迫ることになるとは知らずに。 ※コンテスト用に修正したバージョンがあります。 アルファポリスからは「PULLUSTERRIER 《プルステリア》(なろう版)」をどうぞ。

ワールドファイト

ドラルツア
SF
そこは色々な生物が住む世界に繋がる都市、日本。突如目覚めた少年は、近くに居たドラゴンとバディを組み、悪を始末するために様々な敵と戦い、強くなっていく。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【完結】可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?

りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。 オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。 前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。 「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」 「頼まれても引きとめるもんですか!」 両親の酷い言葉を背中に浴びながら。  行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。  王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。  話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。  それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと 奮闘する。      

システマティックな少女と一般サラリーマンな俺

伊駒辰葉
SF
普通のサラリーマンが少女(人間じゃない)を販売します! 少女は有機コンピュータです。 かなり前に賞獲りモノに投稿した作品です。 他のサイトで別ペンネーム(すじしまどじょう)で公開しています。 他の方の作品をコピーしている訳ではないので念のため。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

処理中です...