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引っ越し
食事を終えて
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「いいねえ、夏ってかんじでさ」
かなめは鍋の中のそうめんを箸で器用につまむ。誠は遠慮がちに箸を伸ばす。
「飲み物あるわよ」
パーラがそう言うとコーラのボトルを開けた。
「ラビロフ中尉!オレンジジュースお願いします!」
「じゃあ俺はコーラで良いや」
「ジンジャーエール!」
菰田、ヤコブ、ソンの三人が手を上げている。
「アタシは番茶でいいぜ。誠はどうするよ」
「僕も番茶で」
かなめが一口でそうめんを飲み下すとまた鍋に手を伸ばす。誠はたっぷりとつゆをつけた後で静かにそうめんをすすった。
「私も番茶で良い。甘いものはそうめんには合わない」
「そう?私コーラが欲しいんだけど」
カウラがゆっくりとそうめんをかみ締めるのを見ながらアイシャは手にしたコップをパーラに渡す。
「じゃあ俺はオレンジジュースをもらおうかな」
島田は菰田に対するあてつけとでも言うようにパーラが菰田のために注いだばかりのオレンジジュースを取り上げた。むっとした菰田を無視して島田はそれに口をつける。サラが気を利かせてすぐさまオレンジジュースをコップに注ぐと菰田達のところにジュースを運んだ。
「ここ数日は本当に夏らしいわねえ」
少なくなった鍋の中のそうめんをかき集めながらアイシャがしみじみとそう言った。その言葉でなんとなく一同は同意する意味を込めて黙り込んだ。夏らしい気分と先日の海の思い出をそれぞれに反芻しているようにも見えた。
「そう言えば荷物とかは良いんですか?」
誠は食べ終わったというように番茶を飲んでいるかなめに尋ねた。
「まあ、アタシはベッドと布団くらいかな、持ってくるのは。それより、こいつはどうするんだ?」
かなめが指差した先、そうめんをすすっているアイシャがいた。
「まあ、一度には無理っぽいし、トランクルームとか借りるつもりだから。テレビがらみの一式と漫画くらいかなあ、とりあえず持ってこなきゃならないのは」
「おい、あの量の漫画を運ぶ気か?床抜けるぞ」
冷やかすかなめだがアイシャは表情を変えずに言葉を続ける。
「私は漫画が無いと寝れないのよ。それに全部持ってくるつもりも無いし」
そう言うとアイシャはめんつゆを飲み干した。
「ご馳走様。ちょっとパーラ、コーラまだ?」
黙ってパーラがアイシャにコーラを渡す。アイシャは何も言わずに受け取ると、一息でコーラを飲み干し、空いたグラスをパーラに向ける。
「あのね、アイシャ。私まだ食べてないんだけど」
恨みがましい目でパーラはアイシャを見つめた。
「大丈夫よ、そうめんならまだあるから」
箸を置く春子の優雅な姿を見とれていた誠だったが、わき腹をかなめに小突かれて我に返った。
「俺はもう良いや。パーラさんもっと食べてくださいよ」
オレンジジュースを飲みながら島田も箸を置いた。
「そうね、あのアイシャの部屋を片付けに行くんだものね。それなりの覚悟と体力が必要だわ」
サラはそう言うとニコニコしながら急いで麺をすすっているパーラを眺める。
「なによその言い方。まるでアタシの部屋が汚いみたいじゃないの!」
「汚いのは部屋じゃなくてオメエの頭の中だもんな」
濃い目のつゆを飲みながらかなめが言ったその言葉に、思わずアイシャが向き直った。
「あなたの部屋なんて、どうせ銃とか手榴弾が転がってるんでしょ?そっちの方がよっぽど問題なん
じゃない?」
アイシャの言葉にかなめはまったく反応しない。そのまま口直しの番茶の入った湯のみを口元に運ぶ。
「それは無い。ただ灰皿が無数に転がっていただけだ」
同じように番茶をすすっていたカウラの言葉に驚いたようにかなめはお茶を噴出す。
「らしいわね。まるで女の子の部屋じゃ無いみたい」
「そう言うアイシャの部屋の漫画もほとんど誠ちゃんの部屋のとかわらない……」
サラが言葉を呑んだのはアイシャの頬が口を出すなと言っているように震えているのを見つけたからだ。
「はい、皆さん食べ終わったみたいだから、片付け手伝って頂戴」
春子が気を利かせて立ち上がる。黙って聞き耳を立てていた菰田達もその言葉に素直に従って空いた鍋につゆを入れていたコップを放り込む。
「島田。何もしなかったんだからテーブルくらい拭けよ」
そう言うと菰田は鍋を持って厨房に消えた。
「どうせあいつも何もしてねえんじゃないのか?まあいいや、サラ。そこにある布巾とってくれるか?」
サラから布巾を受け取った島田はサラと一緒にテーブルを拭き始める。
「おい、神前」
かなめの言葉に誠は振り向いた。そこには珍しくまじめな顔をしたかなめがいた。
「ちょっと荷物まとめるの手伝ってくれよ」
そう言うとそのまま頬を染めてうつむくかなめの姿に、誠は違和感を感じていた。
「そう言うことなのね」
黙って様子を見ていた茜が口にした言葉に、かなめは顔を上げてみるものの、何も言わずにまたうつむいた。そしてすぐに思い出したようにテーブルを拭いている島田に声をかけた。
「そう言やキムとエダの二人はどうしたんだ?」
「ごまかそうっていうの?あの二人なら私がトランクルーム借りる交渉に行ってくれてるのよ。もういくつか目星はつけてるんだけど、私のコレクションを収納するのにふさわしいところじゃなくっちゃね」
アイシャはそう言って胸を張る。ただ一同はその言葉に苦笑いを浮かべるだけだった。
かなめは鍋の中のそうめんを箸で器用につまむ。誠は遠慮がちに箸を伸ばす。
「飲み物あるわよ」
パーラがそう言うとコーラのボトルを開けた。
「ラビロフ中尉!オレンジジュースお願いします!」
「じゃあ俺はコーラで良いや」
「ジンジャーエール!」
菰田、ヤコブ、ソンの三人が手を上げている。
「アタシは番茶でいいぜ。誠はどうするよ」
「僕も番茶で」
かなめが一口でそうめんを飲み下すとまた鍋に手を伸ばす。誠はたっぷりとつゆをつけた後で静かにそうめんをすすった。
「私も番茶で良い。甘いものはそうめんには合わない」
「そう?私コーラが欲しいんだけど」
カウラがゆっくりとそうめんをかみ締めるのを見ながらアイシャは手にしたコップをパーラに渡す。
「じゃあ俺はオレンジジュースをもらおうかな」
島田は菰田に対するあてつけとでも言うようにパーラが菰田のために注いだばかりのオレンジジュースを取り上げた。むっとした菰田を無視して島田はそれに口をつける。サラが気を利かせてすぐさまオレンジジュースをコップに注ぐと菰田達のところにジュースを運んだ。
「ここ数日は本当に夏らしいわねえ」
少なくなった鍋の中のそうめんをかき集めながらアイシャがしみじみとそう言った。その言葉でなんとなく一同は同意する意味を込めて黙り込んだ。夏らしい気分と先日の海の思い出をそれぞれに反芻しているようにも見えた。
「そう言えば荷物とかは良いんですか?」
誠は食べ終わったというように番茶を飲んでいるかなめに尋ねた。
「まあ、アタシはベッドと布団くらいかな、持ってくるのは。それより、こいつはどうするんだ?」
かなめが指差した先、そうめんをすすっているアイシャがいた。
「まあ、一度には無理っぽいし、トランクルームとか借りるつもりだから。テレビがらみの一式と漫画くらいかなあ、とりあえず持ってこなきゃならないのは」
「おい、あの量の漫画を運ぶ気か?床抜けるぞ」
冷やかすかなめだがアイシャは表情を変えずに言葉を続ける。
「私は漫画が無いと寝れないのよ。それに全部持ってくるつもりも無いし」
そう言うとアイシャはめんつゆを飲み干した。
「ご馳走様。ちょっとパーラ、コーラまだ?」
黙ってパーラがアイシャにコーラを渡す。アイシャは何も言わずに受け取ると、一息でコーラを飲み干し、空いたグラスをパーラに向ける。
「あのね、アイシャ。私まだ食べてないんだけど」
恨みがましい目でパーラはアイシャを見つめた。
「大丈夫よ、そうめんならまだあるから」
箸を置く春子の優雅な姿を見とれていた誠だったが、わき腹をかなめに小突かれて我に返った。
「俺はもう良いや。パーラさんもっと食べてくださいよ」
オレンジジュースを飲みながら島田も箸を置いた。
「そうね、あのアイシャの部屋を片付けに行くんだものね。それなりの覚悟と体力が必要だわ」
サラはそう言うとニコニコしながら急いで麺をすすっているパーラを眺める。
「なによその言い方。まるでアタシの部屋が汚いみたいじゃないの!」
「汚いのは部屋じゃなくてオメエの頭の中だもんな」
濃い目のつゆを飲みながらかなめが言ったその言葉に、思わずアイシャが向き直った。
「あなたの部屋なんて、どうせ銃とか手榴弾が転がってるんでしょ?そっちの方がよっぽど問題なん
じゃない?」
アイシャの言葉にかなめはまったく反応しない。そのまま口直しの番茶の入った湯のみを口元に運ぶ。
「それは無い。ただ灰皿が無数に転がっていただけだ」
同じように番茶をすすっていたカウラの言葉に驚いたようにかなめはお茶を噴出す。
「らしいわね。まるで女の子の部屋じゃ無いみたい」
「そう言うアイシャの部屋の漫画もほとんど誠ちゃんの部屋のとかわらない……」
サラが言葉を呑んだのはアイシャの頬が口を出すなと言っているように震えているのを見つけたからだ。
「はい、皆さん食べ終わったみたいだから、片付け手伝って頂戴」
春子が気を利かせて立ち上がる。黙って聞き耳を立てていた菰田達もその言葉に素直に従って空いた鍋につゆを入れていたコップを放り込む。
「島田。何もしなかったんだからテーブルくらい拭けよ」
そう言うと菰田は鍋を持って厨房に消えた。
「どうせあいつも何もしてねえんじゃないのか?まあいいや、サラ。そこにある布巾とってくれるか?」
サラから布巾を受け取った島田はサラと一緒にテーブルを拭き始める。
「おい、神前」
かなめの言葉に誠は振り向いた。そこには珍しくまじめな顔をしたかなめがいた。
「ちょっと荷物まとめるの手伝ってくれよ」
そう言うとそのまま頬を染めてうつむくかなめの姿に、誠は違和感を感じていた。
「そう言うことなのね」
黙って様子を見ていた茜が口にした言葉に、かなめは顔を上げてみるものの、何も言わずにまたうつむいた。そしてすぐに思い出したようにテーブルを拭いている島田に声をかけた。
「そう言やキムとエダの二人はどうしたんだ?」
「ごまかそうっていうの?あの二人なら私がトランクルーム借りる交渉に行ってくれてるのよ。もういくつか目星はつけてるんだけど、私のコレクションを収納するのにふさわしいところじゃなくっちゃね」
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