レジェンド・オブ・ダーク遼州司法局異聞 2 「新たな敵」

橋本 直

文字の大きさ
上 下
73 / 105
引っ越し

食事を終えて

しおりを挟む
「いいねえ、夏ってかんじでさ」 

 かなめは鍋の中のそうめんを箸で器用につまむ。誠は遠慮がちに箸を伸ばす。

「飲み物あるわよ」 

 パーラがそう言うとコーラのボトルを開けた。

「ラビロフ中尉!オレンジジュースお願いします!」 

「じゃあ俺はコーラで良いや」 

「ジンジャーエール!」 

 菰田、ヤコブ、ソンの三人が手を上げている。

「アタシは番茶でいいぜ。誠はどうするよ」 

「僕も番茶で」 

 かなめが一口でそうめんを飲み下すとまた鍋に手を伸ばす。誠はたっぷりとつゆをつけた後で静かにそうめんをすすった。

「私も番茶で良い。甘いものはそうめんには合わない」 

「そう?私コーラが欲しいんだけど」 

 カウラがゆっくりとそうめんをかみ締めるのを見ながらアイシャは手にしたコップをパーラに渡す。

「じゃあ俺はオレンジジュースをもらおうかな」 

 島田は菰田に対するあてつけとでも言うようにパーラが菰田のために注いだばかりのオレンジジュースを取り上げた。むっとした菰田を無視して島田はそれに口をつける。サラが気を利かせてすぐさまオレンジジュースをコップに注ぐと菰田達のところにジュースを運んだ。

「ここ数日は本当に夏らしいわねえ」 

 少なくなった鍋の中のそうめんをかき集めながらアイシャがしみじみとそう言った。その言葉でなんとなく一同は同意する意味を込めて黙り込んだ。夏らしい気分と先日の海の思い出をそれぞれに反芻しているようにも見えた。

「そう言えば荷物とかは良いんですか?」 

 誠は食べ終わったというように番茶を飲んでいるかなめに尋ねた。

「まあ、アタシはベッドと布団くらいかな、持ってくるのは。それより、こいつはどうするんだ?」 

 かなめが指差した先、そうめんをすすっているアイシャがいた。

「まあ、一度には無理っぽいし、トランクルームとか借りるつもりだから。テレビがらみの一式と漫画くらいかなあ、とりあえず持ってこなきゃならないのは」 

「おい、あの量の漫画を運ぶ気か?床抜けるぞ」

 冷やかすかなめだがアイシャは表情を変えずに言葉を続ける。 

「私は漫画が無いと寝れないのよ。それに全部持ってくるつもりも無いし」 

 そう言うとアイシャはめんつゆを飲み干した。

「ご馳走様。ちょっとパーラ、コーラまだ?」 

 黙ってパーラがアイシャにコーラを渡す。アイシャは何も言わずに受け取ると、一息でコーラを飲み干し、空いたグラスをパーラに向ける。

「あのね、アイシャ。私まだ食べてないんだけど」 

 恨みがましい目でパーラはアイシャを見つめた。

「大丈夫よ、そうめんならまだあるから」 

 箸を置く春子の優雅な姿を見とれていた誠だったが、わき腹をかなめに小突かれて我に返った。

「俺はもう良いや。パーラさんもっと食べてくださいよ」 

 オレンジジュースを飲みながら島田も箸を置いた。

「そうね、あのアイシャの部屋を片付けに行くんだものね。それなりの覚悟と体力が必要だわ」 

 サラはそう言うとニコニコしながら急いで麺をすすっているパーラを眺める。

「なによその言い方。まるでアタシの部屋が汚いみたいじゃないの!」 

「汚いのは部屋じゃなくてオメエの頭の中だもんな」 

 濃い目のつゆを飲みながらかなめが言ったその言葉に、思わずアイシャが向き直った。

「あなたの部屋なんて、どうせ銃とか手榴弾が転がってるんでしょ?そっちの方がよっぽど問題なん
じゃない?」 

 アイシャの言葉にかなめはまったく反応しない。そのまま口直しの番茶の入った湯のみを口元に運ぶ。

「それは無い。ただ灰皿が無数に転がっていただけだ」 

 同じように番茶をすすっていたカウラの言葉に驚いたようにかなめはお茶を噴出す。

「らしいわね。まるで女の子の部屋じゃ無いみたい」 

「そう言うアイシャの部屋の漫画もほとんど誠ちゃんの部屋のとかわらない……」 

 サラが言葉を呑んだのはアイシャの頬が口を出すなと言っているように震えているのを見つけたからだ。

「はい、皆さん食べ終わったみたいだから、片付け手伝って頂戴」 

 春子が気を利かせて立ち上がる。黙って聞き耳を立てていた菰田達もその言葉に素直に従って空いた鍋につゆを入れていたコップを放り込む。

「島田。何もしなかったんだからテーブルくらい拭けよ」 

 そう言うと菰田は鍋を持って厨房に消えた。

「どうせあいつも何もしてねえんじゃないのか?まあいいや、サラ。そこにある布巾とってくれるか?」

 サラから布巾を受け取った島田はサラと一緒にテーブルを拭き始める。

「おい、神前」

 かなめの言葉に誠は振り向いた。そこには珍しくまじめな顔をしたかなめがいた。

「ちょっと荷物まとめるの手伝ってくれよ」 

 そう言うとそのまま頬を染めてうつむくかなめの姿に、誠は違和感を感じていた。

「そう言うことなのね」 

 黙って様子を見ていた茜が口にした言葉に、かなめは顔を上げてみるものの、何も言わずにまたうつむいた。そしてすぐに思い出したようにテーブルを拭いている島田に声をかけた。

「そう言やキムとエダの二人はどうしたんだ?」 

「ごまかそうっていうの?あの二人なら私がトランクルーム借りる交渉に行ってくれてるのよ。もういくつか目星はつけてるんだけど、私のコレクションを収納するのにふさわしいところじゃなくっちゃね」

 アイシャはそう言って胸を張る。ただ一同はその言葉に苦笑いを浮かべるだけだった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒトシと一緒!

ねこにごはん
SF
 (゚)(゚) 彡  と & (´・ω・`)

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

堕天使と悪魔の黙示録

RYU
SF
〜舞台は23世紀の超巨大都市『メガ・メガロポリス』〜 アンドロイドが自由意思を持ち、彼等は人間社会を蹂躙し人類にとって驚異となる存在となっていた時代ー。 とあるメカオタクで女嫌いな青年は、過去のトラウマから心を閉ざし誰にも関心を示さず、日々マシンの組み立てと整備の仕事に精力を注いでいた。 そして、転機は訪れるー。 彼はとあるバイクレースに出場し、過去の事件の重大な鍵を握る因縁の相手に遭遇した。そこで、自分の複雑な生い立ちや、アンドロイドに仲間や育ての親を殺された悲惨な過去のの全容が明るみに出てくるのであった。 そんな中ー、亡くなった初恋の人にそっくりの顔貌の童顔の女性と対峙し行動を共にする事になる。 彼女は、こう言い放つ。 『私があなたを守りますからー。』 彼女は宿敵の鍵を握っており、戦闘能力は次元を超えたレベルだった。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

終わりなき理想郷

DDice
SF
深淵が縁に手をかけ始めている。地は揺らめき、空は歪んでいる。 現代社会の中で多くの不可解な事象に見舞われる彼らがどう生きるのか。 ここに、新たなクトゥルフ神話が降臨する。 本作は【小説家になろう】【カクヨム】でも投稿しております。 本作は不定期更新です。

次元トランジット 〜時空を超えた先にあるもの〜

柿村 呼波
SF
 近頃では3Dプリンターを使って家が建ち屋上にはドローン専用発着場を個人が所有することが普通になってきた。 そんな時代の流れに逆らうように大通りから1本裏道に入ったその場所には、ひっそりと佇む古城を思わせる建物が立っている。レストラン・ブルーローズはそこにあった。 その店のオーナー九条薫は一風変わった力を持っている。 それは『過去や未来、そして異次元へと繋がる扉を開く』という特殊とも言える能力だった。 異次元へと繋がる扉を体感できるのは『ディメンション』という名の九条のもう1つの店に辿り着いた者だけ 。 いつしか特殊能力の話が都市伝説のようにして広がり、いつしかそれは『ディメンションに行き店主に会えれば必ず過去へ行ける』と言われるようになっていた。  そんなある日、九条の元に過去へ行きたいと言う女が現れた。何でも一目惚れした男が自分以外の女と結婚してしまったので、結婚が成立する前の時間に行きたいというのだ。 その後無事過去へと行った女には気付かれないように、次元監視者という防犯カメラのような存在がその女の行動を監視していた。  レストラン・ブルーローズでピアニストとして働く蒼井静佳は、九条の居るディメンションの控室にその日の演奏確認に行ったはずなのになぜか次元管理者見習いとして過去に行くことになってしまった。 気付いた時には監視対象を見失わないように急かされ過去へと向かっていた。次元監視者の先輩と行った初仕事は、5次元を通って余剰次元である6次元へ行くという何とも奇妙なものだった。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...