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休日の終わりに

寮長

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「たぶん島田がまだいるだろうから挨拶して行くか?」 

「そうだな。一応、奴が寮長だからな」 

 心配する誠を置いて歩き出す女性陣。頭を抱えながら誠はその後に続いた。

 管理部ではまだシンの菰田への説教が続いていた。飛び火を恐れて皆で静かに階段を降りてハンガーに向かう。話題の人、島田准尉は当番の整備員達を並ばせて説教をしているところだった。

「おう、島田。サラはどうしたんだ」 

 かなめの突然の声に島田は驚いたように振り向いた。

「止めてくださいよ、西園寺さん。俺にも面子ってもんがあるんですから」 

 そう言って頭を掻く。整列されていた島田の部下達の顔にうっすらと笑みが浮かんでいるのが見える。島田は苦々しげに彼らに向き直った。もうすでに島田には威厳のかけらも無い。

「とりあえず報告は常に手短にな!それじゃあ解散!」 

 整備員達は敬礼しながら、一階奥にある宿直室に走っていく。

「サラ達なら帰りましたよ。もしかするとお姉さん達とあまさき屋で飲んでるかも知れませんが……」 

 そう言って足元の荷物を取ろうとした島田にアイシャが走り寄って手を握り締めた。

「島田君ね。良いニュースがあるのよ」 

 アイシャの良いニュースが島田にとって良いニュースであったことは、誠が知る限りほとんど無い。いつものように面倒を押し付けられると思った島田が苦い顔をしながらアイシャを見つめている。

「ああ、アタシ等オメエのところに世話になることになったから」 

「よろしく頼む」 

 島田はまずかなめの顔を見た。何度と無くだまされたことがあるのだろう。島田は表情を変えない。次に島田はカウラの顔を見た。カウラは必要なことしか言わないことは島田も知っている。そこで表情が変わり、目を輝かせて島田を見ているアイシャを見た。

「それって寮に来るってことですか?」 

「そうに決まってるじゃない!」 

 アイシャの叫びを聞くと島田はもう一度かなめを見る。その視線がきつくなっているのを感じてすぐにカウラに目を移す。

「よろしく……頼む」 

 照れながらカウラが頭を下げる。

「ちょっと、どういうことですか……神前。説明しろ」 

「それは……」

 とても考えが及ばない事態に喜べばいいのか悲しめばいいのかわからず慌てている島田に誠はどういう言葉をかけるべきか迷う。 

「あのね島田君。私達は今度、誠君と結婚することにしたの!それで……」 

 アイシャの軽口に島田はぽかんと口を開ける。

「ふざけんな!この嘘つきが!」 

 かなめのチョップがアイシャを撃つ。痛みに頭を抱えてアイシャはしゃがみこんだ。

「冗談に決まってるじゃないの……」 

 頭をさする。かなめのチョップは本気に近かったのだろう、アイシャの目からは涙が流れていた。

「お前ではだめだ。神前!説明しろ」 

 そう言うカウラの顔を見てアイシャは仕方なく引き下がる。 

「三人は僕の護衛のために寮に引っ越してきてくれるんですよ」 

 島田は全員の顔を見た。そして首をひねる。もう一度全員の顔を見回した後、ようやく口を開いた。

「隊長の許可は?」 

「叔父貴はOKだと」 

 かなめの言葉を反芻するように頷いた島田がまた全員の顔を眺める。

「まだわからねえのか?」 

「つまり、三人が寮に入るってことですよね?」 

「さっきからそう言っているだろ!」 

 さすがに同じことを繰り返している島田にカウラが切れた。そこでようやく島田も状況を理解したようだった。

「でも、まとまって空いてるのは三階の西側だけだったと思いますよ。良いんすか?」 

 携帯端末を取り出し、その画面を見つめながら島田が確認する。

「神前の安全のためだ、仕方ねえだろ?」 

 かなめがそう言ってうつむく。

「何よ、照れてるの?」 

「アイシャ、グーでぶたれたいか?」 

 かなめは向き直ってアイシャにこぶしを見せる。その有様を見つめながら島田は手にした通信端末でメールを打ち始める。

「明日は掃除で、次の日に荷物搬入ってな日程で良いですよね?」 

「私は良いがアイシャが……」 

 カウラはそう言うとかなめにヘッドロックされているアイシャを見る。

「無理よ!荷物だって結構あるんだから」 

「あのなあ、お前のコレクション全部運べってわけじゃねえんだよ」 

 そう言って脇に挟んだアイシャの頭をかなめはねじり続ける。

「送信っと」 

 島田は二人の様子を確認しながら携帯電話の画面を見つめている。かなめは島田の手元を目で確認すると、ようやくアイシャを解放した。

「じゃあ、アタシ等帰るわ」 

 かなめはそう言うと誠の手をつかんだ。

「カウラ、車を回せ!」 

「わかった」 

「じゃあ私はジュース買ってくるわ」 

「カウラはメロンソーダだぞ!」 

「知ってるわよ!」 

 誠はこうなったら何を言っても無駄だとあきらめることをこの一月で学んでいた。誠は得意満面の笑顔で大股で歩くかなめの後ろを照れながら歩くことにした。
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