58 / 105
休日の終わりに
食えないおっさん
しおりを挟む
誰もいないと思っていた管理部の部屋に明かりが灯っていた。中を覗けば頭を下げ続けている菰田と、私服姿で書類を手にしながらそれを叱責している管理部部長、アブドゥール・シャー・シンの姿があった。
「すっかり事務屋が板についてきたな、シンの旦那」
横目で絞られている菰田を見てにやけた顔をしながらかなめがこぼす。実働部隊控え室には明かりは無い、そのまま真っ直ぐ歩くかなめ。隊長室の扉は半開きで、そこからきついタバコの香りが漂う。
「……例の件ですか?そりゃあ俺んとこ持ってこられても困りますよ。うちは探偵事務所じゃないんですから、公安の方に……って断られたんでしょうね、その調子じゃあ」
「おい!叔父貴!」
ノックもせずにかなめが怒鳴り込んだ。電話中の嵯峨は口に手を当てて静かにするように促す。カウラ、茜、アイシャ、誠はそれぞれ遠慮もせずに部屋に入る。レベッカは少し躊躇していたが、誠達のほとんど自分の部屋に入るようにためらいの無い様を見て、続けて部屋に入りソファーに腰をかけようとするが、見ただけでわかる金属の粉末を見てそれを止める。
「……そんな予算があればうちだって苦労しませんよ。わかります?それじゃあ」
嵯峨は受話器を置いた。めんどくさい。嵯峨の顔はそういう内容だったと言うことを露骨に語っているように見えた。
「東和の内務省の誰かってとこだろ?」
部屋の隅の折りたたみ机の上に並んでいる拳銃のスライドを手に取りながらかなめが口を出した。
「まあそんなとこか。さっさと帰れよ。疲れてんだろ?」
そう言って嵯峨は浅く座っていた部隊長の椅子の背もたれに体を投げる。そのやる気の無い態度にかなめが机を叩いた。困ったように嵯峨は眉を寄せる。鉄粉でむせる誠を親指で指差してかなめが叔父である嵯峨をにらみつけた。
「じゃあ、こいつが疲れてる理由はどうするんだ?」
かなめが誠を指さした。またいつもの叔父と姪の決まりきった喧嘩が始まった。そう言う表情でアイシャはため息をついている。
「俺のせい?」
そう言って嵯峨は頭を掻く。アイシャ、カウラ、そして茜も黙ったまま嵯峨を見つめている。
「どう言えば納得するわけ?」
「今日襲ってきた馬鹿の身元でもわかればとっとと帰るつもりだよ」
かなめは机に乗っていた拳銃のスライドを手に取る。彼女は何度も傾けては手で撫でている。嵯峨は頭を掻きながら話し始めた。
「たしかにオメエさんの言うことはわかるよ。誰が糸を引いているのかわからない敵に襲われて疑問を感じないほうがどうかしてる。しかも明らかにこれまで神前を狙ってきた馬鹿とは違うやり口だ」
「そうだよ。今度のは誠の馬鹿や叔父貴と同じ法術使いだ。しかもご大層に『遼州を解放する』とかお題目並べての登場だ。ただの愉快犯やおつむの具合の悪い通り魔なんぞじゃねえ」
かなめはそう言いながら拳銃のバレルを取り上げリコイルスプリングをはめ込み、スライドに装着する。
「予想してなかった訳じゃねえよ。遼州の平均所得は例外の東和を除けば地球の半分前後だ、結局は世の中金だ。分け前が少ないことで不穏分子が出てこないほうが不思議な話と言えるくらいだからな」
そう言うと伸びをして大きなあくびをするのがいかにも嵯峨らしく見えた。
「そう言うこと聞いてんじゃねえよ。明らかに法術に関する訓練を受けたと思われる組織がこちらの情報を把握した上で敵対行動を取った。そこが問題なんだ」
かなめはそのまま嵯峨の机のそばに行って中の部品を手に取る。いくつか机の上に置かれた拳銃のフレームから、手にしたスライドにあうものを見つけるとかなめはそれを組み上げた。
「つまりだ。アタシ等も知らない法術に関する知識を豊富に持ち、さらに適正所有者を育成・訓練するだけの組織力を持った団体が敵対的意図を持って行動を開始しているって事実が、何でアタシ等の耳に入らなかったかと言うことが聞きたくてここに来たんだよ!」
かなめは拳銃を組み上げてそのままテーブルに置いた。かなめの手が嵯峨の机を再び叩いて大量の鉄粉を巻き上げることにならなかったことに誠は安堵する。
嵯峨は困ったような顔をしていた。誠はこんな表情の嵯峨を見たことが無かった。常に逃げ道を用意してから言葉を発するところのある隊長として知られている。のらりくらりと言い訳めいた言動を繰り返して相手を煙に撒くのが彼の十八番だ。だが、かなめの質問を前に明らかに答えに窮している。
「どうなんだ?心当たりあるんじゃねえのか?」
かなめがさらに念を押す。隊長室にいる誰もが嵯峨の出方を伺っていた。誠を襲った刺客。前回は嵯峨が吉田に命じて行った誠の情報のリークがきっかけだった。そんな前回の事情があるだけに全員が嵯峨を不信感を漂わせつつにらみつけていた。
「すっかり事務屋が板についてきたな、シンの旦那」
横目で絞られている菰田を見てにやけた顔をしながらかなめがこぼす。実働部隊控え室には明かりは無い、そのまま真っ直ぐ歩くかなめ。隊長室の扉は半開きで、そこからきついタバコの香りが漂う。
「……例の件ですか?そりゃあ俺んとこ持ってこられても困りますよ。うちは探偵事務所じゃないんですから、公安の方に……って断られたんでしょうね、その調子じゃあ」
「おい!叔父貴!」
ノックもせずにかなめが怒鳴り込んだ。電話中の嵯峨は口に手を当てて静かにするように促す。カウラ、茜、アイシャ、誠はそれぞれ遠慮もせずに部屋に入る。レベッカは少し躊躇していたが、誠達のほとんど自分の部屋に入るようにためらいの無い様を見て、続けて部屋に入りソファーに腰をかけようとするが、見ただけでわかる金属の粉末を見てそれを止める。
「……そんな予算があればうちだって苦労しませんよ。わかります?それじゃあ」
嵯峨は受話器を置いた。めんどくさい。嵯峨の顔はそういう内容だったと言うことを露骨に語っているように見えた。
「東和の内務省の誰かってとこだろ?」
部屋の隅の折りたたみ机の上に並んでいる拳銃のスライドを手に取りながらかなめが口を出した。
「まあそんなとこか。さっさと帰れよ。疲れてんだろ?」
そう言って嵯峨は浅く座っていた部隊長の椅子の背もたれに体を投げる。そのやる気の無い態度にかなめが机を叩いた。困ったように嵯峨は眉を寄せる。鉄粉でむせる誠を親指で指差してかなめが叔父である嵯峨をにらみつけた。
「じゃあ、こいつが疲れてる理由はどうするんだ?」
かなめが誠を指さした。またいつもの叔父と姪の決まりきった喧嘩が始まった。そう言う表情でアイシャはため息をついている。
「俺のせい?」
そう言って嵯峨は頭を掻く。アイシャ、カウラ、そして茜も黙ったまま嵯峨を見つめている。
「どう言えば納得するわけ?」
「今日襲ってきた馬鹿の身元でもわかればとっとと帰るつもりだよ」
かなめは机に乗っていた拳銃のスライドを手に取る。彼女は何度も傾けては手で撫でている。嵯峨は頭を掻きながら話し始めた。
「たしかにオメエさんの言うことはわかるよ。誰が糸を引いているのかわからない敵に襲われて疑問を感じないほうがどうかしてる。しかも明らかにこれまで神前を狙ってきた馬鹿とは違うやり口だ」
「そうだよ。今度のは誠の馬鹿や叔父貴と同じ法術使いだ。しかもご大層に『遼州を解放する』とかお題目並べての登場だ。ただの愉快犯やおつむの具合の悪い通り魔なんぞじゃねえ」
かなめはそう言いながら拳銃のバレルを取り上げリコイルスプリングをはめ込み、スライドに装着する。
「予想してなかった訳じゃねえよ。遼州の平均所得は例外の東和を除けば地球の半分前後だ、結局は世の中金だ。分け前が少ないことで不穏分子が出てこないほうが不思議な話と言えるくらいだからな」
そう言うと伸びをして大きなあくびをするのがいかにも嵯峨らしく見えた。
「そう言うこと聞いてんじゃねえよ。明らかに法術に関する訓練を受けたと思われる組織がこちらの情報を把握した上で敵対行動を取った。そこが問題なんだ」
かなめはそのまま嵯峨の机のそばに行って中の部品を手に取る。いくつか机の上に置かれた拳銃のフレームから、手にしたスライドにあうものを見つけるとかなめはそれを組み上げた。
「つまりだ。アタシ等も知らない法術に関する知識を豊富に持ち、さらに適正所有者を育成・訓練するだけの組織力を持った団体が敵対的意図を持って行動を開始しているって事実が、何でアタシ等の耳に入らなかったかと言うことが聞きたくてここに来たんだよ!」
かなめは拳銃を組み上げてそのままテーブルに置いた。かなめの手が嵯峨の机を再び叩いて大量の鉄粉を巻き上げることにならなかったことに誠は安堵する。
嵯峨は困ったような顔をしていた。誠はこんな表情の嵯峨を見たことが無かった。常に逃げ道を用意してから言葉を発するところのある隊長として知られている。のらりくらりと言い訳めいた言動を繰り返して相手を煙に撒くのが彼の十八番だ。だが、かなめの質問を前に明らかに答えに窮している。
「どうなんだ?心当たりあるんじゃねえのか?」
かなめがさらに念を押す。隊長室にいる誰もが嵯峨の出方を伺っていた。誠を襲った刺客。前回は嵯峨が吉田に命じて行った誠の情報のリークがきっかけだった。そんな前回の事情があるだけに全員が嵯峨を不信感を漂わせつつにらみつけていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
おしっこ我慢が趣味の彼女と、女子の尿意が見えるようになった僕。
赤髪命
青春
~ある日目が覚めると、なぜか周りの女子に黄色い尻尾のようなものが見えるようになっていた~
高校一年生の小林雄太は、ある日突然女子の尿意が見えるようになった。
(特にその尿意に干渉できるわけでもないし、そんなに意味を感じないな……)
そう考えていた雄太だったが、クラスのアイドル的存在の鈴木彩音が実はおしっこを我慢することが趣味だと知り……?
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記
砂嶋真三
SF
WEB小説「巨乳戦記」を愛する男は、目覚めると太陽系を治めるモブ領主になっていた。
蛮族の艦隊が迫る中、夢だと思い込んだ男は、原作知識を活かし呑気に無双する。
巨乳秘書、巨乳メイド、巨乳艦長、そしてロリまでいる夢の世界であった。
――と言いつつ、割とガチ目の戦争する話なのです。
・あんまり科学しませんので、難しくないです。
・巨乳美女、合法ロリ、ツン美少女が出ますが、えっちくありません。
・白兵戦は、色々理由を付けて剣、槍、斧で戦います。
・艦隊戦は、色々理由を付けて陣形を作って戦います。
・わりとシリアスに残酷なので、電車で音読すると捕まります。
・何だかんだと主人公は英雄になりますが、根本的には悪党です。
書いている本人としては、ゲーム・オブ・スローンズ的な展開かなと思っています。
アマルガム
シノヤン
SF
ホールと呼ばれる異次元と現実を繋ぐ狭間が出現し、そこを行き来する未確認生命体による事件や犯罪が多発する世界。世界最大の都市、スカ―グレイブで暮らしていたフリーターであるジン・イナバは、謎の男の手によって人間でありながら未確認生命体の力を持つ存在「アマルガム」へと変えられてしまう。強大すぎる力に戸惑う彼は、やがて未確認生命体犯罪の最終兵器として民間軍事会社「レギオン」に雇われる事となってしまうが…!?痛快すぎるサイバーパンク・ファンタジーが今、幕を開ける。
小説家になろう及びカクヨムでも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる