45 / 105
バーベキュー
軽い平和
しおりを挟む
「かなめちゃん!遅いよ!」
相変わらずシャムは黄色いスイムキャップを被りなおして。何度見ても誠には小学生に見えた。
「交代だ。とっとと食って来い!」
「了解!」
シャムと小夏はすばやく立ち上がって敬礼すると、そのままリアナ達のところへと急いだ。
「さて、腹は膨らんだし、海でも見ながらのんびりするか」
そう言うとかなめはまたパラソルの下で横になった。誠はその横に座った。海からの風は心地よく頬を
通り過ぎていく。かなめの横顔。サングラス越しだが、満足げに海を見つめていた。
「じろじろ見るなよ、恥ずかしい」
らしくも無い言葉をつぶやいてかなめはうつむく。誠は仕方なく目をそらすと目の前の浜辺ではしゃぐ別のグループの姿を見ていた。
「平和だねえ」
かなめののんびりとした言葉に誠は思わず苦笑いを浮かべていた。
「そう言えば西園寺さん。こんなことしてていいんですかね」
照れるのをごまかすために引き出した誠の話題がそれだった。
「なんだよ。突然」
めんどくさそうにかなめが起き上がる。額に乗せていたサングラスをかけ、眉間にしわを寄せて誠を見つめる。
「さっきの東方開発公社の件か?あれは公安と所轄の連中の仕事だ。それで飯を食ってる奴がいるんだから、アタシ等が手を出すのはお門違いだよ」
そう言うと再びタバコに火をつけた。
「でもまあ東方か、ずいぶんと世話になったんだがな」
タバコの煙を吐き出すと、サングラス越しに沖を行く貨物船を見ながらかなめがつぶやいた。
「やはり胡州陸軍と繋がってるんでしょうか?」
かなめは胡州帝国陸軍非正規作戦部隊の出身であることは隊では知られた話だ。
五年ほど前、東都港を窓口とする非合法物資のもたらす利権をめぐり、マフィアから大国の特殊部隊までもが絡んで、約二年にわたって繰り広げられた抗争劇。その渦中にかなめの姿があったことは公然の事実だった。そんなことを思い出している誠を知ってか知らずか、かなめは遠くを行く貨物船を見ながら悠然とタバコをくゆらす。
「アタシ等の作戦に関する、物資や拠点の提供、ターゲットの情報、現在の司直の捜査状況の把握。いろいろとまあ世話になったよ。昔からあそこはそう言うことも業務の一つでやってたみたいだからな」
まるで当たり前のように口にするかなめの言葉の危険性に誠は冷や汗をかくが、そのまま話を続けた。
「そんな危ない会社ならなんですぐに捜索をしなかったんですか?この一ヶ月、僕等がもたもたしていたせいで一番利益を得た人間達が東方開発公社を使って資金洗浄をして免罪符を手に入れたのかもしれないんですよ」
誠は正直悔しくなっていた。一応、自分も司法局員である。司法執行部隊の実力行使部隊として、自分が出動し、一つの捜査の方向性をつけたと言える近藤事件が骨抜きにされた状態で解決されようとするのが悔しかった。
「お前、なんか勘違いしてるだろ」
サングラスを外したかなめが真剣な目で誠を見つめてくる。
「アタシ等の仕事は真実を見つけるってことじゃねえんだ。そんなことは裁判官にでも任して置け。アタシ等がしなければならないことは、利権に目が血走ったり、自分の正義で頭がいかれちまったり、名誉に目がくらんだりした戦争ジャンキーの剣を元の鞘に戻してやることだ。そいつが抜かれれば何万、いや何億の血が流れるかもしれない。それを防ぐ。かっこいい仕事じゃねえの」
冗談のようにそう言うとかなめは一人で笑う。
「でも、今回の件でもうまいこと甘い汁だけ吸って逃げ延びた連中だって……」
「いいこと教えてやるよ。遼南王朝がラスバ大后の時代、あれほど急激に勢力を拡大できた背景にはある組織の存在があった。血のネットワークを広げるその組織は、あらゆる場所に潜伏し、ひたすら時を待ち、遼南の利権に絡んだときのみ、その利益のために動き出す闇の組織だった」
突然かなめが話す言葉の意味がわからず誠は呆然とした。かなめは無理もないというように誠の顔を見て笑顔を浮かべる。
「そんな組織があるんですか?」
「アタシも詳しいことは知らねえ。だが、嵯峨の叔父貴が持ってる尋常じゃないネットワークは、まるでそんな都市伝説が本当のことに感じるくらいなものだ。どれほどのものかは知らないが、少なくとも今回の東方開発公社の一件で免罪符を手にしたつもりの連中の寝首をかくぐらいのことは楽にしでかすのがあのおっさんだ」
そう言うとかなめは再び沖を行く船を見た。船の後ろには釣竿が並べられている。それを見て誠は去年この海で人間トローリングされたと言う吉田の話を思い出した。
「でも……」
「デモもストもあるか!とりあえず休むぞ」
そう言ってかなめは砂浜に横になった。誠も面倒なことはごめんなので静かに押し黙って海を眺めていた。
相変わらずシャムは黄色いスイムキャップを被りなおして。何度見ても誠には小学生に見えた。
「交代だ。とっとと食って来い!」
「了解!」
シャムと小夏はすばやく立ち上がって敬礼すると、そのままリアナ達のところへと急いだ。
「さて、腹は膨らんだし、海でも見ながらのんびりするか」
そう言うとかなめはまたパラソルの下で横になった。誠はその横に座った。海からの風は心地よく頬を
通り過ぎていく。かなめの横顔。サングラス越しだが、満足げに海を見つめていた。
「じろじろ見るなよ、恥ずかしい」
らしくも無い言葉をつぶやいてかなめはうつむく。誠は仕方なく目をそらすと目の前の浜辺ではしゃぐ別のグループの姿を見ていた。
「平和だねえ」
かなめののんびりとした言葉に誠は思わず苦笑いを浮かべていた。
「そう言えば西園寺さん。こんなことしてていいんですかね」
照れるのをごまかすために引き出した誠の話題がそれだった。
「なんだよ。突然」
めんどくさそうにかなめが起き上がる。額に乗せていたサングラスをかけ、眉間にしわを寄せて誠を見つめる。
「さっきの東方開発公社の件か?あれは公安と所轄の連中の仕事だ。それで飯を食ってる奴がいるんだから、アタシ等が手を出すのはお門違いだよ」
そう言うと再びタバコに火をつけた。
「でもまあ東方か、ずいぶんと世話になったんだがな」
タバコの煙を吐き出すと、サングラス越しに沖を行く貨物船を見ながらかなめがつぶやいた。
「やはり胡州陸軍と繋がってるんでしょうか?」
かなめは胡州帝国陸軍非正規作戦部隊の出身であることは隊では知られた話だ。
五年ほど前、東都港を窓口とする非合法物資のもたらす利権をめぐり、マフィアから大国の特殊部隊までもが絡んで、約二年にわたって繰り広げられた抗争劇。その渦中にかなめの姿があったことは公然の事実だった。そんなことを思い出している誠を知ってか知らずか、かなめは遠くを行く貨物船を見ながら悠然とタバコをくゆらす。
「アタシ等の作戦に関する、物資や拠点の提供、ターゲットの情報、現在の司直の捜査状況の把握。いろいろとまあ世話になったよ。昔からあそこはそう言うことも業務の一つでやってたみたいだからな」
まるで当たり前のように口にするかなめの言葉の危険性に誠は冷や汗をかくが、そのまま話を続けた。
「そんな危ない会社ならなんですぐに捜索をしなかったんですか?この一ヶ月、僕等がもたもたしていたせいで一番利益を得た人間達が東方開発公社を使って資金洗浄をして免罪符を手に入れたのかもしれないんですよ」
誠は正直悔しくなっていた。一応、自分も司法局員である。司法執行部隊の実力行使部隊として、自分が出動し、一つの捜査の方向性をつけたと言える近藤事件が骨抜きにされた状態で解決されようとするのが悔しかった。
「お前、なんか勘違いしてるだろ」
サングラスを外したかなめが真剣な目で誠を見つめてくる。
「アタシ等の仕事は真実を見つけるってことじゃねえんだ。そんなことは裁判官にでも任して置け。アタシ等がしなければならないことは、利権に目が血走ったり、自分の正義で頭がいかれちまったり、名誉に目がくらんだりした戦争ジャンキーの剣を元の鞘に戻してやることだ。そいつが抜かれれば何万、いや何億の血が流れるかもしれない。それを防ぐ。かっこいい仕事じゃねえの」
冗談のようにそう言うとかなめは一人で笑う。
「でも、今回の件でもうまいこと甘い汁だけ吸って逃げ延びた連中だって……」
「いいこと教えてやるよ。遼南王朝がラスバ大后の時代、あれほど急激に勢力を拡大できた背景にはある組織の存在があった。血のネットワークを広げるその組織は、あらゆる場所に潜伏し、ひたすら時を待ち、遼南の利権に絡んだときのみ、その利益のために動き出す闇の組織だった」
突然かなめが話す言葉の意味がわからず誠は呆然とした。かなめは無理もないというように誠の顔を見て笑顔を浮かべる。
「そんな組織があるんですか?」
「アタシも詳しいことは知らねえ。だが、嵯峨の叔父貴が持ってる尋常じゃないネットワークは、まるでそんな都市伝説が本当のことに感じるくらいなものだ。どれほどのものかは知らないが、少なくとも今回の東方開発公社の一件で免罪符を手にしたつもりの連中の寝首をかくぐらいのことは楽にしでかすのがあのおっさんだ」
そう言うとかなめは再び沖を行く船を見た。船の後ろには釣竿が並べられている。それを見て誠は去年この海で人間トローリングされたと言う吉田の話を思い出した。
「でも……」
「デモもストもあるか!とりあえず休むぞ」
そう言ってかなめは砂浜に横になった。誠も面倒なことはごめんなので静かに押し黙って海を眺めていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

比翼の鳥
月夜野 すみれ
歴史・時代
13歳の孤児の少年、菊市(きくち)光夜(こうや)はある日、男装をした十代半ばの少女と出会う。
彼女の名前は桜井花月、16歳。旗本の娘だった。
花月は四人の牢人を一瞬で倒してしまった。
しかし男の格好をしているものの話し方や内容は普通の女の子だ。
男装しているのは刀を差すためだという。
住む家がなく放浪していた光夜は剣術の稽古場をしている桜井家の内弟子として居候することになった。
桜井家で道場剣術とは別に実践的な武術も教わることになる。
バレる、キツい、シャレ(洒落)、マジ(真面目の略)、ネタ(種の逆さ言葉)その他カナ表記でも江戸時代から使われている和語です。
二字熟語のほとんどは明治以前からあります。
愛情(万葉集:8世紀)、時代(9世紀)、世界(竹取物語:9世紀末)、社会(18世紀後半:江戸時代)など。
ただ現代人が現代人向けに現代文で書いた創作なので当時はなかった言葉も使用しています(予感など)。
主人公の名前だけは時代劇らしくなくても勘弁してください。
その他、突っ込まれそうな点は第五章第四話投稿後に近況ノートに書いておきます。
特に花月はブッチギレ!の白だと言われそうですが5章終盤も含め書いたのは2013年です。
カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

大きな町で小さな喫茶店を趣味で営む水系最強超能力者ツカサさんの経営戦略!!以前所属していた組織の残党から能力を狙われていますが問題ありません
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
SF
ここはビッグスターシティ
世界でも最高の立地条件と物資の補給が充実しているこの大都市は全世界の中心と言えるほどの経済成長を遂げていた。
もともと目を見張るほどの経済成長を遂げていたこの町は成長に伴いここ数年で株価が更に急上昇した為、この辺りの土地価値は一気に1000倍程に膨れ上がった。
そんな価値あり土地15歳の少女が1人喫茶店を開く。
なかなか人通りの多い通りを拠点にできたのでそこそこの収入がある。
ただし、彼女は普通の喫茶店のマスターではない。
超能力者である。
秘密結社の秘密兵器である彼女はそれを周囲の人間達に秘密にして生きていく。
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
異世界大使館雑録
あかべこ
ファンタジー
異世界大使館、始めますhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/407589301のゆるゆるスピンオフ。
本編読まないと分かりにくいショートショート集です。本編と一緒にお楽しみください。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる