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かなめはかなめ
淑女豹変す
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ドアが開き、ワインを乗せたカートを押すソムリエが二人とパン等を運ぶ給仕が入ってくる。誠は生でソムリエと言うものを初めて見たので、少しばかり緊張しながらその様子を見ていた。
「今日は何かしら?」
「はい、今日は魚介を中心にしたコースとなっております」
「お魚?じゃあ白がいいかしら……」
「ドイツのモーゼルがあります」
かなめの隣に立った彼は静かにかなめに向かってワインを勧める。誠は一言も口をはさめずにただ黙り込んでいた。カウラもアイシャもにこやかな笑みを浮かべて黙っていた。
給仕によって目の前のテーブルが食事をする場らしい雰囲気になっていく様を見つめていた。ソムリエは静かにカートの上に並んだワインの中から白ワインを取り出すと栓を抜いた。
いくつも並んでいるグラスの中で、一番大きなグラスに静かにワインを注いで行く。誠、カウラ、アイシャは借りてきた猫の様に呆然のその有様を見続ける。
「皆さんよろしくて?」
かなめが白い手袋のせいで華奢に見える手でグラスを持つとそれを掲げた。
「それでは乾杯!」
アイシャがそう言ってぐいとグラスをあおる。
「アイシャさん!ワインは香りと味を楽しむものですのよ、そんなに急いで飲まれては……」
説教。しかもいつものかなめなら逆の立場になるような言葉にアイシャが大きなため息をついてかなめに向き直った。
「かなめちゃんさあ。いい加減そのお嬢様言葉やめてよ。危うく噴出すところだったじゃないの!それにこういう時は一気に飲めって言ってるのはだれ?え?」
隣のテーブルの島田達は完全に好き勝手やっているのがわかるだけに、アイシャのその言葉は誠には助け舟になった。
「そうかよ!ああそうですねえ!アタシにゃあ向きませんよ!」
これまでの姫君らしい言動から、いつものかなめに戻る。ただし、話す言葉はいつものかなめでも、その落ち着いた物腰は相変わらず大公令嬢のそれであった。
「神前!とりあえずパンでも食ってな。初めてなんだろ?こういう食事は。まあ何事も経験と言う奴さ。場数を踏めば自然と慣れる」
言葉はすっかりいつものかなめに戻っていた。静かに前菜に手をつけるところなどとのギャップが気になるが、確かに目の前にいるのはいつものかなめだと思えて少し安心している自分に気づいた誠だった。
「そう言うものですか……」
そう言うと誠は進められるままにミカンほどの大きさのあまり見たことの無いようなパンをかじり始めた。
「場数を踏むねえ。それって『これからも私と付き合ってくれ』ってこと?……どう?誠ちゃん。お嬢様から告白された感想は」
アイシャの言葉を聞いて自分の言った言葉の意味を再確認してかなめが目を伏せた。
「ありえない話はしない方が良い」
珍しくカウラが毒のある調子で言葉を口にした。
「べっべっ、別にそんな意味はねえよ!ただ叔父貴の知り合いとかが来た時にだなあ、マナーとか雰囲気に慣れるように指導してやっているわけで……」
明らかに焦って見えるかなめだが、スープを掬うしぐさはテレビで見る胡州貴族のご令嬢のそれだった。
「それじゃあ私達にも必要よね、そんな経験。お願いするわ、お嬢様」
皮肉をこめた笑みを口元に浮かべるとアイシャはワインを飲み干した。
「今日は何かしら?」
「はい、今日は魚介を中心にしたコースとなっております」
「お魚?じゃあ白がいいかしら……」
「ドイツのモーゼルがあります」
かなめの隣に立った彼は静かにかなめに向かってワインを勧める。誠は一言も口をはさめずにただ黙り込んでいた。カウラもアイシャもにこやかな笑みを浮かべて黙っていた。
給仕によって目の前のテーブルが食事をする場らしい雰囲気になっていく様を見つめていた。ソムリエは静かにカートの上に並んだワインの中から白ワインを取り出すと栓を抜いた。
いくつも並んでいるグラスの中で、一番大きなグラスに静かにワインを注いで行く。誠、カウラ、アイシャは借りてきた猫の様に呆然のその有様を見続ける。
「皆さんよろしくて?」
かなめが白い手袋のせいで華奢に見える手でグラスを持つとそれを掲げた。
「それでは乾杯!」
アイシャがそう言ってぐいとグラスをあおる。
「アイシャさん!ワインは香りと味を楽しむものですのよ、そんなに急いで飲まれては……」
説教。しかもいつものかなめなら逆の立場になるような言葉にアイシャが大きなため息をついてかなめに向き直った。
「かなめちゃんさあ。いい加減そのお嬢様言葉やめてよ。危うく噴出すところだったじゃないの!それにこういう時は一気に飲めって言ってるのはだれ?え?」
隣のテーブルの島田達は完全に好き勝手やっているのがわかるだけに、アイシャのその言葉は誠には助け舟になった。
「そうかよ!ああそうですねえ!アタシにゃあ向きませんよ!」
これまでの姫君らしい言動から、いつものかなめに戻る。ただし、話す言葉はいつものかなめでも、その落ち着いた物腰は相変わらず大公令嬢のそれであった。
「神前!とりあえずパンでも食ってな。初めてなんだろ?こういう食事は。まあ何事も経験と言う奴さ。場数を踏めば自然と慣れる」
言葉はすっかりいつものかなめに戻っていた。静かに前菜に手をつけるところなどとのギャップが気になるが、確かに目の前にいるのはいつものかなめだと思えて少し安心している自分に気づいた誠だった。
「そう言うものですか……」
そう言うと誠は進められるままにミカンほどの大きさのあまり見たことの無いようなパンをかじり始めた。
「場数を踏むねえ。それって『これからも私と付き合ってくれ』ってこと?……どう?誠ちゃん。お嬢様から告白された感想は」
アイシャの言葉を聞いて自分の言った言葉の意味を再確認してかなめが目を伏せた。
「ありえない話はしない方が良い」
珍しくカウラが毒のある調子で言葉を口にした。
「べっべっ、別にそんな意味はねえよ!ただ叔父貴の知り合いとかが来た時にだなあ、マナーとか雰囲気に慣れるように指導してやっているわけで……」
明らかに焦って見えるかなめだが、スープを掬うしぐさはテレビで見る胡州貴族のご令嬢のそれだった。
「それじゃあ私達にも必要よね、そんな経験。お願いするわ、お嬢様」
皮肉をこめた笑みを口元に浮かべるとアイシャはワインを飲み干した。
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