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買い物天国
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夏の日差しが西に輝く終業後。誠が駐車場の裏に着いた時には、すでに水着買出しツアーの面々は裏の駐車場に顔をそろえていた。
「遅せえぞ!神前!」
かなめがパーラのパールホワイトの四輪駆動車の前で大声を上げていた。いつものように第二小隊が、特にかなめがいる場所には他の隊員の目が集まることになることが多い。かなめの私服は黒いタンクトップにジーンズ、靴はライダーブーツだった。色白な腕に、人工皮膚の継ぎ目が目立つ。誠はそれを何度か見つめすぎて、かなめに殴られたことがあった。
「すみません!遅くなりました」
「あれか?シンの旦那の残していった宿題か?」
かなめが言うのは来週末まで長期休暇を取っている司法局実働部隊管理部部長、アブドゥール・シャー・シン主計大尉から誠に出された宿題だった。隊にシミュレータが無いと言うことで05式のシミュレータ機能を利用しての法術兵器の発動訓練がその宿題だった。
西モスレムの機密性の高い法術兵器開発部門で毎日のように、法術兵器のテストに立ち会った経験もあるシンの助言を受けて吉田が組んだシミュレーション課題をこなす。それが隊の基礎体力トレーニングと並ぶ誠の日課になっている。今回の長期休暇で愛妻家として知られるシンは家族との夏休みを満喫する為、生まれ故郷の西ムスリムに帰っていた。
しかし『司法局実働部隊の良心』とあだ名されるほど几帳面で司法局の隊員の中では常識人として知られるシンである。毎日シンの通信端末に送った報告書の評価には辛らつな言葉が書かれて送り返されてくる。
「神様じゃねえんだ。あの旦那の小言に付き合ってたら死んじまうぞ」
かなめは時に深夜までレポート作成に頭を悩ましている誠にそう言うこともあった。カウラがその後任となるまで第二小隊の隊長を務めていたのがシンだった。自他共に厳しい彼にかなめもそれなりに鍛えられたのだろう。
「全員揃ったところで出発ね」
珍しく白いワンピースに白いハイヒールと普通な格好のアイシャはそう言うと、誠の手をとって後部座席に入ろうとするがかなめはそれを遮った。
「どうぞ助手席にお乗りください、少佐殿!」
かなめはしてやったりと言うように笑みを浮かべていた。しかし、そう言われてしまえばアイシャに勝ち目はなかった。未練がましい視線を誠に投げかけながらアイシャはそのまま助手席に座る。
「カウラ、奥に行け。神前、座れるか?」
後部座席は奥にいつものように東和軍夏季制服を着込んでいるカウラが乗った。隣に誠、そして手前にかなめが席を取った。中間の座席には赤いキャミソールのサラと白いTシャツの袖を脇までたくし込んでいるシャムが並んで座り、その隣で島田がシャム越しにサラと手を振り合っている。
「じゃあ運転頼むぞ中尉殿」
かなめは素面だと言うのに何時に無くテンションが高い。運転席で後ろの面々を見回して苦笑いを浮かべながらパーラは車のエンジンを響かせた。
「ずいぶんはしゃぐわね。もしかしてあなたも水着を選んで貰うの初めてじゃないの?」
アイシャが口を開くと、急に沈黙が訪れた。アイシャ以外の全員の額に脂汗が流れる。かなめの対応次第では車が傷つくと言うことを想像して中でもパーラの表情は硬いものに変わった。通用門で手を振る警備部員達に応えて笑い返す表情が引きつっているのも誠には見えていた。
「図星か」
もう一人空気を読まない人物が居た。カウラはそう言うと誠越しにかなめの方を見やる。
「だったらなんだよ!」
かなめが誠越しにカウラをにらむ。だがカウラは別に気にする様子もなかった。
「別にどうと言う事はない。私は初めてだ」
そう言ってカウラは髪をかき上げた。かなめもカウラの言葉にようやく安心したように背もたれに体を投げた。
「ベルガー大尉。こいつの趣味だとピンクのフリル付きの奴を選びますよ」
ニヤ付いていた島田が誠を指差してそう言った。島田が満面の笑みをうかべている。当然のことながら嫉妬でサラの目つきが鋭くなる。
「何で分かる?」
「今季の人気アニメの『思い出』のあかりちゃんが着てたのがそんな感じよね!」
島田を見つめるサラの視線の原因をまったくわかっていないシャムがそう言ってサラの手を握り締めた。
「シャムが前言ってた、カウラ似の胸がぺったんこのヒロインが出てくる深夜アニメか?」
カウラを見ながらかなめが口を挟む。その言葉にハッとしたようにカウラの視線が誠に向かう。誠は複雑な笑顔を浮かべる。その表情があまり気分のいいものではなかったのか、すぐにカウラはシャムに目を向けた。
「髪の色だけだと思うぞ、私と似ているところは」
アニメ雑誌を目の前に出され、散々シャムとアイシャに見せ付けられたキャラクターを思い出してカウラはそう言った。
「似てるじゃねえか、胸の無いところとか」
上機嫌のかなめがそう言った。そして車内は沈黙した。
「貴様はそれしか言う事ないのか?」
カウラはかなめの胸を見ながらそう言った。かなめ自身は『遺伝子レベルで成長する予定だった』胸のラインは薄着で誇張されているとは言え、カウラを黙らせるには十分だった。かなめと事情が飲み込めていないで笑っているシャム以外は口を挟めない雰囲気。まもなく菱川重工豊川工場の巨大な敷地を出ると言うところまで、ただ耐え難い沈黙が続いていた。
「遅せえぞ!神前!」
かなめがパーラのパールホワイトの四輪駆動車の前で大声を上げていた。いつものように第二小隊が、特にかなめがいる場所には他の隊員の目が集まることになることが多い。かなめの私服は黒いタンクトップにジーンズ、靴はライダーブーツだった。色白な腕に、人工皮膚の継ぎ目が目立つ。誠はそれを何度か見つめすぎて、かなめに殴られたことがあった。
「すみません!遅くなりました」
「あれか?シンの旦那の残していった宿題か?」
かなめが言うのは来週末まで長期休暇を取っている司法局実働部隊管理部部長、アブドゥール・シャー・シン主計大尉から誠に出された宿題だった。隊にシミュレータが無いと言うことで05式のシミュレータ機能を利用しての法術兵器の発動訓練がその宿題だった。
西モスレムの機密性の高い法術兵器開発部門で毎日のように、法術兵器のテストに立ち会った経験もあるシンの助言を受けて吉田が組んだシミュレーション課題をこなす。それが隊の基礎体力トレーニングと並ぶ誠の日課になっている。今回の長期休暇で愛妻家として知られるシンは家族との夏休みを満喫する為、生まれ故郷の西ムスリムに帰っていた。
しかし『司法局実働部隊の良心』とあだ名されるほど几帳面で司法局の隊員の中では常識人として知られるシンである。毎日シンの通信端末に送った報告書の評価には辛らつな言葉が書かれて送り返されてくる。
「神様じゃねえんだ。あの旦那の小言に付き合ってたら死んじまうぞ」
かなめは時に深夜までレポート作成に頭を悩ましている誠にそう言うこともあった。カウラがその後任となるまで第二小隊の隊長を務めていたのがシンだった。自他共に厳しい彼にかなめもそれなりに鍛えられたのだろう。
「全員揃ったところで出発ね」
珍しく白いワンピースに白いハイヒールと普通な格好のアイシャはそう言うと、誠の手をとって後部座席に入ろうとするがかなめはそれを遮った。
「どうぞ助手席にお乗りください、少佐殿!」
かなめはしてやったりと言うように笑みを浮かべていた。しかし、そう言われてしまえばアイシャに勝ち目はなかった。未練がましい視線を誠に投げかけながらアイシャはそのまま助手席に座る。
「カウラ、奥に行け。神前、座れるか?」
後部座席は奥にいつものように東和軍夏季制服を着込んでいるカウラが乗った。隣に誠、そして手前にかなめが席を取った。中間の座席には赤いキャミソールのサラと白いTシャツの袖を脇までたくし込んでいるシャムが並んで座り、その隣で島田がシャム越しにサラと手を振り合っている。
「じゃあ運転頼むぞ中尉殿」
かなめは素面だと言うのに何時に無くテンションが高い。運転席で後ろの面々を見回して苦笑いを浮かべながらパーラは車のエンジンを響かせた。
「ずいぶんはしゃぐわね。もしかしてあなたも水着を選んで貰うの初めてじゃないの?」
アイシャが口を開くと、急に沈黙が訪れた。アイシャ以外の全員の額に脂汗が流れる。かなめの対応次第では車が傷つくと言うことを想像して中でもパーラの表情は硬いものに変わった。通用門で手を振る警備部員達に応えて笑い返す表情が引きつっているのも誠には見えていた。
「図星か」
もう一人空気を読まない人物が居た。カウラはそう言うと誠越しにかなめの方を見やる。
「だったらなんだよ!」
かなめが誠越しにカウラをにらむ。だがカウラは別に気にする様子もなかった。
「別にどうと言う事はない。私は初めてだ」
そう言ってカウラは髪をかき上げた。かなめもカウラの言葉にようやく安心したように背もたれに体を投げた。
「ベルガー大尉。こいつの趣味だとピンクのフリル付きの奴を選びますよ」
ニヤ付いていた島田が誠を指差してそう言った。島田が満面の笑みをうかべている。当然のことながら嫉妬でサラの目つきが鋭くなる。
「何で分かる?」
「今季の人気アニメの『思い出』のあかりちゃんが着てたのがそんな感じよね!」
島田を見つめるサラの視線の原因をまったくわかっていないシャムがそう言ってサラの手を握り締めた。
「シャムが前言ってた、カウラ似の胸がぺったんこのヒロインが出てくる深夜アニメか?」
カウラを見ながらかなめが口を挟む。その言葉にハッとしたようにカウラの視線が誠に向かう。誠は複雑な笑顔を浮かべる。その表情があまり気分のいいものではなかったのか、すぐにカウラはシャムに目を向けた。
「髪の色だけだと思うぞ、私と似ているところは」
アニメ雑誌を目の前に出され、散々シャムとアイシャに見せ付けられたキャラクターを思い出してカウラはそう言った。
「似てるじゃねえか、胸の無いところとか」
上機嫌のかなめがそう言った。そして車内は沈黙した。
「貴様はそれしか言う事ないのか?」
カウラはかなめの胸を見ながらそう言った。かなめ自身は『遺伝子レベルで成長する予定だった』胸のラインは薄着で誇張されているとは言え、カウラを黙らせるには十分だった。かなめと事情が飲み込めていないで笑っているシャム以外は口を挟めない雰囲気。まもなく菱川重工豊川工場の巨大な敷地を出ると言うところまで、ただ耐え難い沈黙が続いていた。
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