特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第七部 「低殺傷兵器(ローリーサルウェポン)」

橋本 直

文字の大きさ
上 下
71 / 77
新たな力

第71話 危機……そして

しおりを挟む
「おい、神前……ラッキーかもしれねえぞ」 

 突然拳銃を手にかなめが振り返る。ニヤリとその口元が笑っている。感情の起伏の激しいかなめだが、こんなところで突然振り返って笑ってくるので誠は面食らって黙り込んでしまった。

「西園寺。ラッキーとはどういうことだ?根拠の無い事を言える状況じゃない」 

 不機嫌そうな表情を浮かべて首をひねるカウラ。それを見てもかなめは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「一瞬だがこの建物の四階で衛星通信をしている奴の反応が出た。恐らく水島が呼び寄せた使い魔は法術師じゃなくてサイボーグだ」 

「使い魔?ドラゴンとかじゃないから良かったとでも言いたいの?サイボーグだって十分驚異じゃないの。あんたの片腕。その状況だとそいつのをもぎ取って使えるから人斬り相手に有利に戦えるようになるとでも言いたいわけ?」 

 アメリアはあきれ果てたようにそう言うとそのままかなめを追い抜いて四階のフロアーに顔を上げる。

 銃声もない。誠も気配を感じることができない。ただ暗がりだけが広がっていくのがわかるだけだった。

「静かね……で?軍用義体のサイボーグが水島さんを助けに来た。それのどこがラッキーなのよ」 

 何もないのを確認したアメリアがかなめを振り返り小声で詰問する。そんなアメリアを見てさげすむように笑う。

「サイボーグは所詮工業製品だ。どんなに高性能な義体でも性能の上限は設計図を見れば分かる。研究途中でどんな力があるのか分からない法術師より与し易いだろ?」 

「事実だが楽観論だな。今の状況じゃ性能は分からないんだろ?」 

 あっさりとかなめの意見をカウラが切って捨てた。かなめはそのまま不機嫌そうに闇に目を向ける。そしてそのまま一気に四階のフロアーに飛び上がった。

「西園寺さん!」 

 誠が驚いて声をかける。かなめはムキになったようにそのまま前進した。

「馬鹿が!」

 カウラがその後に続いた。遅れまいと誠は左右を、アメリアは後方を警戒しながら前進していく。

 かなめは最初のドアを見つけるとカウラに少し離れて止まるように指示を出した。静かに彼女は左手の拳銃を手にドアを押し破ろうと手を伸ばした。

 その瞬間、誠は強い感情の流れをかなめの死角に当たる廊下の中央に感じた。

「正面!干渉空間!」

 その瞬間銃声がドアではなく廊下から響いた。手を伸ばしていたかなめがそのままその場に倒れ込む。かなめの隣に突然現われた発砲の作り出した火の玉がかき消すように消えた。 

「正面!こちらの場所を特定された!警戒!」

 カウラはそう言いながら銃を構えて周りを見回す。誠もまたカウラの隣でショットガンを構える。まるでこちらを分断しようとするように一発一発、別の場所からの発砲が続く。

「痛てえ!」 

 ドアの下。腹部を押さえてかなめが叫んだ。

「当たり前でしょ!こっちに這ってきなさいよ!」 

 アメリアが叫びつつ銃口の光を目印に銃を三発打ち込む。北川の銃はリボルバー。弾を撃ち尽くしてとりあえず引いたようで着弾した感触は無かった。

 しかし、その時廊下の奥の黒い塊の方で金属パイプが落ちるような音が響いた。

『銃だ!銃だ!』 

 誠が凝視するとその黒い塊はベッドのクッション部分を積み重ねたもののように見えた。そしてその影で人影のようなものが動いているのが誠にも見えた。

「見つけたぞ。神前、西園寺を何とかしろ!」 

 カウラの言葉に誠は干渉空間を展開した。そしてそのまま床に転がってわめいているかなめに向かう。

 銀色の光の板。誠が作り出した干渉空間に向けて先ほどのベッドの後ろからの三発の銃弾が着弾した。

「カウラさん!拳銃じゃ無理ですよ!」 

 正確な射撃。距離と三発の射撃間隔を計れば銃が苦手な誠でもそれがサブマシンガン以上の火力の火器のものだと言うことはわかる。カウラは誠が言葉をかけるまでもなく、消火栓の影に身を沈めてベッドの向こうのサイボーグだという水島の護衛の射撃に備えていた。

「済まねえ……しくじった!」 

 腹から血を流しているかなめ。誠はただかなめを守りたい一心で干渉空間を展開し続ける。

「神前……力はとっておくもんだぞ……人斬りが出て来たときに……力がでないとそれこそ洒落に……」 

 かなめはそれだけ言うと動きを止めた。

「嘘……嘘ですよね!」 

 誠は展開していた干渉空間を収束させるとそのまま目を閉じたままのかなめの頬を叩いた。反応は無い。胸を触ってみた。動かない。涙が自然にあふれてくる。どうして良いか分からなくなる。明らかにかなめは機能を止めていた。

 そのまま片膝を付いていた姿勢からよろよろと誠は立ち上がった。

「カウラさん……西園寺さんが……」

 無防備に立ち尽くす誠を見てカウラの表情が怒りに震えたものへと瞬時に変わった。 

「馬鹿!脳内の血液損失を防ぐ為に仮死状態になっただけだ!さっさと引きずって来い!」 

 ベッドの裏からまた正確な牽制射撃が二発カウラの手前のコンクリートブロックにはじける。

 誠はカウラの言葉でようやく我に返り、そのまま干渉空間を展開しながらかなめを引きずり始めた。

 二発銃弾が誠の展開する干渉空間に吸収された時にベッドの裏の敵の動きが止まった。

『相手はベテランだ。テメエの能力が予想以上だってことで弾を節約し始めてやがる』 

「西園寺さん!」 

 耳の通信端末から響くかなめの声に思わず手を止めた誠。

『さっきは勝手に殺しやがって!とっとと運べよ』 

「早くしろ!北川達も目標を見つけたんだ。動き出すぞ!」 

 壁際で叫ぶカウラ。誠は必死になって動くことの無いかなめの体を引きずって行く。

「いい様ね、かなめちゃん」

 背後の警戒から帰ってきたアメリアがかなめの足を持って誠を手伝う。 

『ぶっ殺す!後で……』 

「威勢は良いのねえ……動けないくせに」 

『やっぱりぶっ殺す』 

 動けないかなめの通信に背後を警戒していたアメリアが絡む。だがそこに背後からの銃弾が届いてきた。

「来ちゃったわよ!北川と例の人斬り」 

 牽制射撃で何とか時間を稼ごうとするアメリア。カウラのところまでたどり着けないと悟った誠とアメリアはそのまま手前の病室に入ろうと扉を蹴破る。

 パイプ椅子が乱雑に置かれた部屋。カウラもまた水島をかばうサイボーグの的確な射撃に押されて誠達と合流すべく部屋に駆け込んできた。

「ここでなんとかあの連中がつぶし合うのを……」 

 アメリアがそう言った時、かなめを置いた壁の隣にあったパイプ椅子が半分になった。部屋のあちこちに干渉空間が展開される。

「北川の狙いはこちらか……終わりかもな」 

 カウラのつぶやき。それを聞いた時誠の中で何かがはじけた。

 誠は立ち上がりまわりに干渉空間を展開する。

「誠ちゃん!死ぬ気?」 

 アメリアの言葉は誠には届かなかった。そのまま部屋を飛び出した誠。階段付近からの北川の拳銃弾と奥のベッドからのライフルの銃弾が次々と銀色に輝く誠を覆う干渉空間に命中しては消える。

「神前……」 

『誠?』 

 つぶやくカウラ。かなめは唯一自由の利くタレ目を誠に向けた。

『なんだありゃ?』 

 階段近くで北川が叫ぶ声が誠達にも聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

グラディア(旧作)

壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。 恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも… ※本作は連載終了しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...