レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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安息日

山積の難題

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「馬鹿な遊びをしてるじゃねーか。烏賊?タコ?どっちだっていーじゃねーか」 

 入り口すぐのテーブルをランは占拠した。その正面には珍しそうに島田の悩む姿を眺めている茜とラーナの姿がある。

「お待たせしました!」 

 セーラー服にエプロン姿の小夏がビールを持ってランに迫る。その後ろには猫耳をつけたままのサラがコップと付き出しを持って並んでいた。

「サラ……なんだ他所の格好は」 

「良いじゃない……似合うんだから」 

 そう言う島田はそう言われて照れ笑いを浮かべた。

かなめはそれを見て一度誠の顔をまじまじと眺めた後少し斜に構えるようにして笑みを浮かべた。

「西園寺さん。何が言いたいんですか?」 

「いや、なんでも……」 

「かなめちゃんはボトルよね。……ラム?ジン?」 

「ラムで。それと!食うもん頼もうぜ。アタシはボンジリ!」 

 かなめの注文を聞いてそのまま厨房に春子は消えた。手伝いの小夏はエプロンからメモ帳を取り出して周りを見渡す。

「私は……串焼き盛り合わせにしようかしら……カウラちゃんは?」 

「そうだな……とりあえずシシトウかな」 

 カウラはそう言いながら視線を背後のラン達に向けた。

「アタシも盛り合わせで……ラーナもか。茜、どうするよ」 

「わたくしは……あまりたっぷり食べる気にはなりませんの。つまみ程度で数品見繕ってくださいな」 

「じゃあアンコウ肝のいいのが入ったって源さんが言ってたからそれをメインで行きます?」 

「お願いするわ」 

 ラン達幹部連の注文を受けるとメモを持って奥に小夏は消えた。

「まだ決まらないのか?」 

「ちょっと量を食べたい気分なんで」 

 機嫌がよさそうなカウラに急かされながら誠はしばらくお品書きに目を向けて黙っていた。

 足早に厨房から現れた春子は手にしたラム酒の瓶をかなめに差し出した。

「飲みすぎないでよ」 

「気をつけまーす」 

 春子の言葉の意味など解さぬようにかなめはたっぷりとグラスにラム酒を注ぐ。呆れたようにカウラはかなめの手元のグラスに目をやった。

「飲みたいのか?」 

「まさか」 

「はい!お待たせです!」 

 失笑するカウラを見ていた誠の耳元で手に盆を持った小夏が現れて注文の品をテーブルに並べていく。

ついその動作に見とれて誠は手元のメニューを取り落とす。

「神前の兄貴。しっかりしてくださいよ。それより注文は?」 

「焼鳥盛り合わせダブルで」 

「誠ちゃん!それアタシの真似じゃないの!小夏ちゃん、私も」 

 島田の隣のカウンターでビールを手酌でやりながらサラが叫ぶ。小夏は笑顔を浮かべながら厨房に消えていく。

「上、妙に静かじゃねーか。島田の。上は法事でもやってんのか?」 

 ビールを飲んで顔を赤くしながらランがたこ焼きの中身当てに失敗してうつむいている島田に声をかけた。二階を占拠して飲み続けているという技術部の情報士官達の沈黙。その事態に隣のサラもパーラもランの質問に首をひねる。

「女将さん。アイツ等……」 

「始めたのが昼間からだったから……潰れてるんじゃないかしら」 

 阿鼻叫喚の地獄絵図にならずに済んでよかったというような表情で春子は笑う。彼女を見ながら誠もビールを飲み続ける。

「しかしアイツ等も今回色々動いてくれたからな……大変なんだろ」 

 相変わらずカウンターを背にテーブル席の誠達を眺めていた島田はそう言うと烏龍茶を飲み干した。

「まあうちも大変だけど」

『何か言った?』 

 かなめの言葉にランと茜が同時にステレオで叫んでいた。思わずその様子に誠は苦笑いを浮かべた。

「それにしても大変そうだな」 

 烏賊が入っているたこ焼きを当てられずに島田は懐からガソリンスタンドのカードを取り出してパーラに手渡しながらつぶやいた。

「何?正人君も入りたかったの?」 

「そんなことは無いですけど……法術を乗っ取る犯人でしょ?俺みたいに死なないだけが取り得の法術師の方が適しているんじゃないかなあとか思っただけですよ。力を乗っ取られても別に何も起きないですから」 

 そう言いながら最後のたこ焼きを口に入れる。

「オメーはバックアップだよ。同盟厚生局の事件じゃあオメーにぜひ参加してもらえって隊長に言われてたからな。まああれだ、今はじっくり構えておけってことだ……『武悪』と『方天画戟』のエンジン交換のシミュレーション。終わってねーんだろ?」 

 ランはすでに手酌でビールを飲み始めていた。

「そうだぞ、島田。あれの整備の手順とかは初めてだからな」 

「わかりました。とりあえず目の前の仕事に……」

「そうだ精進してくれ」

 ランはそう言ってカラカラと笑った。
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