レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,474 / 1,505
進行

助言者

しおりを挟む
「……でデータ照合はできた。後は……」 

 部屋に差す日差しはすでに夕方だった。かなめは食事もとらずに検索を続け、ラーナは何とかパンをかじりながら端末で地味な照合作業を続けた。そして東都の一連の法術暴走事件が一人の法術師によって引き起こされたこと、その人物は豊川で死者を出す法術使用を行なったことがデータの上では証明することができた。

「さてと、後は本人を見つければ話は済むんだがな……まあ裁判所がこれを証拠として採用するかは別問題だ。とりあえずのこの資料の使い道は豊川署の馬鹿共にたたきつけるとすっきりするくらい……だな」 

 静かにカウラはそう言った。誠達も結局そうなることはわかっていたものの、これまでの労力を考えると憂鬱な気持ちになる。

 そんな時にコンピュータルームの電源が突然落ちた。周りを見渡す。独特の気配に誠達は嫌な予感に襲われていた。

『俺達の仕事になりそうだな!』

 聞き慣れた叫び声がすべてのスピーカーから響いた。

「島田の馬鹿の手下か……」 

『班長は関係無いですよ。それなら手を引くぜ俺達は。豊川署の署長はそいつを有効に使ってくれるかどうか……微妙なんだけどな……』 

「いえ!すみません!調子に乗っていました」 

 かなめは相変わらずの減らず口を叩く。そこで画面が映し出される。そこには頭にタオルを巻いた技術部の五人の技術士官の姿があった。

「農作業?」 

『仕方ないだろ?グリファン中尉がやるって聞かないんだから。今のうちに土と肥料をなじませないと来年の実りは保障されないんだそうな』 

 背後に耕運機のエンジン音が響く。思い切り脱力しながら誠達は画面をのぞき込んだ。

「今更出てきて何するつもりだよ」 

 かなめの言葉は冷たい。確かに以前から何度と無く協力を頼んでは断られていただけに誠も島田の真意が図りかねた。

『法術適正の際に採取した法術師のアストラルパターンデータ集が東都の住民管理局に眠っているわけだが眠っているだけじゃもったいないからな。それと照合すれば完全に裏が取れる。まあデータの件数は俺クラスじゃないと扱えない規模になるだろうけどな』 

「また無茶なことを……それにそんなところにアクセスするにはそれなりのパスが無いと無理なんじゃねえのか?」

 かなめの言葉に得意げ島田田は話を続ける。 

『そんなものは必要ないね。同盟厚生局とやりあったときに貸しを作ってくれたのはお前等だろ?その取り立てとしてみれば安いものさ』

 かなめの問いに答えながら島田はいい顔で額の泥をぬぐっていた。

「強引にねじ込む訳か……」

「本当にいいんすか?」 

 心配そうなラーナ。だがすでに画面の中ではすっかりやる気の島田がいる。彼がやると言ったらやるだろう。

「止めても無駄みたいね……じゃあお願いするわね」 

 アメリアの声に技術士官達が嫌な顔を浮かべていた。

『まあ……さっさと帰れよ。俺が何とかして明日には結果を出せると思うから』 

 端末の画像が途切れる。カウラが大きくため息をついた。

「ベルガー大尉。所詮我々でのローラー作戦なんて無意味ですから」 

「分かっているが……なんだか気になってな」 

 カウラはそう言うと首のネクタイを緩める。

「何でも自分で背負い込むのは止めた方が良いわよ」 

「なんだよ、アメリア。ずいぶんと知った風を気取るじゃねえか」 

 そんなかなめの言葉にアメリアはにやりと笑うと端末を仕舞う。カウラや誠も端末の終了作業を行なっている。

「で……簡単に分かるものなのか?」

 ネクタイを外したカウラの問いにラーナは苦笑いを浮かべる。

「証拠として採用できる範囲の情報があるかどうか……」 

「そうだよな。連中は犯人を見つけましたというかもしれないが証拠が無ければ逮捕と言うわけには行かないからな」 

「あら、かなめちゃん。『疑わしきは罰せず』と言う刑法の基本も知ってるのね」

 再びチャカしたアメリアの細い目をかなめがたれ目でにらみつけている。

「お二人とも!とりあえず終わりにしましょうよ」 

 誠の言葉で二人は舌打ちしながら離れていく。気分が悪いと言うようにかなめは終了した端末から首につながるコードを抜くとそのまま立ち上がり出て行った。

「単純!」 

 うれしそうに笑いながらアメリアはエラー画像が出た誠の端末を軽くいじって終了させてやっていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...