レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,449 / 1,503
日常

会議

しおりを挟む
 アメリアがノックをする。

「どうぞ 」 

 澄んだ声。部隊長嵯峨惟基の実娘、嵯峨茜警視正の声が響く。そのまま開いた扉の中を見れば振り返るカウラと法術特捜担当ということで呼び出された実働部隊長のクバルカ・ラン中佐の幼い顔があった。

「なんだよ神前。髪の毛濡れたままじゃねーか……。西園寺。そんなに神前を急かす必要なんてねーんだぞ」 

 ランの言葉にむっとした表情のままかなめはランの隣の椅子にどっかと腰を落ち着ける。その大人気ない様子にカウラは大きくため息をつく。

「さあ、皆さんそろったんですから……」 

 なんとか和ませようと中腰で仲介するのは技術部の整備班長の島田正人准尉。隣にいるアメリアの部下のサラ・グリファン少尉も雲行きの怪しい誠達のとばっちりを避けたいというように頷きながらかなめを見つめていた。

「そろったと言うことで」 

 ホワイトボードの前に立つ茜が室内を見回す。

「まあな。それじゃあ何のためにアタシ等が呼ばれたか聞かせてもらおうか」 

 かなめの声に茜は微笑みで返す。

「実は最近演操術系の法術を使用しての悪戯のようなものが多発していますの」 

 紺の東都警察の制服が似合う茜。以前の主にこの豊川司法局実働部隊駐屯地に詰めっぱなしだったときの東和陸軍と共通の司法局実働部隊のオリーブドラブの制服とは違う新鮮な姿に誠は惹きつけられていた。

「例の件か……結局アタシ等にお鉢が回ってきたわけだな」 

 かなめの苦笑いを見ながら茜はなにやら端末を叩いている助手のカルビナ・ラーナ警部補に目を向けた。

 白いボードに何かの映像が映る。焼け焦げた布団。ばっさりと切り裂かれた積み上げられたタイヤの山。ガードレールが真っ二つに裂かれているのにはさすがの誠もぎょっとしてしまった。

「ごらんのようにボヤや器物の損壊で済んでいますが……」 

「おい待てよ」 

 話を進めようとする茜をかなめが不機嫌な表情で止めた。

「なんだよなんだよ。アタシ等の知らないところでこんなことまでやったのか?」 

「お前は馬鹿か?同一犯とは決まったわけじゃないだろ?」 

 立ち上がって叫ぶかなめにポツリとつぶやくカウラ。かなめは完全にカウラの言葉に切れていつものように一触即発の雰囲気が漂う。島田とアメリアはとりあえずいつかなめがカウラに飛び掛ってもいいように身構えているのが誠からすると滑稽に見えて噴出してしまう。

「神前君。不謹慎よ」 

 同じくにやけながら噴出した誠をサラがいさめる。

「どれも容疑者として上げた法術師はそんな意識は無かったと容疑を否認しているって訳だな……神前達が出会ったのもそんな事件の一つってことだな」 

 一人離れた場所からこの様子を見ていたランの言葉に茜は大きくうなづいた。

「恐らくはそうでしょう。ですが……」 

 そう言うと茜は従姉に当たるかなめに目を向けた。かなめは首筋のジャックにコードをつなげてネットワークと接続している最中だった。

「どの事件も発生場所は東都東部に集中しているな。それに時間も夕方6時から夜中の12時まで。唯一の例外が正月のアタシ等が出会ったボヤ。同一犯の犯行と考えるのを邪魔する要素はねえな」 

「馬鹿にしないでくださいよ。そんくらいのことは捜査官もわかって話してるんす!」 

 不愉快だと言うようにラーナが叫ぶ。茜は彼女の肩を叩いて頷きながらなだめて見せた。

「でもそれならうちよりも所轄に頼むのが適当なんじゃないですか?うちは豊川ですよ。どんなに急いでも都心まで出かければ半日は無駄にしますから。それに先日の厚生局事件の時に活躍した東都警察の虎の子の航空法術師部隊を待機させてローラー作戦でもやれば一発で見つかるでしょ?」 

 アメリアの言葉にもっともだと誠もうなづく。

「反対する理由は無いな。クラウゼの言うことが今のところ正しく見えるのだが……」 

 カウラも同意しているのを見てかなめはやる気がなさそうに端末につないでいたコードを引き抜く。

「オメー等の言うとおりだが一つ大事なことを忘れてんぞ。東都警察がこの種の事件に興味を持っていればって限定が入るんじゃねーのか?アメリアのような捜査手法をとるにはさー」 

 ランの一言。見た目は8歳くらいにしか見えなくても司法局実働部隊副長の肩書きは伊達ではなかった。そして自分達が遼州同盟の司法捜査官であり東都警察の捜査官と違うと言う現実に目が行った。

「確かに東和警察は解決を急ぐつもりは無いようです。どれも他愛の無い悪戯程度で済んでいますから……でも得てしてこういう愉快犯はいつか暴走して……」 

「要は大事になる前に捕まえろってことか?面倒だなあ。どうせならこっちに引っ越して来てくれるといいんだけど」 

「そんなに都合よく行くわけ無いだろ?」 

 かなめの言葉に突っ込むカウラ。そのいつもどおりの情景に誠はいつの間にか癒されるようになっていた。

「でもあれだぜ。あの正月の事件以来同種の事件は発生していねえからな。もしかすると……」 

 周りを見渡してにんまりと笑うかなめ。だが全員が大きなため息をついて白い目で彼女を見つめた。

「西園寺さん。もしかして犯人は現在引っ越し準備中で豊川近くに部屋でも借りに来ているとでも言うつもりですか?」 

 それまで沈黙を黙っていた島田の一言。隣では彼に同調するように赤い髪のサラが大きくうなづいている。

「でもあれだぞ!今の時期は年度末を控えていろいろ引越しとか……」 

「だとなんで豊川市に引っ越して来るんだ?」 

 呆れるを通り越して哀れみの目でかなめを見つめるカウラ。追い詰められたかなめは必死に出口を探して頭をひねる。そして手を打って元気良く叫んだ。

「そりゃあ法術を最初に展開して今みたいな状況を作ったアタシ等に復讐するため!」 

「あのなあ、西園寺。その発想は島田レベルだぞ……まあいいや。もし隊長の許可が出たら司法局にかえで達第二小隊を詰めさせるから。それで勘弁してくれよ」 

 ランの言葉に茜はうなづくとテーブルを整理始めた。周りの面々もそれぞれに立ち上がり持ち場へと急ごうとする。

「何だよ!テメエ等!寄ってたかってアタシを馬鹿にしやがって!」 

 怒鳴るかなめの肩にそっとランが手を乗せる。

「まあ良いじゃねーか。要は犯人を捕まえれば分かるってわけだ」 

 これ以上無い正論を言われてさすがのかなめも参ったというように肩を落とす。誠もカウラもこれから先彼女と付き合って捜査を行うだろう今後を思いやりながらそれぞれに席を立った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...