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特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第七部 「低殺傷兵器(ローリーサルウェポン)」 発端
引き継ぎ
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「結局こうなるのね……」
アメリアはそう言いながら不機嫌そうに紺色の長い髪をとかす。東都の下町の誠の実家で破れた晴れ着をもったいないと丁寧にたたむ誠の母、薫。無事でよかったと笑っている父、誠一。彼等と今回の火事の鎮火にいかに自分が必要だったかをアメリアは大げさに話す。そんなところに誠達と同じ司法局の直属捜査部署である法術特捜本部長の嵯峨茜警視正から今回の事件の目撃者として警察署に出頭するようにとの連絡があり、とりあえず時間をもらってシャワーと着替えだけを済ませてこうして東和東都南城警察署の取調室へとたどり着いていた。
「あんなに泣いてたら取調べにならないだろうが……」
かなめはそう言いながらマジックミラーの向こうを眺めていた。そこには振袖姿の少女が取り調べの警察官の前で知らないと連呼しながら泣きじゃくっている。
「でも彼女以外パイロキネシス能力の適正のある人物はいなかったんだから……ああ、かなめちゃんが口から火を吹いたと言う線もあるわね」
一番ここに来るまでのカウラのスポーツカーの車内で愚痴を垂れていたアメリアが挑発するようにつぶやいた。思わずかなめがにらみつけるがアメリアは手にしたコーヒーの香りを楽しみながらまるで気にしていないという表情で歩き始めてしまう。取調室ではほとんど質問を諦めたという表情の捜査官を見ながらカウラも仕方なくコーヒーをすすった。
「拘束した者の他にもパイロキネシストいる可能性はあるな。それと適性検査自体もまだ技術的に確立されたものではないからな。資料に無くても思念発火が出来る人物がいた可能性もある。西園寺、法術適正のあった連中は一通り身元は確認したんだろ?」
「そりゃあまあ……でも能力適正が低い人物は簡易検査じゃ引っかからないからねえ。あの程度の火事を起こすくらいの力なら他の適正で引っかかった奴の犯行の可能性も捨てきれねえな」
かなめはそう言うと珍しくおとなしく手持ちの携帯端末から伸びるコードを自分の首筋のジャックに挿して情報収集を開始した。
「感覚的には……この子じゃないと思うんですけど……」
誠は直感的にそう口にしていた。かなめ、カウラ、アメリアの顔が一斉にぼんやりと思いをつぶやいただけの誠の顔を射抜く。
「は?『あんなかわいい女の子が犯罪者のはずは無いです!』とか言い出すつもりか?ばーか」
かなめの馬鹿にしたような口調に誠は何も言えずに自分のために入れてもらったコーヒーを手に取った。
「そう言う意味じゃないですよ!だって法術適正反応が出るといろいろ面倒な話を聞かされるらしいじゃないですか」
「そうね、まず最初に市役所での法術発動封印の誓約書を書かされて、そのあと警察署で法術に関する諸法の講習。それに能力ごとに消防署だとか陸運局だとかに提出する書類があって……」
誠の話をアメリアが引き継ぐ。その言葉を聞きながら再び誠は取調室の中を見た。相変わらず少女は泣くばかりで事情聴取はまるで進んでいない。
「法術の発動については何も知らない……気がついたら火が目の前に広がっていた……となると」
「能力の暴走の線が有力ですわね」
後ろから声をかけられてかなめは驚いて座っていた机から飛び降りる。そして彼女の後ろには見慣れた東都警察の制服を着た女性が腕組みをして立っていた。
「今頃出てきやがって……人を呼び出して何してた?デートか?」
「いいえ、かなめさんとは違って昨日から徹夜ですの。法術に関する捜査マニュアル。すぐにでも必要になるのに……なかなか思うように行きませんわね」
上品そうにそう言うとそのまま取調室が見えるガラス越しまでやってきて中をのぞき込む。
かなめの従妹で誠達の所属する司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐の娘である同盟司法局法術特捜の主席捜査官嵯峨茜警視正だった。いつもどおりに表情を変えずに中を一瞥した後ついてきた補佐官のカルビナ・ラーナ警部補が手にした捜査器具を取り出した。
「なんだそれ?」
かなめの質問にラーナは顔を上げるがまるで興味がないというように視線をおろして取り出した器具の制御をする為に端末にコードをつなぐ。
無視されて冷静でいられるほどかなめは人間ができていなかった。そのままつかつかとラーナに近づいて懐から取り出したコードを自分の首のジャックとラーナの端末に接続する。
「西園寺大尉!困るっす!」
「うるせえ!」
茜は一瞥して困った顔のラーナに頷いて見せてかなめの情報収集を黙って許した。
「演操術師の特定か……それならつじつまが合うな」
『演操術』。初めて聞く言葉に誠もカウラも目を茜に向けた。
「なんだか分からないけど面倒なことになりそうなのね」
アメリアがコーヒーを口に含んでその様子を眺めている。
「わたくし達が動く事件は大体が面倒なことなのではなくて?」
上品に答える茜にアメリアは手を広げて知らぬふりと言うような態度を示して見せた。
「確かに……今回も面倒なことになりそうだな」
カウラはそう言うと静かにコーヒーをすすった。そんな彼女の前で茜は大げさに直立不動の姿勢をとった。カウラも気づいて敬礼する。
「嵯峨茜警視正、事件を引き継ぎます」
「よろしくお願いします」
その有様を相変わらずラーナの機械を弄りながらかなめが眺める。アメリアはと言えば部屋の隅に置かれていた事務机にかけてあったコートに袖を通している。
「アメリアさん……」
誠が恐る恐る声をかける。その脇を安心したと言う表情のカウラが通り過ぎる。
「引継ぎは終わったわけだな……帰るか」
「いいんですか?事件はまだ……」
そこまで言いかけたところで茜が誠の肩を叩いた。
「初期消火とその後の対応お疲れ様。後は私達が引き継ぎますわ。正月休み、ごゆっくり」
「はあ……」
誠は自分と同じ年のエリート警察官の言葉に何も言い返せ無いことは分かっていた。そしてそのまま帰ろうとする三人の女上司の後を追って取調室を後にした。
アメリアはそう言いながら不機嫌そうに紺色の長い髪をとかす。東都の下町の誠の実家で破れた晴れ着をもったいないと丁寧にたたむ誠の母、薫。無事でよかったと笑っている父、誠一。彼等と今回の火事の鎮火にいかに自分が必要だったかをアメリアは大げさに話す。そんなところに誠達と同じ司法局の直属捜査部署である法術特捜本部長の嵯峨茜警視正から今回の事件の目撃者として警察署に出頭するようにとの連絡があり、とりあえず時間をもらってシャワーと着替えだけを済ませてこうして東和東都南城警察署の取調室へとたどり着いていた。
「あんなに泣いてたら取調べにならないだろうが……」
かなめはそう言いながらマジックミラーの向こうを眺めていた。そこには振袖姿の少女が取り調べの警察官の前で知らないと連呼しながら泣きじゃくっている。
「でも彼女以外パイロキネシス能力の適正のある人物はいなかったんだから……ああ、かなめちゃんが口から火を吹いたと言う線もあるわね」
一番ここに来るまでのカウラのスポーツカーの車内で愚痴を垂れていたアメリアが挑発するようにつぶやいた。思わずかなめがにらみつけるがアメリアは手にしたコーヒーの香りを楽しみながらまるで気にしていないという表情で歩き始めてしまう。取調室ではほとんど質問を諦めたという表情の捜査官を見ながらカウラも仕方なくコーヒーをすすった。
「拘束した者の他にもパイロキネシストいる可能性はあるな。それと適性検査自体もまだ技術的に確立されたものではないからな。資料に無くても思念発火が出来る人物がいた可能性もある。西園寺、法術適正のあった連中は一通り身元は確認したんだろ?」
「そりゃあまあ……でも能力適正が低い人物は簡易検査じゃ引っかからないからねえ。あの程度の火事を起こすくらいの力なら他の適正で引っかかった奴の犯行の可能性も捨てきれねえな」
かなめはそう言うと珍しくおとなしく手持ちの携帯端末から伸びるコードを自分の首筋のジャックに挿して情報収集を開始した。
「感覚的には……この子じゃないと思うんですけど……」
誠は直感的にそう口にしていた。かなめ、カウラ、アメリアの顔が一斉にぼんやりと思いをつぶやいただけの誠の顔を射抜く。
「は?『あんなかわいい女の子が犯罪者のはずは無いです!』とか言い出すつもりか?ばーか」
かなめの馬鹿にしたような口調に誠は何も言えずに自分のために入れてもらったコーヒーを手に取った。
「そう言う意味じゃないですよ!だって法術適正反応が出るといろいろ面倒な話を聞かされるらしいじゃないですか」
「そうね、まず最初に市役所での法術発動封印の誓約書を書かされて、そのあと警察署で法術に関する諸法の講習。それに能力ごとに消防署だとか陸運局だとかに提出する書類があって……」
誠の話をアメリアが引き継ぐ。その言葉を聞きながら再び誠は取調室の中を見た。相変わらず少女は泣くばかりで事情聴取はまるで進んでいない。
「法術の発動については何も知らない……気がついたら火が目の前に広がっていた……となると」
「能力の暴走の線が有力ですわね」
後ろから声をかけられてかなめは驚いて座っていた机から飛び降りる。そして彼女の後ろには見慣れた東都警察の制服を着た女性が腕組みをして立っていた。
「今頃出てきやがって……人を呼び出して何してた?デートか?」
「いいえ、かなめさんとは違って昨日から徹夜ですの。法術に関する捜査マニュアル。すぐにでも必要になるのに……なかなか思うように行きませんわね」
上品そうにそう言うとそのまま取調室が見えるガラス越しまでやってきて中をのぞき込む。
かなめの従妹で誠達の所属する司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐の娘である同盟司法局法術特捜の主席捜査官嵯峨茜警視正だった。いつもどおりに表情を変えずに中を一瞥した後ついてきた補佐官のカルビナ・ラーナ警部補が手にした捜査器具を取り出した。
「なんだそれ?」
かなめの質問にラーナは顔を上げるがまるで興味がないというように視線をおろして取り出した器具の制御をする為に端末にコードをつなぐ。
無視されて冷静でいられるほどかなめは人間ができていなかった。そのままつかつかとラーナに近づいて懐から取り出したコードを自分の首のジャックとラーナの端末に接続する。
「西園寺大尉!困るっす!」
「うるせえ!」
茜は一瞥して困った顔のラーナに頷いて見せてかなめの情報収集を黙って許した。
「演操術師の特定か……それならつじつまが合うな」
『演操術』。初めて聞く言葉に誠もカウラも目を茜に向けた。
「なんだか分からないけど面倒なことになりそうなのね」
アメリアがコーヒーを口に含んでその様子を眺めている。
「わたくし達が動く事件は大体が面倒なことなのではなくて?」
上品に答える茜にアメリアは手を広げて知らぬふりと言うような態度を示して見せた。
「確かに……今回も面倒なことになりそうだな」
カウラはそう言うと静かにコーヒーをすすった。そんな彼女の前で茜は大げさに直立不動の姿勢をとった。カウラも気づいて敬礼する。
「嵯峨茜警視正、事件を引き継ぎます」
「よろしくお願いします」
その有様を相変わらずラーナの機械を弄りながらかなめが眺める。アメリアはと言えば部屋の隅に置かれていた事務机にかけてあったコートに袖を通している。
「アメリアさん……」
誠が恐る恐る声をかける。その脇を安心したと言う表情のカウラが通り過ぎる。
「引継ぎは終わったわけだな……帰るか」
「いいんですか?事件はまだ……」
そこまで言いかけたところで茜が誠の肩を叩いた。
「初期消火とその後の対応お疲れ様。後は私達が引き継ぎますわ。正月休み、ごゆっくり」
「はあ……」
誠は自分と同じ年のエリート警察官の言葉に何も言い返せ無いことは分かっていた。そしてそのまま帰ろうとする三人の女上司の後を追って取調室を後にした。
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