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やっつけ仕事
夕刻
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あたりの景色がやみに沈みシーンの終わりを告げる。誠はすぐにバイザーとヘルメットを脱いでカプセルから出ようとして縁に頭をぶつけた。
「何やってんだよ」
かなめは呆れたような感じでそうつぶやいた。そして起き上がった誠は腕組みをして薄ら笑いを浮かべているアメリアを見つけた。
「アメリアさん!」
「ああ、何も言わなくても良いわよ!じゃあ……」
そう言うとカプセルから顔を出す一同をアメリアは満遍なく眺めた。
「典型的なやっつけ。全部私が悪かったです。ごめんなさい」
頭を下げるアメリアに全員が白い目を向ける。役に対する不満と言うより明らかにアメリアの趣味だけで構成された物語にかなめやカウラの視線は殺気までこもっているようにアメリアに突き刺さっていた。
「だってしょうがないじゃない!これ三日で書いたのよ!」
「期間の問題じゃないと思うがな」
カウラはそう言ってあっさり切り捨てる。
「まあ……がんばれ!」
サラは白々しい笑顔を向ける。彼女もオタク歴の長い人物である。設定の矛盾に気づいているのは確かだった。
「私はこういうのは良く分からないから」
春子はとぼけてみせる。三人の言葉にアメリアはさらに落ち込む。
「新藤さん、撮り直しは……」
ゆるゆると頭をもたげて画面を編集している新藤を見つめるアメリアだが、目で明らかに拒否しているその姿を見てがっくりと肩を落とす。
「そんなに落ち込まないでよ。私は楽しかったわよ」
春子はそう言って彼らがアメリアいじめをしている間に起き上がってお茶を入れている。だが、彼女が先ほどアメリアの台本の致命的弱点を指摘しているだけに、自分の湯飲みを受け取っても答える気力も無いアメリアがそこにいた。
「意外とこう言うの叔父貴が得意なんだけどな」
そうぽつりと言ったかなめにアメリアは再び目を光らせる。
「ホント?」
「嘘ついても仕方がねえだろ?甲武の先の大戦前に活躍した斎藤一学って言う画家がいただろ?あれが確か叔父貴と高等予科の同期でいろいろと付き合いがあって、斎藤が挿絵を描いた発表していない小説が有るとか無いとか親父が言ってたような……」
かなめの言葉をそこまで聞くとアメリアはそのまま部屋を出て行こうとするが、サラとパーラが身をもって止める。
「だめよ!どうせ隊長は断るに決まってるじゃない!」
「今からどう変えるのよ!あんたが書いたんでしょ!」
胴にしがみつくパーラ。右足を引っ張るサラ。そのどたばたを察したかのように現れたのは嵯峨だった。
「あれ?俺の出番まだ?」
明らかに空気を無視した嵯峨の登場にアメリアは目を潤ませる。嵯峨はその尋常ならざる気配に思わず後ずさりをする。
「俺のことなんか噂してた……ような雰囲気だな」
頭を掻きながら目にしたのはアメリアの鋭い視線だった。さすがの嵯峨も焦ったように身を引く。
「クラウゼ、ちょっとその目、怖いんだけど」
そう言う嵯峨の前まで早足で近づいたアメリアは嵯峨の両手を取って瞳を潤ませた。
「隊長!た・す・け・て・くださいー!」
泣きついて来るアメリアにしなだれかかられて鼻の下を伸ばす嵯峨だが、その視線の先に春子と小夏、そしてかなめがいるのを見てアメリアを引き剥がした。
「なんだよ、そんなにひどい出来には見えなかったけどな。予定よりは」
「見てたんですね!隊長!ひどいですよ!あれでしょ?隊長は甲武の高等予科時代に書いた作品があったとか……」
アメリアの言葉に少し首をひねった後、嵯峨はかなめに困ったような顔を向ける。
「いいじゃねえか。知恵ぐらい貸してやれよ」
ニヤニヤ笑いながらそう言うかなめを見つめて嵯峨はさらに困惑した表情になる。
「ああ、学生時代の話ね。俺はどっちかというと散文は苦手でね。都都逸や和歌なんかの韻文はそれなりには自信があったけど」
「インブン?サンブン?」
嵯峨の言葉に小夏はいつものように一人でパニックに陥っているその肩を叩いたカウラが小夏に寄り添うように立つ。
「韻文というのは詩だ。語彙のバリエーションや言葉の響きの美しさを求める文章だ。そして散文は小説や評論なんかだな。意味や内容、構築する技術が求められる」
そう言うカウラに小夏は分かったような分からないような表情で答える。誠はどちらかと言えば小夏は理解していないと踏んでいた。
「どっちでもいいけどよー。要するに隊長は多少は物語の良し悪しが分かるんだろ?じゃあなんで前もってこいつに教えてやんなかったんだよ」
嵯峨の後ろで腕組みをしながらランがそう言った。会議室の全員が嵯峨に視線を向ける。
「だってさあ、こいつがこう言うことに才能を開花させちゃったりしたら大変だろ?うちにはこいつが必要だからな」
そう言って嵯峨は落ち込んでいるアメリアの肩を叩く。
「あのー。私はこっちの分野は才能を開花させたいんですけど……」
「安心しろ!そうなったら俺が全力で潰してやる」
嵯峨は満面の笑みを浮かべて窓際でいくつも並べたモニターを眺めている新藤に目をやる。監督はそれを察して了解したとでも言うように黙って手を上げた。
「ひどい!なんてひどいんでしょう!この上司は」
わざとらしくそう言うとアメリアは誠に向かって歩いてくる。
「ひどいと思わない?誠ちゃん。あの人鬼よ!」
そう叫ばれても誠は何もできずに愛想笑いを浮かべていた。そのままじりじりと近づいてきて軽くアメリアの胸が誠の手に当たる。ちらりとかなめが蹴りを入れるようなポーズをとるのをカウラが止めているのが見えた。
「大丈夫だよ。新藤がどうせいろいろいじるんだろ?何とか見れるような作品にはなると思うぞ。それじゃあ続きをはじめるんじゃないのか?」
そう言って嵯峨はそのまま手前の空いていたカプセルに寝転がる。
「そうね、新藤さん!お願いね!」
アメリアが叫んでみるが、相変わらずモニターから目を離さずに新藤が再び手を上げた。
「次は南條家のシーンだから!ルカ、お願い」
「はあ、仕方ないか」
そう言うとルカは嫌々カプセルに身を横たえる。誠も出番があったのを思い出してまたカプセルの中に戻った。
「何やってんだよ」
かなめは呆れたような感じでそうつぶやいた。そして起き上がった誠は腕組みをして薄ら笑いを浮かべているアメリアを見つけた。
「アメリアさん!」
「ああ、何も言わなくても良いわよ!じゃあ……」
そう言うとカプセルから顔を出す一同をアメリアは満遍なく眺めた。
「典型的なやっつけ。全部私が悪かったです。ごめんなさい」
頭を下げるアメリアに全員が白い目を向ける。役に対する不満と言うより明らかにアメリアの趣味だけで構成された物語にかなめやカウラの視線は殺気までこもっているようにアメリアに突き刺さっていた。
「だってしょうがないじゃない!これ三日で書いたのよ!」
「期間の問題じゃないと思うがな」
カウラはそう言ってあっさり切り捨てる。
「まあ……がんばれ!」
サラは白々しい笑顔を向ける。彼女もオタク歴の長い人物である。設定の矛盾に気づいているのは確かだった。
「私はこういうのは良く分からないから」
春子はとぼけてみせる。三人の言葉にアメリアはさらに落ち込む。
「新藤さん、撮り直しは……」
ゆるゆると頭をもたげて画面を編集している新藤を見つめるアメリアだが、目で明らかに拒否しているその姿を見てがっくりと肩を落とす。
「そんなに落ち込まないでよ。私は楽しかったわよ」
春子はそう言って彼らがアメリアいじめをしている間に起き上がってお茶を入れている。だが、彼女が先ほどアメリアの台本の致命的弱点を指摘しているだけに、自分の湯飲みを受け取っても答える気力も無いアメリアがそこにいた。
「意外とこう言うの叔父貴が得意なんだけどな」
そうぽつりと言ったかなめにアメリアは再び目を光らせる。
「ホント?」
「嘘ついても仕方がねえだろ?甲武の先の大戦前に活躍した斎藤一学って言う画家がいただろ?あれが確か叔父貴と高等予科の同期でいろいろと付き合いがあって、斎藤が挿絵を描いた発表していない小説が有るとか無いとか親父が言ってたような……」
かなめの言葉をそこまで聞くとアメリアはそのまま部屋を出て行こうとするが、サラとパーラが身をもって止める。
「だめよ!どうせ隊長は断るに決まってるじゃない!」
「今からどう変えるのよ!あんたが書いたんでしょ!」
胴にしがみつくパーラ。右足を引っ張るサラ。そのどたばたを察したかのように現れたのは嵯峨だった。
「あれ?俺の出番まだ?」
明らかに空気を無視した嵯峨の登場にアメリアは目を潤ませる。嵯峨はその尋常ならざる気配に思わず後ずさりをする。
「俺のことなんか噂してた……ような雰囲気だな」
頭を掻きながら目にしたのはアメリアの鋭い視線だった。さすがの嵯峨も焦ったように身を引く。
「クラウゼ、ちょっとその目、怖いんだけど」
そう言う嵯峨の前まで早足で近づいたアメリアは嵯峨の両手を取って瞳を潤ませた。
「隊長!た・す・け・て・くださいー!」
泣きついて来るアメリアにしなだれかかられて鼻の下を伸ばす嵯峨だが、その視線の先に春子と小夏、そしてかなめがいるのを見てアメリアを引き剥がした。
「なんだよ、そんなにひどい出来には見えなかったけどな。予定よりは」
「見てたんですね!隊長!ひどいですよ!あれでしょ?隊長は甲武の高等予科時代に書いた作品があったとか……」
アメリアの言葉に少し首をひねった後、嵯峨はかなめに困ったような顔を向ける。
「いいじゃねえか。知恵ぐらい貸してやれよ」
ニヤニヤ笑いながらそう言うかなめを見つめて嵯峨はさらに困惑した表情になる。
「ああ、学生時代の話ね。俺はどっちかというと散文は苦手でね。都都逸や和歌なんかの韻文はそれなりには自信があったけど」
「インブン?サンブン?」
嵯峨の言葉に小夏はいつものように一人でパニックに陥っているその肩を叩いたカウラが小夏に寄り添うように立つ。
「韻文というのは詩だ。語彙のバリエーションや言葉の響きの美しさを求める文章だ。そして散文は小説や評論なんかだな。意味や内容、構築する技術が求められる」
そう言うカウラに小夏は分かったような分からないような表情で答える。誠はどちらかと言えば小夏は理解していないと踏んでいた。
「どっちでもいいけどよー。要するに隊長は多少は物語の良し悪しが分かるんだろ?じゃあなんで前もってこいつに教えてやんなかったんだよ」
嵯峨の後ろで腕組みをしながらランがそう言った。会議室の全員が嵯峨に視線を向ける。
「だってさあ、こいつがこう言うことに才能を開花させちゃったりしたら大変だろ?うちにはこいつが必要だからな」
そう言って嵯峨は落ち込んでいるアメリアの肩を叩く。
「あのー。私はこっちの分野は才能を開花させたいんですけど……」
「安心しろ!そうなったら俺が全力で潰してやる」
嵯峨は満面の笑みを浮かべて窓際でいくつも並べたモニターを眺めている新藤に目をやる。監督はそれを察して了解したとでも言うように黙って手を上げた。
「ひどい!なんてひどいんでしょう!この上司は」
わざとらしくそう言うとアメリアは誠に向かって歩いてくる。
「ひどいと思わない?誠ちゃん。あの人鬼よ!」
そう叫ばれても誠は何もできずに愛想笑いを浮かべていた。そのままじりじりと近づいてきて軽くアメリアの胸が誠の手に当たる。ちらりとかなめが蹴りを入れるようなポーズをとるのをカウラが止めているのが見えた。
「大丈夫だよ。新藤がどうせいろいろいじるんだろ?何とか見れるような作品にはなると思うぞ。それじゃあ続きをはじめるんじゃないのか?」
そう言って嵯峨はそのまま手前の空いていたカプセルに寝転がる。
「そうね、新藤さん!お願いね!」
アメリアが叫んでみるが、相変わらずモニターから目を離さずに新藤が再び手を上げた。
「次は南條家のシーンだから!ルカ、お願い」
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