レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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宿命の対決

第47話 魔導の戦い

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「なるほど!アタシに本気を出させたいわけだな!」 

 ランもまた力の限り自分の身長を超える剣を振りかざす。二人の得物が激突し、強烈な光があたりを覆った。

「なに?なにが起きたの!」 

 上空でまぶしさに小夏は目をつぶってしまう。

「小夏!」 

 思わずグリンが叫ぶ。そしてかなめは強力そうなこぶしを握り締めて笑みを浮かべる。

 三人に見守られる中、強烈な光がいくつもの稲妻で当たりを染めながら次第に薄くなっていく様子が見て取れた。

「やるもんだな……」 

 肩で息をして小夏の桃色に輝く杖に受け止められた剣をランは手馴れたように腰の鞘に収める。その赤いドレスはぼろぼろに破れ、頬にはいくつもの傷が見て取れた。

「ランちゃんもね」 

 同じく小夏も魔法少女の衣装をぼろぼろにしながら杖を掲げる。そのまま息を整えながら二人は上空で見詰め合った。

『青春だねえ』 

 突然抜けたような声が響いたので誠は驚いた。いつの間にか会議室に紛れ込んでいた嵯峨がウィンドウ越しに割り込んでくる。

『嵯峨さん。良いんですか?お仕事は』 

 春子の言葉に誠もいくつか付け足したい気分だった。

『ちょっとくらい匿ってくれたっていいじゃないですか』 

『サボるな!』 

 女性としてはハスキーな張りのある声。それが遼州同盟司法局機動隊、通称『特務公安隊』隊長の安城秀美のものであることは誠にもすぐに分かった。昨日同盟本部に法務司法執行機関および治安関係団体幹部会議を『頭が痛い』と言って欠席して隊長室で刀を研いでいたところは誠も目撃していた。 

『春子さん、嵯峨特務大佐はお借りしますから』 

『どうぞご自由にお使いください』 

 春子に見放されて落ち込んでいるだろう嵯峨の顔を想像して誠は思わず笑いそうになる。再び誠が画像に意識を向けるとすでに逃げ去ったランを見送る小夏の姿があった。

「小夏!なんで私に助けを求めなかったの?せっかく捕まえられるチャンスだったのに!」 

 すでに戦いは引き分けに終わりランが逃げ去った後だった。サラは小夏のところまで降下すると責め立てた。でも口を真一文字に結んだ小夏は謝るつもりはないというようにサラをにらみつける。

「良いじゃねえか!このくらいの気迫が無けりゃあ戦いなんてできないもんだ」 

 相変わらずどう見ても敵の魔女と言うか機械人間のように見えるかなめが良い顔で小夏の頭を撫でる。

「そんなスポーツじゃないんだよ!いつかは決着をつけなきゃいけない……」 

 そう叫ぶグリンの口にかなめは手をやる。

「それよりこのままにしておくつもりか?」 

 かなめはそう言うと下の光景を見下ろした。グリンだけでなく小夏もサラも眼下の光景を眺めた。神社と中学校の木々の頭の部分が焼け焦げ煙を揚げている。一方ランが突風を吹かせた影響で小学校のガラスがすべて砕けて無残な姿を晒していた。

「分かりましたよ!後で明石司令に報告します!」 

 そう言うとグリンは両手を広げた。彼の手からあふれ出た光の粒が中学校と隣の鎮守の森を包む。木々は再び生き生きと茂り始め、中学校の砕けた窓ガラスが元に戻っていく。

『これは凄いな』 

『え?カウラさん来てたんですか?』 

 突然のカウラの声に少しばかり誠は焦った。次のシーンは明石の喫茶店に誠に会いにカウラがやってくる場面になるはずだった。

 画面では中学校の屋上に舞い降りてもとの制服姿に戻る小夏が映されていた。

『おい、アメリア。ちょっといろいろといじりたい場面があるんだが……少し休憩ってことにならないかな』 

 映像担当の新藤の声が響く。

『そうですか、じゃあしばらく休憩しましょう』 

 映像関係の責任者の一声で、バイザーの中に映っていた画面が消える。誠はそのままヘルメットを外してカプセルから起き上がる。

「あー疲れた……あっ!食べちゃったんだ!ずるいんだ!」 

 いち早く飛び上がるようにして起きていた小夏が入り口に置かれたおはぎが入っていた重箱が空になったのを指して膨れっ面をしている。

「だって硬くなったらもったいないじゃない!」 

 そう言ってサラは重箱に蓋をしている。その脇では小夏の怒っている姿が面白いのか、珍しくニコニコ笑いなが明石が口を動かしている。

「よし、それじゃあ仕事に戻るぞ」 

 そう言うとカウラは誠の襟首をつかむ。小夏とサラ達がにらみ合っている状況を見物していた誠はかなめの手を引っ張って会議室から廊下へと歩き出した。

「なんだよ神前。アタシは仕事は終わってるんだよ!」 

 そう言って逃げ出そうとするかなめに誠は泣きついた。

「僕の端末の画面をどうにかしてくださいよ」 

 廊下に出た誠の言葉にかなめは頭を掻く。そして思い出したようにかなめが手を打ったところから彼女が自分のしたことを忘れていることに誠はただ呆然としていた。

「分かったよ。しかし、オメエ等仕事が遅いねえ」 

「電子戦対応装備のサイボーグを基準で判断されてはたまらないな」 

 そう言ってカウラはかなめを余裕の表情で一瞥するとそのまま実働部隊の部屋へと向かう。部隊長の余裕を見せられたかなめは明らかに含むところがあると言う表情でカウラについて歩く。

「まあ、しゃあねえかな。隣の怖い警視正殿の面目を潰すわけにもいかねえだろう……しな!」 

 そう言うとかなめは法術特捜の間借りしている部屋のドアを開けた。ドアには茜が張り付いていたが、誠と目が会うと空々しい笑顔を浮かべて茜は奥へと消えていった。

「信用ねえな、神前は」 

「え?僕がですか?」 

 不満そうな誠の声を聞くとかなめはいかにもうれしそうな笑顔を浮かべて早足で詰め所に向かう。さっさと部屋に入ったカウラに二人は顔を見合わせてドアを開く。

 かなめの言葉に誠も部屋の中をのぞき込む。

「まあいいや、神前ちょっと待ってろ」 

 誠のモニターは相変わらず映画の画面が映し出されていた。

 すぐさま画像が切り替わり、茜に指示されたプロファイリング資料が映し出される。

「ああ、これでようやく仕事ができそうですよ」 

「そうか。それなら今隊長室に呼び出された奴の分までがんばれや」 

 かなめはそう言うと自分の席に戻る。

「呼び出された?」 

 そう言ってカウラの顔を見ると彼女はすぐにドアの外を指差した。隊長室をノックしているアメリアの姿が見える。

「ああ、安城さんが来るのが分かってれば対策も立てれたのにねえ。カウラの奴、知ったんだろうな」 

 連続放火事件のファイルをモニターで眺めながらコメントをくわえる作業を続けているかなめが画面を見たままそう言った。嵯峨がどうしても下手に出なければならないまじめに仕事をすることを要求する相手、それが安城秀美少佐だった。司法局の特殊部隊でも一番精鋭とされる機動部隊の指揮官の来訪で嵯峨が形式的なお小言をアメリアにしなければならなくなった様子を見ながら誠は大きくため息をついた。

「カウラさんも大変ですね」 

 かなめは机に足を投げ出してそのまま天井を見ながら人の悪そうな笑みを浮かべていた。誠はようやく連続放火事件の資料の整理を終えて最後の車上荒らしの事件の資料を探すために画面をスクロールさせていた。

「でもこれでしばらくはアメリアに付き合う必要もなくなるな」 

 そう言ってかなめは笑う。それに誠は愛想笑いを浮かべるしかなかった。

「じゃあ仕事がんばれよ」

 かなめに言われて誠は苦笑いを浮かべる。誠はようやく仕事を再開した。
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