レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,415 / 1,503
魔法少女

趣向

しおりを挟む
「すごい組み合わせだな」 

 嵯峨はそう言ってニヤリと笑った。

画面は銃を取り上げて再びかなめのいた場所に照準を合わせる明石の姿がある。

『あなたは……なぜ機械帝国のことを?あなたは……魔力も無いのになぜ?』 

 小夏の肩に飛び乗ったグリンを明石が見つめる。

「それよりこの奇妙な動物に突っ込むな、俺なら」 

 そう言いながら嵯峨は明らかに無理をしておはぎを口に運ぶ。

「嵯峨さん、お嫌いでしたか、甘いものは」 

「いやあ、そんなこと無いですよー。僕は大好物ですから……おはぎ……」 

 明らかに春子に気を使っている様子にカウラと誠は苦笑いを浮かべると再び画面をのぞく。

 答えることもせず明石は小夏に近づく。明らかに変質者とコスプレ少女と言うシュールな絵柄に突っ込みたいのを我慢しながら誠は画面を見つめていた。

『知っている人は知っているものさ、どこにでも好奇心のある人間はいるものだからね』 

 明らかに関西弁のアクセントで明石は無理やり標準語をしゃべる。誠はとりあえず突っ込まずにそのまま黙っていた。

「やはり明石中佐は訛りが強すぎるな」 

「そうですね、播州コロニー群の出身だそうですから。あそこの出身者の訛りはなかなか抜けませんよ」

 明石と同じ甲武軍からの出向の嵯峨はそう言って苦笑いを浮かべた。誠達が画像を鑑賞していた間も一人作業を続けていたカウラは大きく息をしてそのまま一度立ち上がり、再び椅子に腰掛けた。

『でも、あなたは魔法を見ても驚かなかったじゃないですか。この世界の人がそんなに簡単に魔法を受け入れるとは思えないんですが』 

 グリンの言葉に明石はにやりと笑って禿頭を叩く。

『確かにそうだ。俺はある人物から話を聞いてね』 

「そのある人物が神前君……でもどう見ても……プリンスには見えなけど」 

『マジックプリンス』と言うなんのひねりも無い役名の誠の顔を春子はまじまじと見つめる。その吐息がかかるほどまで接近して見つめられて、誠は鼓動が早くなるのを感じたが、春子はまるで関心が無いというように再び画面に目を移す。

『いずれ君達と一緒に戦う日が来るだろう。それまではお互い深いことは知らない方がいい』 

 そう言うと猟銃を握り締めて明石は立ち去る。

「あいつ、本当に訛ってるな」 

 そう言いながら嵯峨がお茶を啜っている。その時、再び詰め所のドアが開いた。そこに立っていたのはパーラだった。

「ああ、春子さんここでしたか。アメリアが呼んでますよ」 

「ごめんなさい。じゃあ行ってきますわね」 

 そう言って春子は立ち上がる。

「隊長……」 

 視線で春子を追っていた嵯峨が突然誠に声をかけられて頭を掻きながら嵯峨は口の中のあんこを飲み込む。嵯峨はなんとかあんこを飲み込むと再び出がらしになった茶の入った急須に手を伸ばす。

「隊長、口を漱ぐのはやめてくださいよ」 

 仕事をしていたカウラの警告が飛ぶ。苦笑いを浮かべながら嵯峨はそのまま口に入れたお茶を飲み下した。

「あのー……」 

 春子達と入れ替わりにドアから顔を出したのは西とひよこだった。誠達はその顔を見てそれぞれ時計に目をやった。

「ああ、もう昼か」 

 十二時を少し回った腕時計の針を確かめながら嵯峨は大きなげっぷをする。乾いた笑いを浮かべながら誠はおはぎに手を伸ばす。

「ああ、西!見ての通りなんで昼の買出しはいいよ」 

 カウラが苦笑いを浮かべながら答える。西はかえでのデスクに置かれた重箱を見ながら呆れつつそのまま入ってきた。昼の買出しは誠が隊に配属になったころから各部の持ち回りで行われるようになっていた。以前は隣の菱川重工の食堂を利用できたそうなのだが、嵯峨がぐだぐだと味に文句をつけたため司法局の関係者は出入り禁止を食らっていた。仕出しの弁当屋が先日食中毒を出して営業停止処分を受けていたのがとどめとなっていた。

「僕好きなんですよ、おはぎって」 

 そう言いながら西はすぐにおはぎに手を伸ばして食べ始める。

「ああ、神前さん何を見ているんですか?」 

 西は不思議そうに誠の端末が黒く染まっているのに目をつける。

「あれだよ、例の映画」 

「ああ、クラウゼ少佐の奴でしたっけ?でもまあ撮影機材も見ましたけど、あれは……アメリアさんも大変ですよね」 

 そう言いながら今度は西が春子が居た場所に陣取る。アメリアが二人を出さなかった理由がサラが書き上げた西をモデルにした作品にあることを誠は知っていた。

 再び画面に目を戻すと、そこには鎖に縛られたかなめの姿があった。誠とカウラは目を見合わせた。間違いなくかえで達が動き出す。

『うわ!ふっ!』 

 鞭打たれるかなめの声が端末から響くのを見てひよこが誠の端末に視線を向けた。

「西!君は買出しの任務があるんだろ?」 

 カウラは思い出したようにそう言った。仕方なく西は追い立てられるように立ち上がる。

「すみません」 

 頭を下げながらひよこは誠の端末の画面に目をやった。。

 その画面の中でかなめは拷問を受けている。

『よくもまあ恥ずかしげも無く生きて帰ってこられたものだな!』 

 メイリーン将軍ことリンがまさにそれを証明するかのようにかなめから取り上げた鞭を振り下ろしている。かなめの悲鳴とにんまりと笑うリンの表情が交互に映し出される。

「これは……ちょっとやりすぎじゃあ……」 

 誠は苦笑いを浮かべる。

「じゃあ、失礼します!」 

 引き時を悟った西とひよこはそのまま部屋を出て行った。

「賢明な判断だな」 

 西が消えたのを見てそう言うとカウラは再びおはぎに手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

潜水艦艦長 深海調査手記

ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。 皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...