レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,412 / 1,535
魔法少女

ライバル

しおりを挟む
『カットー!喜びすぎ!ってかそこ喜ぶところじゃない!驚くの!驚いて!』 

 跳ね回る小夏をアメリアが怒鳴りつける。サラはと言えばそのまま疲れたというように座り込む。そして画面にモニターが開いてアメリアの顔が写る。

『ったく……小夏ちゃん!そこはまず驚いて、そこから戸惑いながら二人で見詰め合う場面だって言ったでしょ?はい!やり直し!』 

「馬鹿が!」 

 かなめはそう言うと立ち上がった。

「どうしたんですか?」 

「タバコ吸ってくる」 

 そう言ってかなめは手にしたタバコの箱を見せる。誠はすぐに画面に視線を戻した。

「ったくああいうのにしか興味ねえのかな……」 

 かなめはポツリとつぶやいて出て行く。誠がカウラを見ると、呆れたとでも言うようにため息をついている。

『わあ、なんで?これがもしかして……』 

 画面が切り替わり撮影が再開したようだった。かなめが居なくなったのを良いことにアンはさらに顔を突き出してくる。誠は少し椅子を下げるが、下げた分だけアンはばっちりと誠の端末の画面の正面を占拠してしまった。

『そうだよ。君達は選ばれたんだ。愛と正義と平和を守る戦士に!』 

 グリンの声に小夏とサラの表情は一気に明るくなる。

『じゃあおねえちゃんがキャラットサラで私がキャラットなっちゃんね』 

『なによそれ』 

 本心から呆れたような表情でサラは小夏を見つめる。

『名前よ!無いと格好がつかないじゃん!』 

 そう言って小夏はサラの手を握り締める。それを見つめて無言で頷いているかえでとリンに誠は明らかに違和感を感じたが、いつもかえでの件で小突かれてばかりの誠は突っ込むのも怖いので手を出さないことを決めた。

『さあ……機械帝国を倒すんだ』 

 そう力の入らない口調で言葉をつむぐグリンを見つめる小夏。隣に立つサラはそんな小夏を不安そうに見つめる。小夏の表情にはどこかさびしげな影が見える。そして誠は引き込まれるようにして小夏の言葉を聞くことにした。

『違うよ、それ』 

 小夏はポツリとつぶやく。突然音楽が流れ始める。悲しげでやるせなさを感じる音楽にあわせて小夏は遠くを見つめるように空を見つめる。

「新藤さんの即興かな?」 

 彼女の涙に濡れる顔が画面に広がる。

『確かにグリン君が言う通りかもしれないけど。確かにあの魔女はグリン君の大事な魔法の森を奪ったのかもしれないけど……。でもそう言う風に自分の意見ばかり言っていても始まらないんだよ』 

『そんなことは……あいつは森の仲間を殺したんだ!そして次々と世界を侵略し……』 

 激高するグリンを手にした小夏はそのまま顔を近づける。

『でもぶつかるだけじゃ駄目なんだよ。相手を憎むだけじゃ何も生まれないよ!』 

「やっぱり出た!お前はいったいいくつなんだ展開!」 

 誠が手を叩くが、さすがにこの誠には付いていけないというようにかえでとリンはそんな誠を生暖かい目で見つめている。

『理解しあわなきゃ!気持ちを伝え合えなきゃ!そうでないと……』 

『小夏!そんなのんきなことが言える相手じゃないんでしょ?世界の危機なんでしょ?』 

 そう言ってサラは武器である魔法の鎌を構える。

『アタシは戦うよ!守るものがあるから!』 

 そう言ってサラは小柄な小夏の頭を叩く。だが、釈然としない面持ちで手のひらサイズの小熊を地面に置くと杖を構えた。

『じゃあ、誓いを立ててください。必ず悪を退けると!』 

『ええ!』 

 サラは元気に返事をして鎌をかざす。そしてそれにあわせるように小夏も杖を重ねる。

『きっと倒してみせる!邪悪な敵を!』 

『いつか必ず分かり合える日が来るから!』 

 小夏とサラの言葉で部屋が輝き始める。その展開にかえでとリンは目を輝かせる。

「小夏ちゃんのアドリブか。アメリアさんが駄目出ししなかったけど……後で台本変更があるかもしれないな」 

 誠は画面の中で変身を解いて笑う小夏とサラを眺めていた。そこに脇から突然声が聞こえた。

「なるほど……そうなんですか。さすが先輩は詳しいですね」 

「詳しいというか……なんと言うか……」 

 アンはそう言って胸の前で手を合わせて上目遣いに誠を見上げてくる。脂汗を流しながらそんなアンを一瞥した後、画面が切り替わるのを感じて誠は目を自分の端末のモニターに戻した。

 場面が変わる。画面は漆黒に支配されていた。両手を握り締めて、まじめに画面を見つめるかえでとリンに圧倒されながら誠はのんびりと画面を見つめた。誠の背中に張り付こうとしたアンだが、きついカウラの視線を確認して少し離れて画面を覗き見ている。

 画面に突然明かりがともされる。それは蝋燭の明かり。

「機械帝国なのに蝋燭って……」 

 さすがに飽きてきた誠だが、隣のかえで達に押し付けられて椅子から立ち上がることができないでいた。

『メイリーン!機械魔女メイリーン!』 

 その声はかえでの声だった。誠はアンを無視することに決めて画面に目を映す。

 黒い人影の前でごてごてした甲冑と赤いマントを翻して頭を下げる凛々しい女性の姿が目に入る。

『は!太子。いかがなされました』 

 声の主は明らかにかえでの副官、渡辺リン大尉のものだった。そして画面が切り替わり、青い筋がいくつも描かれた典型的な特撮モノの悪者メイクをしてほくそえむリンの顔がアップで写る。

『余の覇道を妨げるものがまた生まれた。それも貴様が取り逃がした小熊のいる世界でだ……この始末、どうつける?』 

 誠はそんなかえでの声を聞きながら隣で画面を注視しているかえでに目を移した。言葉遣いやしぐさはいつものかえでのような中性的な印象を感じてそこにもまた誠は萌えていた。

『確かにこの人なら女子高とかじゃ王子様扱いされるよな。さすがアメリアさんは目ざとい』 

 そんな妄想をしている誠に気づかずかえではただひたすら画面にかじりついている。

『は!なんとしてもあの小熊を捕らえ、いずれは……』

 機械魔女メイリーンこと渡辺リン大尉は必死に頭を下げる。かえでの声の影だけの王子頷いている。 

『へえ、そんなことが簡単にできるってのか?捕虜に逃げられた上にわざわざすっとんで帰ってきたオメーなんかによ』 

 突然の乱暴に響く少女の声。陰から現れたのは8才くらいの少女。赤いビキニだか鎧だか分からないコスチュームを着て、手にはライフルなのか槍なのかよく分からない得物を手にした少女に光が差す。そのどう見ても小学生低学年の背格好。そんな人物は隊には一人しか居なかった。

「クバルカ中佐……なんてかわいらしく……」 

「おい、これがかわいいのか?」 

 画面の中ではさっきまでこの部屋で文句をたれていたランが不敵な笑みを浮かべながら現れる。誠は耳には届かないとは思いながらすっかり自分の脇にへばりついて画面をのぞき込んでいるアンにそう言ってみた。

『ほう、亡国の姫君の言葉はずいぶんと遠慮が無いものだな』 

 そう言ってそれまで悪の首領っぱい影に下げていた頭を上げると、機械魔女メイリーンは皮肉をたっぷり浮かべた笑いでランを迎える。

「おっ!ここでも見れるのか?」 

 誠は突然後ろから声をかけられてあわてて振り向く。そこには隊長の嵯峨がいつもの眠そうな表情で立っていた。

「ええ、まあ一応……西園寺さんが設定をしてくれましたから」 

 誠は照れながら頭を掻く。嵯峨はそのままロナルドの開いている机に寄りかかると誠達の後ろに陣取ることを決めたように画面を見つめている。

「なんだかなあ」 

 誠はそのまま画面の中でお互いににらみ合うリンとランの姿を見ていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

処理中です...