レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,390 / 1,535
戦いの記録

キャラデザイン

しおりを挟む
「ごめんね!神前君、カウラ。アメリアがどうしてもって……」 

 通信主任、パーラ・ラビロフ大尉。いつものように姉貴分のアメリアの暴走を止められなかったことをわびるように頭を下げる。

「それより……菰田。オメエが何でこっちの陣営なんだ?」 

 かなめはパーラの後ろにいる菰田に声をかけた。

「いやあ、あちらは居心地が悪くて……」 

 そう言い訳する菰田だが、アメリアとつるむとカウラに会えるという下心が誠達には一目で分かった。

「どこで遊んでるんだ?アメリアは」 

 カウラの言葉にパーラは隊長室の隣の会議室を指差した。三人はパーラと菰田について会議室に向かう。会議室の重い扉を開けるとそこは選挙対策委員会のような雰囲気だった。

 何台もの端末に運行部のアメリアお気に入りの女性オペレーターが張り付き、携帯端末での電話攻勢が行われている。

「なんだ、選挙事務所みたいで面白そうじゃねえか」 

 そう言ってかなめはホワイトボードに東和の地図を書いたものを見ているアメリアに歩み寄った。

「やはり向こうの情報将校さんは手が早いわね。東部軍管区はほぼ掌握されたわね。中央でがんばってみるけど……ああ、来てたの?」 

「来てたの?じゃねえよ。くだらねえことで呼び出しやがって!」 

 あっさりとしているアメリアにかなめが毒づく。カウラも二人の前にあるボードを見ていた。

「相手は電子戦のプロだけあって情報管理はお手の物……かなり劣勢だな。何か策はあるのか?」 

 そう言うカウラを無視してアメリアは誠の両肩に手をのせて見つめる。そんなアメリアに頬を染める誠だった。そんな中アメリアはいかにも悔しそうな顔でつぶやいた。

「残念だけどやっぱり誠ちゃんはヒロインにはなれないわね」 

「あのー、そもそもなりたくないんですけど」 

 誠はそう言うと頭を掻いた。そしてすぐにアメリアはパーラが手にしているラフを誠に手渡す。そこにはどう見てもサラらしい少女の絵が描かれている。だが、その魔法少女らしい杖やマントは誠にはあまりにシンプルに見えた。

「これは誰ですか?ちょっと地味ですね」

「小夏ちゃんよ」

 誠の問いにアメリアはあっさりと答えた。

「うちの行事にあのガキを巻き込むのか?」

「良いじゃないの……町おこしの為よ」

 平然とそう言ってのけるアメリアにかなめは呆れたような表情を浮かべていた。 

 そう言った誠に目を光らせるのはアメリアだった。

「アメリアさんが描いたんですか……いまいちパッとしないですね」

 絵が得意な誠だけあってあっさりとそう言ってのけたのをアメリアは見逃さなかった。

「でしょ?私が描いてみたんだけどちょっと上手くいかないのよ。そこで先生のお力をお借りしたいと……」

 誠の魂に火がついた瞬間だった。痛々しい誇りが誠の絵師魂に火をつける。

「アメリアさん。当然他のキャラクターの設定もできているんでしょうね!」 

 そう言いながら誠は腕をまくる。ブリッジクルーがまるで待っていたかのように宿直室から持ってきた誠専用の漫画執筆用のセットを準備する。

「当然よ!キャラはメインの五人以外も端役までばっちり設定ができてるわよ。あちらがインフラ面で圧倒しようとするならこちらはソフト面で相手を凌駕すれば良いだけのことだわ!」 

 そう言ってアメリアは高笑いした。こういうお祭りごとが大好きなかなめはすでに机の上にあった機密と書かれた書類を見つけて眺め始めた。

「仮題『魔法少女隊マジカルなっちゃん』?戦隊モノなのか魔法少女ものなのかはっきりしろよ」 

「だってせっかく誠ちゃんに協力をお願いするんだもの……少しは妥協してあげないと」

 アメリアはそう言って笑う。かなめは黙って設定資料を読み進めた。だがすぐに開いたページで手を止めて凍てつく視線でアメリアを見つめた。

「おい、アメリア。なんだこれは」 

 片目の魔女のような姿の女性のラフ画像をかなめはアメリアに見せ付ける。

「ああ、それはかなめちゃんの役だから。当然最後は誠ちゃんと恋に落ちてかばって死ぬ予定なんだけど……」 

 何事もないように言うアメリアにかなめはさらに苛立ちはじめた。

「おい、なんでアタシがこいつと恋に落ちるんだ?それに死ぬって!アタシはかませ犬かなにかか?」 

「よく分かったわね。死に行く気高き騎士キャプテンシルバーの魂がヒロインなっちゃんの魂に乗り移り……」 

「お姉様が死ぬのか!そのようなもの認めるわけには行かない!」 

 背後で机を叩く音がしてアメリアとかなめも振り返った。

 そこにはかえでとリンが立っている。かえではそのままアメリアの前に立つとかなめの姿が描かれたラフを見てすぐに本を閉じた。

「あのー、かえでちゃん。これはお話だから……」 

 かえではなだめようとするアメリアの襟首をつかんで引き寄せる。かえではそのまま頬を赤らめてアメリアの耳元でささやく。

「この衣装。作ってくれないか?僕も着たいんだ」 

 その突然の言葉に再びかなめが凍りついた。誠はただそんな後ろの騒動を一瞥すると小夏が演じることになるヒロインの杖のデザインがひらめいてそのままペンを走らせた。

「かえでちゃん!」 

 濡れた視線でかえでを見つめていたアメリアがそう叫んでがっちりとかえでの手を握り締めた。

「その思い受け止めたわ!でも今回は二時間までって決まってるし……かえでちゃんの出番はあまり出番作れそうにないわね」 

「おい!今回ってことは二回目もあるのか?」 

 かなめが呆れながらはき捨てるように口走る。そんなかなめを無視してアメリアはヒロイン、デザインを始めている誠の手元を覗き込んだ。その誠の意識はすでにひらめきの中にあった。次第にその輪郭を見せつつあるキャラットなっちゃんの姿にアメリアは満面の笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

処理中です...