レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,386 / 1,505
もとをただせば

性癖

しおりを挟む
「ああ、それじゃあ隣の騒動止めに行かないといけないんで!」 

 菰田との交渉が成立したアメリアは立ち上がると誠の手を引いて管理部の部屋を出た。

 廊下に出たアメリアと誠の前にぼんやりとたたずむのはかえでだった。そのしょんぼりとした瞳がアメリアと誠に注がれる。

「また僕だけハブられるんですか」 

「そんなこと無いわよ……ねえ」

 アメリアはそう言って天井を見つめてとぼけているかなめに目をやる。

「おう!ご苦労さん」 

 明石はそう言いながら二人を迎えた。ひしゃげた椅子が一つ、その隣には折れた竹刀が放置されている。

「ランちゃんまたやったの?」 

「おい、アメリア。上官にちゃん付けか?」 

 ランが視線をアメリアに向ける。

「いえいえ、中佐殿の判断は実に的確であります」 

 完全に舐めきった口調でランをからかうアメリアだがランはそうやすやすと乗るわけも無く、すぐに視線を端末の画面に移した。

「楽しみですね!どれに決まるか!」 

 ニコニコ笑いながらはアンはアンケート用紙の裏に絵を書いている。それはなぜか馬の絵だった。

「私はどれでもいいよ。でもさあ、誰が脚本書くんですか……クラウゼ少佐ですか?」 

 天井を眺めていたリンの視線がアメリアに向かう。明らかにアメリアは自分が書くんだ!と言うように胸をはっていた。

「僕は出ないぞ」

 ぼそりとつぶやくのはかえでだった。 

「えー!何に決まってもかえでちゃんが出てくれないと困っちゃうじゃない」 

 第三小隊の机の一群でポツリとつぶやいたかえでにアメリアがすがり付いていく。アメリアに身体を擦り付けられるとかえでは顔を赤らめて下を向いてしまう。

「困るもなにもこれは職務とは関係が無いじゃないか!」 

「それはちゃうやろ?」 

 そう言ったのは黙って静観を決め込んでいた明石だった。こういうことには口を出さないだろうと言う上官の一言にかえでが顔を上げて明石を見る。

「何も暴れることだけがウチ等の仕事やないで。日ごろお世話になっとる町の方々に感謝してみせる。これも重要な任務や」 

「そうそう、それもお仕事なんだよー」 

 風船ガムを膨らませながらランが投げやりに言葉を継いだ。

「ですが、僕は……」 

「大丈夫!どのシリーズでも私がかえでちゃんのかっこよく見える見せ場を作ってあげるから。そしたらかなめちゃんも喜ぶわよ!」 

「喜ばねえよ!」 

 かなめが半開きの扉から顔を出す。だが次の瞬間にはその額にランの投げたボールペンがぶつかった。

「うるせー黙ってろ」 

 しぶしぶかなめは顔を引っ込めて、足で器用に扉を閉めた。だが一人、まとわり付くアメリアの身体をがっちりと握り締めているかえでだけが晴れやかな表情で何も無い中空を見つめていた。

「お姉さま!かなめお姉さま!僕はやりますよ!お姉さま!」 

 まず誠が、続いてラン、カウラ、明石。次々と恍惚の表情を浮かべるかえでに気づく。

「大丈夫か?日野?」 

「かえで様……」 

 明石が不思議そうに恍惚の表情のかえでに声を掛けた。リンは心配そうにかえでを見上げる。

「やります!なんでも!はい!」 

 かえではそう言うとアメリアを抱擁した。

「あ!えー!ちょっと!離してってば!」 

 抱きしめられて顔を寄せてくるかえでを避けながらアメリアが叫ぶが、彼女を助ける趣味人は部隊にいないことを誠は知っていた。部屋の中の一同は黙ってそのまま押し倒されそうになるアメリアに心で手を合わせていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...