レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,373 / 1,535
第20章 楽しい連中

ピースメーカー

しおりを挟む
「サラ!例の奴やって!」 

 パーラがカメラを構えながら叫ぶ。それに応えるように親指で帽子の縁をはじいたサラが手にした銃を軽く胸の前にかざした。

「行くよ!」 

 手にした銃を構えつつ振り向くサラ。思わず誠はのけぞった。
 
 周りの視線を感じてそう叫ぶとサラは銃を振り上げる。鉄紺色の銃身の短いリボルバーは人差し指を軸に、くるくると彼女の手の中で回転していた。思わず拍手をする整備員達の様子を知るとさらにその回転は加速していく。

「ほう……」 

 感心しているのか呆れているのか。カウラはまったくどちらとも付かない表情を浮かべていた。サラはそれを見るとすばやく右腰にあるホルスターに銃を叩き込んだ。技術部員や運行部の女性士官もそれには一斉に感心したと言うような拍手を送った。

「なんだ?ウェスタン公園にでも就職するのかよ」 

 一方かなめは明らかに呆れていた。それを見るとアメリアはつかつかとサラの横まで歩いていく。

「ちょっと見せて」 

 アメリアの言葉にうなづいたサラが銃を手渡す。先日見た青みを帯びた黒い銃が冬の日差しに輝いて見える。しばらく手にとって眺めた後、アメリアは銃器担当の下士官に振り返った。

「これ全部ブラックパウダー弾?」 

「違いますよ。あんなのさっきのでおしまいですから」 

 銃器担当の下士官にそう言われるとしばらくシリンダーを見つめていたアメリアが大きくため息をついた。彼女の手は普通のリボルバーのようにシリンダーを引き抜こうとするがまったく動く様子が無い。

「これって……どうやって装填するの?と言うか撃った薬莢を取り出そうって言ったって……」 

 全弾撃ちつくしているらしくアメリアはしばらくじっと短い銃を眺めていた。それを見たサラが満面の笑みを浮かべている。

「ああ、ちょっと貸してね……、これ借りてもいい?」 

 サラはそう言うとテーブルの上にあったドライバーを手にして銃の劇鉄を少し押し下げる。そのままシリンダーの後ろのブロックが開く。そしてそこに開いている穴にドライバーを突き刺して薬莢を取り出した。

「面倒だな」 

「使い物にならねえじゃねえか」 

 カウラとかなめの意見ももっともだった。サラはようやく二発の薬莢を取り出すことに成功して次の薬莢を取り出すべくドライバーを持ち直す。

「そりゃあ映画の西部劇みたいに六発以上撃ちまくるわけには行かないですからね、現実問題」 

 銃器担当の下士官の一言にサラはムッとしたように顔を上げる。不器用にドライバーで自分の銃と格闘しているサラを見ながら銃器担当の下士官は必死になって笑いをこらえていた。

「だから二挺拳銃なんですよ。二挺あれば計十二発。下手なオートピストルより弾は多い」 

「そりゃわかってるんだけどさあ。相手が多弾数のオートで襲ってきたらどうするんだ?」 

 かなめの問いに下士官は意味がわからないと言うように首をひねる。だが、すぐにかなめは彼の考えを理解して下士官の肩に手を乗せる。

「そうだな。あいつの拳銃はただの錘だからな」 

「ひどいんだ!そんなこと言うと撃たせてあげないぞ!」 

「おもちゃじゃねえんだ!誰が触るか!」 

 かなめはそう言ってへそを曲げるが、サラの隣に立っているアメリアは前に置かれた弾薬の箱に手を伸ばしていた。

「これってここに弾を入れればいいの?」 

 アメリアはうれしそうにサラから渡されたリボルバーピストル、コルト・シングルアクションアーミーを手に弾をこめようとする。

「うん、そこから一発一発ハンマーをハーフコックにしてシリンダーを回しながら入れるんだよ」 

 サラの言葉を聞くとアメリアは45口径の弾丸を一発づつシリンダーに差し込んでいく。その表情は楽しいともめんどくさいとも取れる複雑なものだった。

「結構炸薬の量が多いんだな。フレームの強度は大丈夫なのか?」 

 カウラは心配そうにサラ達を見つめる。その手には箱から取り出した一発の弾丸が握られている。

「ああ、大丈夫ですよ。元々こいつはアメリカとかの時代祭りの為に有るような銃ですから。威力はかなり抑えた弾しか手に入りません。まあ炸薬を増やせば威力は上がりますけど……どうせサラが使うんでしょ?意味ないですよ」 

 そう説明している間にアメリアは弾をこめ終わるとそのままターゲットを狙う。

「親指でハンマー起こせよ!シングルアクションだからな!」 

「わかってるわよ!」 

 かなめにやじられてアメリアは叫ぶように言い返す。そしてそのまま右手の親指でゆっくりハンマーを起こすとすばやく引き金を引いた。

 一瞬置いて轟音が響く。

 アメリアの手の中で滑ったように銃がはねて銃口が天井を向いているのが見える。

 それを見てかなめは大笑いする。しばらく何が起きたかわからないと言うようにアメリアは立ち尽くしていた。

「ああ、ああなるのは仕方ないんですよ。グリップがなで肩ですし、元々グリップのシェリブズは丸くて握りづらいですから。どうしてもオートに慣れた人が初めて撃つと反動が上に逃げて銃口が天井向くんですよ」 

 下士官の言葉に思うところがあったのか、カウラが立ち上がるとアメリアの後ろに立つ。

「私にも撃たせろ」 

 カウラのその言葉にしばらくアメリアは目が点になっている。隣で笑っていたサラの表情も驚いたように変わる。

「ええ、別にいいけど……」 

 そう言ってアメリアはカウラに銃を手渡した。そしてそのままカウラは受け取った銃で30メートル先の標的に狙いをつけた。

「馬鹿やるなよ!」 

 そう言うかなめはいつの間にかタバコを吸い始めていた。野次馬達も展開がどうなるのか楽しみで仕方がないと言うようにカウラを見つめている。カウラは静かにハンマーを起こす。その様子に場はあっという間に静まり返っていた。冬の北風だけが枯れ草を揺らして音を立てている。

 カウラが引き金を引く。そしてハンマーが落ちる。そして火薬の点火による轟音が響いた。最新式の炸薬とは言え、短い銃身では燃焼し切れなかった炸薬が銃口の先に炎の球を作って見せる。

「派手だねえ……こりゃ」 

 タバコを咥えているかなめの一言。誠が銃口の先を見ればマンターゲットの頭に大穴が開いている。

「結構当たるもんだな」 

 そう言うとカウラは満足したように銃をサラに返した。

「まあレプリカですからバレルの精度なんかは今のレベルですよ。それにしてもさすがですね、反動をほとんど殺していたじゃないですか」 

 下士官に褒められてカウラは少し満足げに微笑んでいた。次は私だと言うようにかなめが跳ね上がるように立ち上がった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...