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第19章 昼食
チキン
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道場に帰った四人を香ばしい香りが包んだ。
「これは……タンドリーチキンかな。なんかエスニックですね?」
プレゼントの話を思い出してそう言った誠に、呆れ果てたという顔をしたのはかなめだった。
「キリストさんも一応イスラム教の聖人なのも知らねえのかよ……」
かなめは本当にタンドリーチキンが大好きだった。誠もあのやわらかくも香ばしい不思議な食感にはいつも感心させられていたのを思い出した。
「それはいいけど、なんでカウラちゃんはさっきからにやけてるの?」
アメリアの言葉で誠も一人遅れて歩いているカウラに目を向けた。全員の視線が集中すると、恥ずかしそうにカウラはうつむく。
「あんまり苛めるなよな。なんと言っても今日の主役はこいつなんだから」
機嫌良くかなめはそう言うとカウラの背中を叩く。それにカウラは我を取り戻して苦笑いを浮かべる。
「お帰りなさい!」
引き戸の音が聞こえたのか、薫のはきはきとした声が家中に響いた。
「ただいま」
ばつが悪そうに誠が言うのを、かなめは薄ら笑いを浮かべながら見つめている。先日の蟹を入れてあった箱がまだ玄関に置き去りにされている。それを見て苦笑いを浮かべながら誠は台所を目指して歩いた。
香ばしい匂いが漂ってくる。いつもの醤油や味噌の香りではなく独特の香辛料の香りに誠はひきつけられた。
「まあ、皆さん一緒で。誠、昼はどうしたの?」
薫はエプロン姿の笑顔を浮かべている。誠は頭を掻きながら渋々口を開いた。
「子供じゃないんだから。食べたよ、蕎麦」
誠の照れた表情に笑顔で返す薫はそのままオーブンの中からこんがりと焼けた鶏肉を取り出した。
「おーう」
そう唸ったのは予想通りかなめだった。
「ちょっと実験してみたのよ。ヨーグルトベースの汁につける時間が短かったからそんなにやわらかくなってないと思うけど……」
「薫さん!食べていいですか?」
かなめはそう言うと薫が頷くのも待たずに一切れを手に持った。香りを味わい、そしてゆっくりと手を伸ばそうとする。
「西園寺。手は洗ったほうがいいぞ」
カウラはそう言ってそのまま立ち去る。かなめはしばらくそちらを見つめた後、後ろ髪引かれながら肉を置いてそのまま台所の流し台に向かう。
「かなめちゃん。そのままうがいを……」
「うるせえ!」
アメリアの言葉にかなめはキレて怒鳴りつけた。手を洗い急いで戻ってくるとかなめは再び鶏肉を手に持ってそれにかぶりついた。
「旨い!」
そう一言叫んだ後、かなめはひたすら肉に集中して食べ続ける。
「あのー、どう?」
薫はあまりに見事なかなめの食べっぷりに呆れながらそう尋ねた。
「お母様無駄ですわよ。西園寺様はもうお肉のとりこに成られて……」
ふざけて気取ったときにかなめが口にするような丁寧な言葉を発したアメリアを、かなめは口に肉をくわえたまま蹴飛ばす。
「ふざけているんじゃない!神前。手を洗ったほうがいいぞ」
そう言うカウラの視線も肉の塊に向いていることに誠は気づいていた。彼女もやはり食べてみたいのかそう思うと自然に誠の表情も驚きから喜びに変わる。
「私は要らないからさっさと手を洗ってくれば?」
アメリアにまで気を使われたら誠も断るわけには行かなかった。そのまま廊下をひとたび玄関のほうに向かうと手前のドアを開いて洗面所に入る。
『うめー!』
『それはよかったわ!今他の肉は仕込みの最中だから。手伝ってもらうときは声をかけるわね』
かなめの叫び声と、母のたしなめるような言葉が響いてくる中誠は手を洗っていた。
「まーこーとちゃん!」
そう言ってアメリアが後頭部にチョップしてきた。誠は驚いて振り向いた。。
「何するんですか?」
「失礼ね!私も手を洗いに来たのよ」
「食べないんじゃなかったんですか?」
誠は態度を変えて見せたアメリアに声をかける。
「うるさいわね!いいでしょ?別に」
そう言うと手ぬぐいを手に取っている誠を押しのけるようにしてアメリアは手を洗う。そんないつものように気まぐれな彼女に気づかないうちに笑顔が浮かんで来ているのがわかる。
「でも……カウラちゃんは幸せものよね」
アメリアは急にしんみりした調子でつぶやいた。誠は突然の変化に対応できずに立ち尽くしてしまう。
「幸せなのかな……」
戸惑ったようなカウラの言葉にいつもの明るいアメリアではなかった。何かひどく暗い表情。誠はしまったと思いながらうなだれる。
「まあそんなことどうでもいいじゃないの。それよりお肉なくなっちゃうわよ」
そう言うとアメリアは手早く手を拭ってそのまま台所に向かった。
「ちょっと!それ!」
洗面所を出たとたんにアメリアの叫び声が響く。頭を掻きながら台所に顔を出した誠の前に、誠の方をタレ目でちらちら見ながら猛然と肉にかぶりつくかなめの姿があった。
「早い者勝ち……まあどうしてもと言うなら食いかけのこれを」
すぐにかなめの後頭部をはたいたのはカウラだった。アメリアはいつものかなめに対する突っ込みを先にカウラにやられて少しばかり驚いたような表情を浮かべていた。カウラもなぜそんなことをしたのかと言うようにきょとんと立ち尽くしている。
「皆さんには好評みたいだから。誠のはあとでね」
そう言うと薫は流し台の隣の大きな袋に詰められた鶏肉に向かう。母のそんな姿と肉にがっついているかなめとアメリアを苦笑いを浮かべながら見つめる誠だった。
「おい、そういえば例のプレゼントは?」
早くも二本目の鳥の腿を食べ終わったかなめが思い出したようにそう言った。誠はにんまりと笑みを浮かべる。自分でもそれが自信に満ちているのを感じていた。
「当然もう出来てますよ。ちゃんとプレゼント用に包装もしましたし」
「え?事前に見せてくれないの?」
アメリアの好奇心むき出しの言葉に誠は照れ笑いを浮かべた。そんな彼を楽しそうに見つめながらカウラはかなめが残した最後の肉をむさぼる。
「事前に見せたらまた色々突っ込みを入れるでしょ?」
「突っ込みじゃないわよ!アドバイス。純粋に観賞する者としての要望を述べているだけよ」
ワイルドに間接の軟骨を食いちぎりながらアメリアはそう言って笑う。
「まあいいか」
そう少しさびしそうに言うと、食べ終わったかなめが肉をタレとなじませる為に肉の入った袋を揉んでいる薫の隣の流し台で手を洗う。
「そんなところで作業の邪魔をして……」
「いいだろ?きれいになったんだから。それと神前、アタシはこれからちょっと用があるから」
そう言ってかなめはそのまま台所を出て行った。
「まったく勝手ばかり言って……」
そう言いつつ、かなめの完全に骨以外残さずに食べた鳥の腿肉を参考に、アメリアは軟骨を食いちぎり続ける。カウラはそんなアメリアとただ立って笑顔を浮かべているだけの誠を見ながら、満足そうに手に握っている腿に付いた肉を食べていた。
「そう言えばアメリアさん。ケーキとかピザとかはどうしたんですか?」
骨を咥えているアメリアに誠は声をかけた。アメリアは静かに口から骨を出して、そのまま待ってましたというような笑みを浮かべる。
「私に抜かりがあるわけないでしょ?当然、手配済み。もうすぐ配達の人が来る手はずになっているわ」
「じゃあ何で西園寺は……」
カウラは引き戸を開けて出て行ったかなめの後姿を見るように廊下に身を乗り出す。
「さあ?私は知らないわよ。それにしてもこんなにお肉があるなんて……ピザちょっと頼みすぎたかしら?」
そう言うとアメリアは手にした骨を、かなめがきれいに食べつくした鶏肉の骨の上に並べた。
「これは……タンドリーチキンかな。なんかエスニックですね?」
プレゼントの話を思い出してそう言った誠に、呆れ果てたという顔をしたのはかなめだった。
「キリストさんも一応イスラム教の聖人なのも知らねえのかよ……」
かなめは本当にタンドリーチキンが大好きだった。誠もあのやわらかくも香ばしい不思議な食感にはいつも感心させられていたのを思い出した。
「それはいいけど、なんでカウラちゃんはさっきからにやけてるの?」
アメリアの言葉で誠も一人遅れて歩いているカウラに目を向けた。全員の視線が集中すると、恥ずかしそうにカウラはうつむく。
「あんまり苛めるなよな。なんと言っても今日の主役はこいつなんだから」
機嫌良くかなめはそう言うとカウラの背中を叩く。それにカウラは我を取り戻して苦笑いを浮かべる。
「お帰りなさい!」
引き戸の音が聞こえたのか、薫のはきはきとした声が家中に響いた。
「ただいま」
ばつが悪そうに誠が言うのを、かなめは薄ら笑いを浮かべながら見つめている。先日の蟹を入れてあった箱がまだ玄関に置き去りにされている。それを見て苦笑いを浮かべながら誠は台所を目指して歩いた。
香ばしい匂いが漂ってくる。いつもの醤油や味噌の香りではなく独特の香辛料の香りに誠はひきつけられた。
「まあ、皆さん一緒で。誠、昼はどうしたの?」
薫はエプロン姿の笑顔を浮かべている。誠は頭を掻きながら渋々口を開いた。
「子供じゃないんだから。食べたよ、蕎麦」
誠の照れた表情に笑顔で返す薫はそのままオーブンの中からこんがりと焼けた鶏肉を取り出した。
「おーう」
そう唸ったのは予想通りかなめだった。
「ちょっと実験してみたのよ。ヨーグルトベースの汁につける時間が短かったからそんなにやわらかくなってないと思うけど……」
「薫さん!食べていいですか?」
かなめはそう言うと薫が頷くのも待たずに一切れを手に持った。香りを味わい、そしてゆっくりと手を伸ばそうとする。
「西園寺。手は洗ったほうがいいぞ」
カウラはそう言ってそのまま立ち去る。かなめはしばらくそちらを見つめた後、後ろ髪引かれながら肉を置いてそのまま台所の流し台に向かう。
「かなめちゃん。そのままうがいを……」
「うるせえ!」
アメリアの言葉にかなめはキレて怒鳴りつけた。手を洗い急いで戻ってくるとかなめは再び鶏肉を手に持ってそれにかぶりついた。
「旨い!」
そう一言叫んだ後、かなめはひたすら肉に集中して食べ続ける。
「あのー、どう?」
薫はあまりに見事なかなめの食べっぷりに呆れながらそう尋ねた。
「お母様無駄ですわよ。西園寺様はもうお肉のとりこに成られて……」
ふざけて気取ったときにかなめが口にするような丁寧な言葉を発したアメリアを、かなめは口に肉をくわえたまま蹴飛ばす。
「ふざけているんじゃない!神前。手を洗ったほうがいいぞ」
そう言うカウラの視線も肉の塊に向いていることに誠は気づいていた。彼女もやはり食べてみたいのかそう思うと自然に誠の表情も驚きから喜びに変わる。
「私は要らないからさっさと手を洗ってくれば?」
アメリアにまで気を使われたら誠も断るわけには行かなかった。そのまま廊下をひとたび玄関のほうに向かうと手前のドアを開いて洗面所に入る。
『うめー!』
『それはよかったわ!今他の肉は仕込みの最中だから。手伝ってもらうときは声をかけるわね』
かなめの叫び声と、母のたしなめるような言葉が響いてくる中誠は手を洗っていた。
「まーこーとちゃん!」
そう言ってアメリアが後頭部にチョップしてきた。誠は驚いて振り向いた。。
「何するんですか?」
「失礼ね!私も手を洗いに来たのよ」
「食べないんじゃなかったんですか?」
誠は態度を変えて見せたアメリアに声をかける。
「うるさいわね!いいでしょ?別に」
そう言うと手ぬぐいを手に取っている誠を押しのけるようにしてアメリアは手を洗う。そんないつものように気まぐれな彼女に気づかないうちに笑顔が浮かんで来ているのがわかる。
「でも……カウラちゃんは幸せものよね」
アメリアは急にしんみりした調子でつぶやいた。誠は突然の変化に対応できずに立ち尽くしてしまう。
「幸せなのかな……」
戸惑ったようなカウラの言葉にいつもの明るいアメリアではなかった。何かひどく暗い表情。誠はしまったと思いながらうなだれる。
「まあそんなことどうでもいいじゃないの。それよりお肉なくなっちゃうわよ」
そう言うとアメリアは手早く手を拭ってそのまま台所に向かった。
「ちょっと!それ!」
洗面所を出たとたんにアメリアの叫び声が響く。頭を掻きながら台所に顔を出した誠の前に、誠の方をタレ目でちらちら見ながら猛然と肉にかぶりつくかなめの姿があった。
「早い者勝ち……まあどうしてもと言うなら食いかけのこれを」
すぐにかなめの後頭部をはたいたのはカウラだった。アメリアはいつものかなめに対する突っ込みを先にカウラにやられて少しばかり驚いたような表情を浮かべていた。カウラもなぜそんなことをしたのかと言うようにきょとんと立ち尽くしている。
「皆さんには好評みたいだから。誠のはあとでね」
そう言うと薫は流し台の隣の大きな袋に詰められた鶏肉に向かう。母のそんな姿と肉にがっついているかなめとアメリアを苦笑いを浮かべながら見つめる誠だった。
「おい、そういえば例のプレゼントは?」
早くも二本目の鳥の腿を食べ終わったかなめが思い出したようにそう言った。誠はにんまりと笑みを浮かべる。自分でもそれが自信に満ちているのを感じていた。
「当然もう出来てますよ。ちゃんとプレゼント用に包装もしましたし」
「え?事前に見せてくれないの?」
アメリアの好奇心むき出しの言葉に誠は照れ笑いを浮かべた。そんな彼を楽しそうに見つめながらカウラはかなめが残した最後の肉をむさぼる。
「事前に見せたらまた色々突っ込みを入れるでしょ?」
「突っ込みじゃないわよ!アドバイス。純粋に観賞する者としての要望を述べているだけよ」
ワイルドに間接の軟骨を食いちぎりながらアメリアはそう言って笑う。
「まあいいか」
そう少しさびしそうに言うと、食べ終わったかなめが肉をタレとなじませる為に肉の入った袋を揉んでいる薫の隣の流し台で手を洗う。
「そんなところで作業の邪魔をして……」
「いいだろ?きれいになったんだから。それと神前、アタシはこれからちょっと用があるから」
そう言ってかなめはそのまま台所を出て行った。
「まったく勝手ばかり言って……」
そう言いつつ、かなめの完全に骨以外残さずに食べた鳥の腿肉を参考に、アメリアは軟骨を食いちぎり続ける。カウラはそんなアメリアとただ立って笑顔を浮かべているだけの誠を見ながら、満足そうに手に握っている腿に付いた肉を食べていた。
「そう言えばアメリアさん。ケーキとかピザとかはどうしたんですか?」
骨を咥えているアメリアに誠は声をかけた。アメリアは静かに口から骨を出して、そのまま待ってましたというような笑みを浮かべる。
「私に抜かりがあるわけないでしょ?当然、手配済み。もうすぐ配達の人が来る手はずになっているわ」
「じゃあ何で西園寺は……」
カウラは引き戸を開けて出て行ったかなめの後姿を見るように廊下に身を乗り出す。
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