上 下
1,352 / 1,452
第14章 ある一日

ラーメン

しおりを挟む
「なんだ?薄ら笑いなんか浮かべて……例のプレゼントが仕上がったのか?」 

 昼はラーメンだった。どんぶりのスープをすすり上げたかなめがニヤつきながら誠に声をかける。確かにカウラのイラストを仕上げた誠の気分は良かった。カウラを見て、誠は別にアメリアに頼まれて描いた女魔族と先ほど描き上げたイラストが似ていてもどうでもいいと言うような気分になっていた。

「別に……」 

「別にって顔じゃないわね。まあ今日はこれからクリスマスの料理の材料を買いに行く予定なんだけど」 

 アメリアはそう言うと麺をすすり上げる。見事な食べっぷりにうれしそうに誠の母、薫はうなづく。

「お誕生日の料理……でも、オードブルはクリスマスっぽくなっちゃうわよ」 

 そう言いながらも満面の笑みの母に誠は苦笑いを浮かべていた。明後日のカウラの誕生日会と称したクリスマスを一番楽しみにしているのは母かもしれない。そんなことを思いながら誠はどんぶりの底のスープを飲み干す。

「そんなにスープを飲むと塩分を取りすぎるぞ」 

「いいんだよ!これがラーメンの醍醐味だ」 

 カウラを無視してかなめもスープを飲み干した。体内プラントで塩分ろ過の能力もあるかなめの台詞には説得力はまるで無かった。

「でも鶏の丸焼きは欲しいわよね」 

 すでに食べ終えてお茶をすすっているアメリアがつぶやく。

「だったらオメエが買え。止めねえから」 

 かなめの言葉にアメリアが鋭い軽蔑するような視線をかなめに向ける。そんな二人を暖かい視線で見守る薫に安心感を覚えた誠だった。

「結局お前達が楽しむのが目的なんだな?」 

「悪いか?」 

 嫌味のつもりで言った言葉を完全に肯定されてカウラは少しばかり不機嫌そうな表情になる。かなめは立ち上がると居間から漫画を持ってくる。

「『女検察官』シリーズね。誠ちゃん。ずいぶん渋い趣味してるじゃないの」 

 アメリアが最後までとっていたチャーシューを齧りながらつぶやく。誠のコレクションでは珍しい大衆紙の連載漫画である。

「これは絵が好きだったんで。それとそれを買った高校時代の先輩が『たまには硬派な大人向けの漫画も読め!』って言うもので……」 

「ふーん」 

 アメリアはどちらかと言うと劇画調に近い表紙をめくって先ほどまでカウラが読んでいた漫画を読み始める。

「クラウゼさん。片づけが終わったらすぐに出るからね」 

「はいはーい!」 

 薫の言葉にアメリアはあっさりと返事をする。誠は妙に張り切っている母を眺めていた。かなめはそのまま居間の座椅子に腰掛けて漫画を読み始めたアメリアの後ろで彼女が読んでいる漫画を眺めている。

「邪魔」 

「なんだよ!そう邪険にするなって」 

 後ろから覗き込まれてアメリアは口を尖らせる。それを見ていて誠は朝のサラを思い出した。

「そう言えば西園寺さんさっきどこかと通信してましたね」 

「は?」 

 アメリアの後頭部の紺色の髪の根元を引っ張っていじっていたかなめが不機嫌そうに振り返る。そしてしばらく誠の顔をまじまじと見た後、ようやく思い出したように頭を掻いた。

「ああ、銃の話でサラから連絡があってな」 

「サラさんが銃……どう考えてもつながらないんですけど」

 誠の間抜けな質問にかなめは大きくため息をつく。

「拳銃だよ拳銃。なんでも珍しいのを手に入れたって小火器担当の奴から連絡があったんだ……どこで手に入れたかは知らねえけどな」

「はあ……」

 今度はしばらく誠が黙り込む。誠にはかなめの言葉の意味がはっきりとは分からなかった。銃を一番使うかなめに連絡があったのは当然だということで自分を納得させた。

不機嫌そうなかなめから目をそらすと荒いものを終えた母が誠を手招きしていた。

「ああ、出かけるみたいですよ」 

 誠の言葉にさっさと立ち上がるアメリア。しゃべり足りないかなめは不機嫌そうにゆっくりと腰を上げる。すでに暖かそうなダウンジャケットを着込んだ母とカウラを見ながら誠はそのまま居間にかけてあったスタジアムジャンバーに手を伸ばした。

「この格好だと変かな?」 

「この寒空にタンクトップ?馬鹿じゃないの?」 

 カウラから渡された濃紺のコートを羽織ながら鼻で笑うアメリアをにらんだかなめだが、あきらめたようにダウンジャケットを羽織る。

「じゃあ、いいかしら」 

 薫の言葉で誠達は出かけることにした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

Condense Nation

SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、 正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。 海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。 軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。 生存のためならルールも手段も決していとわず。 凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、 決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。 五感の界隈すら全て内側の央へ。 サイバーとスチームの間を目指して 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...