1,334 / 1,503
第8章 超兵器到着
勤務
しおりを挟む
「ちょっとついてきてくれ」
カウラは実働部隊の部屋の前でかなめと誠に声をかけた。いつもなら反応するアメリアだが、額に濡れタオルを当てたままぼんやりした表情で廊下を更衣室へと歩いていく。
「おう、来たか」
誠達が所属している機動部隊の隊長の机にはちょこんとランが座っている。昨日、ビールの量ならばかなり飲んでいたはずだというのに平気の体で端末の画面を覗き込んでいた。
「ハンガーのあれのことだろ?言わねーでもわかるよ」
そう言いながらランは苦笑いを浮かべる。
「オメー等は良いねー平和で。アタシは発狂寸前だよ」
先手を打ってランはそう言って笑う。
「……やはりクバルカ中佐の機体も押し付けられたんですか?」
カウラの一言にランは誠を見つめた。なぜ自分に視線が飛んだかわからない誠は茫然とランを見つめていた。それを見てランは大きくため息をつく。
「まあ同盟厚生局の事件が今回の急な搬入の直接のきっかけだな。厚生局とつるんでクーデターを画策していたシンパが芋づる的に見つかってな。特に東和軍はひどい有様だ。表には出ていないが内部調査で士官の10パーセントが何らかのつながりがあるという結果が出た。来年までにその全員が諭旨退職処分になる予定だ」
自分が動いた結果で起きた大変な事態。誠はそれに打ちのめされたように顔を青く染めていく。そんな誠の肩をかなめが叩いた。
「そりゃあ人件費が浮いていいことなんじゃないのか?」
そのままランの机の端に腰掛けてかなめはにんまりと笑う。ランは大きくため息をついてかなめを見上げた後、そのまま話を続けた。
「同盟加盟国では東和の二の舞を避けようと内部調査を実施したんだ。遼帝国の反地球運動とつながっている連中、甲武の貴族主義のはねっかえり、西モスレムの原理主義者、ゲルパルトのネオナチ、遼北の左翼教条主義者。どれもまあシンパと思える連中のよく見つかること……」
あきれたような調子でランは画面を切り替えた。そこには次々と各国の軍幹部の経歴書が映し出されては消える。
「つまりそいつ等に持たせとくとあの化け物を実際戦場で使っちゃいそうだからうちで引き受けたわけか……迷惑な話だな」
かなめの言葉にカウラもうなづいてみせる。ランもまた複雑な表情で誠達の顔を見渡した。
「まったく迷惑な話だぜ。アタシ機体はできればどこぞの海にでも沈めたいのが本音だが……えらいさんは許さないだろうからなー」
そう言ってランは大きく伸びをした。
そんなランを置いてカウラは自分の席に着いた。誠もさすがにいつまでも手の届かない幹部の人事の話に付き合うつもりは無いので自分の席に着く。かなめは興味深げにランの端末の画面を見つめながら小声でランと話をしていた。
「そう言えばどうするんですか?クリスマス」
誠はそう言ってカウラを見つめる。
「仕事中だぞ、後にしろ」
そうは言っては見たものの、カウラに急ぎの仕事が無いのは誠も知っていた。
「ああ、アメリアが任せろって言ってたな。それとこいつのお袋が……」
そう言ってかなめが誠の隣まで来ると誠の髪の毛を左手でぐしゃぐしゃにする。
「止めてくださいよ、まったく」
誠は何とか手ぐしでもとの髪型に戻す。
「ああ、アメリアから頼まれてたんだ……端末見ろや」
ランの言葉にカウラは端末の勤務予定表を開く。誠もあわててそれに倣った。
12月19日、つまり明日から1月4日までが非番になっている。
「これ……どうしてですか?」
さすがに誠もランに声をかけたくなっていた。
「アメリアの奴がねえ……。それとアタシもハンガーのブツの慣らしがすんだら休みとりたいしな……ついでだついで」
ランの笑顔がどこかはかなげに見える。さすがのかなめも毒舌を吐く気も起きないほど弱りきっているランの笑顔がそこにあった。
「我々が休む分がそちらに回っただけだ。羽根を伸ばすと良いんじゃないのか?」
カウラの言葉にランは安心したような笑みを浮かべてうなづいた。
カウラは実働部隊の部屋の前でかなめと誠に声をかけた。いつもなら反応するアメリアだが、額に濡れタオルを当てたままぼんやりした表情で廊下を更衣室へと歩いていく。
「おう、来たか」
誠達が所属している機動部隊の隊長の机にはちょこんとランが座っている。昨日、ビールの量ならばかなり飲んでいたはずだというのに平気の体で端末の画面を覗き込んでいた。
「ハンガーのあれのことだろ?言わねーでもわかるよ」
そう言いながらランは苦笑いを浮かべる。
「オメー等は良いねー平和で。アタシは発狂寸前だよ」
先手を打ってランはそう言って笑う。
「……やはりクバルカ中佐の機体も押し付けられたんですか?」
カウラの一言にランは誠を見つめた。なぜ自分に視線が飛んだかわからない誠は茫然とランを見つめていた。それを見てランは大きくため息をつく。
「まあ同盟厚生局の事件が今回の急な搬入の直接のきっかけだな。厚生局とつるんでクーデターを画策していたシンパが芋づる的に見つかってな。特に東和軍はひどい有様だ。表には出ていないが内部調査で士官の10パーセントが何らかのつながりがあるという結果が出た。来年までにその全員が諭旨退職処分になる予定だ」
自分が動いた結果で起きた大変な事態。誠はそれに打ちのめされたように顔を青く染めていく。そんな誠の肩をかなめが叩いた。
「そりゃあ人件費が浮いていいことなんじゃないのか?」
そのままランの机の端に腰掛けてかなめはにんまりと笑う。ランは大きくため息をついてかなめを見上げた後、そのまま話を続けた。
「同盟加盟国では東和の二の舞を避けようと内部調査を実施したんだ。遼帝国の反地球運動とつながっている連中、甲武の貴族主義のはねっかえり、西モスレムの原理主義者、ゲルパルトのネオナチ、遼北の左翼教条主義者。どれもまあシンパと思える連中のよく見つかること……」
あきれたような調子でランは画面を切り替えた。そこには次々と各国の軍幹部の経歴書が映し出されては消える。
「つまりそいつ等に持たせとくとあの化け物を実際戦場で使っちゃいそうだからうちで引き受けたわけか……迷惑な話だな」
かなめの言葉にカウラもうなづいてみせる。ランもまた複雑な表情で誠達の顔を見渡した。
「まったく迷惑な話だぜ。アタシ機体はできればどこぞの海にでも沈めたいのが本音だが……えらいさんは許さないだろうからなー」
そう言ってランは大きく伸びをした。
そんなランを置いてカウラは自分の席に着いた。誠もさすがにいつまでも手の届かない幹部の人事の話に付き合うつもりは無いので自分の席に着く。かなめは興味深げにランの端末の画面を見つめながら小声でランと話をしていた。
「そう言えばどうするんですか?クリスマス」
誠はそう言ってカウラを見つめる。
「仕事中だぞ、後にしろ」
そうは言っては見たものの、カウラに急ぎの仕事が無いのは誠も知っていた。
「ああ、アメリアが任せろって言ってたな。それとこいつのお袋が……」
そう言ってかなめが誠の隣まで来ると誠の髪の毛を左手でぐしゃぐしゃにする。
「止めてくださいよ、まったく」
誠は何とか手ぐしでもとの髪型に戻す。
「ああ、アメリアから頼まれてたんだ……端末見ろや」
ランの言葉にカウラは端末の勤務予定表を開く。誠もあわててそれに倣った。
12月19日、つまり明日から1月4日までが非番になっている。
「これ……どうしてですか?」
さすがに誠もランに声をかけたくなっていた。
「アメリアの奴がねえ……。それとアタシもハンガーのブツの慣らしがすんだら休みとりたいしな……ついでだついで」
ランの笑顔がどこかはかなげに見える。さすがのかなめも毒舌を吐く気も起きないほど弱りきっているランの笑顔がそこにあった。
「我々が休む分がそちらに回っただけだ。羽根を伸ばすと良いんじゃないのか?」
カウラの言葉にランは安心したような笑みを浮かべてうなづいた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる