レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,321 / 1,531
第3章 警備活動

新たな超兵器

しおりを挟む
「噂は前からあったしなでも今のタイミングか……」 

「今だからじゃないの?それを装備して同盟の威信を見せ付けて結束を印象付ける。タイミング的にはばっちりだと思うけど」 

 かなめ、アメリアの緊張した面持ちと言葉。誠はそのファイルの内容が想像もできず、ただぼんやりの三人の顔を眺めていた。

「ああ、それじゃあ裏取ってみるか……」 

 そう言って腕の通信端末からコードを伸ばして自分の首のスロットに差し込もうとするかなめを見てようやく決心が付いた誠は口を挟むことに決めた。

「なんなんですか?何が搬入されてくるんですか?ヤバい奴ですか?」 

 誠の言葉にかなめは手を止めて呆れたような表情を作る。カウラは額に手を当てて部下の態度に呆れていた。アメリアもまた呆然として誠をじっくりと眺めている。

「あのさあ、叔父貴の愛機と言えばなんだ?」 

 手を休めたかなめの一言。誠は何か考えがあるかなめを意識しながら考えてみる。

「あの人パイロットなんですか?知りませんでした」 

 その言葉にカウラは大きなため息をついた。明らかに自分を非難していることがわかるその態度にさすがの誠も頭に来るところがあった。

「お前がうちに居つかなければ05式乙型は隊長が乗るはずだったんだ」

 ため息交じりにカウラはそう漏らした。

「なんですか?新型でも出来るんですか?隊長は現在東和軍の開発の09式をぼろくそに貶してたじゃないですか!07式の配備が中止されて次期主力アサルト・モジュールの研究もほとんどの国で中止している時期に……」 

「だからよ。だからこれを出動待機状態に持ち込むのは効果的なのよ」 

 そう言ってアメリアは端末を操作する。注視していた誠の前に見覚えのある人型兵器のシルエットが浮かび上がった。

「なんです?その機体ですか」 

 その印象的な外観には誠も見覚えが無かった。

 額に打ち付けられた汎用アンテナがまるで平安武者のクワガタのように伸びる姿が印象的な機体だった。誠の05式には装備されていないマルチプル法術空間展開用シールドが肩にぶら下がっている。誠の記憶にはそんなアサルト・モジュールは存在しなかった。

「これがついに……」 

 誠が唾を飲む様をカウラは緊張した面持ちで見つめていた。

「叔父貴の奴。これは投入しないって話じゃ無かったのか?……『特戦三号計画試作戦機24号』……コードネーム『武悪』」 

 かなめの言葉は誠にはまるで聞きなれない言葉だった。

「『ブアク』?」

 誠はすっとぼけた調子でそうつぶやいた。

「この機体の正式名称は『特戦三号計画試作戦機24号』と言うものでね、先の大戦で法術の可能性に気づいた甲武陸軍兵器工廠。列強。特に甲武は遼帝国との同盟締結以降、アステロイドベルトの紛争で威力を発揮した先遼州文明の決戦兵器『アサルト・モジュール』の開発に着手したのよ。だけど、遼帝国の武帝の肝いりで遼が開発した『方天画戟』……まあランちゃんが前乗ってた機体なんだけど、開発コストがアサルト・モジュールの量産配備を目指す軍部と政府が対立しちゃうくらいのハイエンド機体なのよ」

アメリアはそう言って苦笑いを浮かべた。

「まあ甲武の軍は『サムライ』だからな。人型にこだわって装備的には戦闘車両や攻撃戦闘機などに対抗する兵器を搭載しただけの人型兵器である九七式を圧倒的ローコストで開発して装備することになったんだな、これが」

 かなめもまた呆れたような調子でそうつぶやいた。

「だが甲武陸軍はコスト的な問題により『方天画戟』並みの戦闘能力を諦めて九七式を投入したわけだが、技術部門は『方天画戟』の圧倒的な戦闘能力を理解した上で法術師専用の本当の意味でのアサルト・モジュール開発を諦めることは無かったんだ。『特戦三号計画』と名づけられた新規アサルト・モジュール開発計画だが、これは戦争の拡大で予算を削られながらも終戦までその開発計画は継続された。結果開発されたのがこの『武悪』」

 カウラはタブレットに映し出される人型兵器を見つめながらそう言った。

「プラットフォームとしては開発中止された九七式の後継機の四式のフレームを使用して干渉空間展開領域利用式新式反応炉搭載による圧倒的な出力による機動性と専用アクチュエーターの開発により実現可能な格闘戦能力を実現した。小脳反応式誘導型空間把握式照準システムなんかもある。どれも先の大戦時の使用アサルト・モジュールとは一線を画す画期的なシステムを導入する予定だったが、物資の不足、技術の未熟、何よりも対応可能な法術師のパイロットがいなかったところから終戦と同時にその資料は闇ルートに売却され表に出ることは無かったのよねえ」

 アメリアの言葉で誠もその『武悪』と言う機体が相当な高性能高品質な機体だと分かった。

「隊長は終戦の三年後、アメリカ軍の法術師実験施設から逃走して甲武、東和を経て遼南北部の軍閥、北兼閥に身を投じのよ。その時には隊長は独自ルートで特戦三号計画の資料を入手して自らの専用機として甲武帝国の泉州コロニーで開発を続けさせていたわけ。結果、24号機において要望されるスペックを持つ機体の開発に成功したというらしいわ。開発スタッフは隊長のお気に入りの能、狂言のキャラクターからこの呼称を『武悪』と命名したの。遼南内戦では隊長もパイロットとしても活躍した嵯峨の愛機として名前をとどろかせたのよ……」

「隊長……パイロットだったんだ……」

誠は少しばかりあの駄目人間の意外な一面を知って驚きの表情を浮かべた」

「まあ記録に残ってないから誠ちゃんが知らないのも当然だけど……諜報関係に働きかけて当時の記録を抹消するなんて隊長の十八番ですものね」

 続けざまにアメリアに言われて誠は混乱しながら話を聞いていた。

高コストで高性能な機体の搬入作業の計画があるなどと言うことはそれなりのタイミングを計るだろうと誠も思っていたが、言われれば今がそう言う時期だということを思い出した。東和陸軍の暴走が白日の下に晒されて東和軍への国民の不信が表面化した今のタイミング。確かに司法執行機関であり、遼州星系の統一の象徴である司法局への強力な兵器の導入は今しかないとも思えた。

「誠ちゃん。これだけじゃ無いのよ」 

 アメリアはそう言うと端末の画面を切り替える。

「確かランちゃんの『方天画戟』も豊川の工場でオーバーホール中だったわよね……隣の……」 

 アメリアはそう言うと菱川重工豊川工場の敷地の方に目を向いた。

「まあな。ランの姐御の05式先行試作型は東和軍からの借り物だからな。あの人の専用機も必要なんだろ」 

 かなめはそう言うと目を擦る。興奮気味だったのは一瞬でかなめは完全に興味を失ったとでも言うようにコタツの上のみかんに手を伸ばす。

 誠が周りを見渡すとカウラも興味なさそうに誠の顔を眺めていた。おそらくは二人ともその情報を知っていたのだろうと思うと少しばかり誠はがっかりした。

「まあ先月には新港にコンテナが運ばれてたって話しだから。後はタイミングの問題だったんじゃないの?」 

 アメリアもつまらなそうにファイルをかなめから受け取るとそのまま棚に返した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。 ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...