レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第3章 警備活動

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「いつ見てもぽわぽわだな、ひよこは」 

「そうよね。でもまあ出動時には一番の頼みの綱だもの。普段は英気を養っていてもらわないと……ひよこちゃんの力はいつだって必要だから」 

 珍しくかなめとアメリアが意見があったというようにうなづきあう。それを見ていた誠が立ちひざのままコタツに向かう。

 急に腹の虫が鳴いた。それを聞くとアメリアの表情が変わった。元々切れ長の瞳には定評があるアメリアだが、さらに目を細めるとその妖艶な表情は慣れている誠ですらどきりとするものがあった。

「あら?神前曹長のおなかが……」 

 アメリアはそう言うと舌なめずりをした。当然かなめのタレ目も細くなって誠を捉えている。

「仕方ないだろ。時間が時間だ。それに貴様等が神前を外に出しておくからエネルギーの燃焼が早まったんだ」 

 二人の暴走が始まる前にとカウラの言葉が水をさす。

「そうなの?誠ちゃん?」 

 アメリアは今度は悲しそうな表情を演技で作って見つめてくる。誠はただ頭を掻くしかなかった。

「でもそうすると買出しか出前か……」 

 そう言いながらもかなめの手には近所の中華料理屋のメニューが握られている。

「出前だろ?」 

 カウラの一言と無視して暮れてきた夕日と自然に付いた電灯の明かりの中でかなめは麺類のメニューを見る。そんなかなめを見ながらアメリアが人差し指を立てる。

「ああ、私そこなら海老チャーハン……あそこはご飯ものは結構早いから」 

 メニューの背表紙で店を推察したアメリアはそう言い切った。かなめはしばらく眉をひそめてアメリアを見つめた後、再びメニューに目をやった。

「アタシは麺類がいいんだよな……カウラ。貴様はどうするよ」 

 判断に困ったかなめはメニューをカウラに押し付けた。困ったような表情で誠を見た後、カウラは差し出してくるかなめの手の中のメニューを凝視した。

「あっさり味が特徴だからな……あそこの店は」 

 そう言いながらすでにカウラは食欲モードに入っていた。意外なことだがこの三人ではカウラが一番の大食だった。

 基本的にカウラ達、人造人間『ラストバタリオン』シリーズの人々は小食で効率の良い代謝機能を保持している。運航部の面々などもかなりの小食で、アメリアもその体格に似合わず普通に一人前の食事で済むほどだった。

 その中で代謝機能の効率化や食欲の制御、栄養摂取能力の向上研究の成果はカウラには見られなかった。172cmの身長の彼女だが、時としては186cmの誠よりも食べることがある。

「私もご飯物がいいな。出来れば定食で……回鍋肉定食か……それでいいか」 

 そう言うとカウラはメニューをかなめに返す。そしてかなめはそのメニューを誠からも見える位置に置いた。

「おい、神前はどうするよ」 

 かなめのタレ目が誠を貫く。こう言う時はかなめは誠と同じものを頼む傾向があった。そしてまずかったときのぼろくそな意見に耐えるのは気の弱い誠には堪える出来事だった。

「そうですね」 

 先ほどかなめは麺類を食べたいと言った。ご飯ものを頼めば彼女が不機嫌になるのは目に見えている。

「五目……」 

 そこまで言ってかなめの頬が引きつった。誠はそれを見て五目そばは避けなければならないととっさに判断する。彼女は野菜は苦手なものが多い。そこで誠は視点を変える。

「じゃあ排骨麺で」 

「じゃあアタシも同じと言うことで頼むわ」 

 そう言ってかなめはメニューを誠に投げる。受け取った誠はすぐに端末を開いて通信を送り注文を済ませた。

「じゃあご飯も用意できたことで」 

 アメリアはそう言って後ろの棚に四つんばいで這って行く。誠が振り向くと誠に手を振りながら帰って行く運行部の女性士官が目に入る。

 しばしの沈黙が警備室に訪れた。誠達はまったりしながらゲートから出ていく隊員達を見守っていた。

「おい、神前。色目使って楽しいか?」 

 背中から投げかけられたかなめの声に誠は我に返って正座していた。空腹のかなめの神経を逆なでしてと苦になることは一つもない。

「ちょっと!」 

 戸棚に頭を突っ込んでいたアメリアが叫ぶ。彼女の奇行に慣れている誠達はそれを無視した。

「ちょっとって!」 

 戸棚から書類の入ったファイルを手にしてアメリアが顔を出す。その手に握られたファイルを見てようやく誠達はアメリアが何かを見つけたことに気づいて耳を貸す心の余裕を持つことにした。

「なんだよ……つまらねえことなら張り倒すからな」 

 そう言いかけるかなめだが、アメリアの手にあるファイルが輸送予定表であることに気づいて怪訝な顔でそれに目をやった。

「なんだ?そんなファイル。何か大物でも搬入する予定があるのかね」 

 そう言ってかなめが明らかに不自然な厚さのファイルを手に取るが、彼女がその表紙をめくったとたん、表情が瞬時に緊張したものへと変わった。

「神前。そこの窓閉めろ」 

 かなめの表情からそのファイルの重要性を理解した誠は、ゲートが見える窓に這って行き窓を閉める。

外では疲れ果てたような運航部の女子隊員が不思議そうに誠を見つめている。

「何かある……とは思っていたけどねえ……やっぱりか……」 

 かなめはうなづきつつつぶやく。カウラはかなめの手のファイルを伸びをして覗き込んだが、すぐに黙り込んだ。

「まあランの姐御がわざわざ暇な私達をここに呼んだってことで何か搬入があるんじゃないかとは予想は出来ていたけどね」
 
 アメリアがそう言うと出がらしの入った急須にポットのお湯を注いだ。
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