レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,301 / 1,535
第20章 鋼の巨人

犯意の源

しおりを挟む
「07式のオペレーションシステムに接続!コントロールをそちらに任せます!」 

 誠の言葉にモニタの中でかなめがうなづく。抵抗する厚生局の07式の左わき腹の装甲板を引き剥がされてマニピュレータで有線でシステムに侵入されても07式のパイロットは投降する意思を示さなかった。

『しばらくそのまま抑えていてくれ。西園寺がシステムを掌握すれば私達の仕事は終わりだ』 

 安堵の表情。いつも緊張して見える画面の中のカウラの顔が笑顔に変わる。誠も自然と集中していたために額から流れていた汗に気づいて苦笑いを浮かべながら空調の温度を下げた。

『安城少佐隊は一階まで制圧したらしいわ。後は……』 

『例のプラント……化け物の回収か……』 

 首筋のスロットにハブを差し込んで何本ものケーブルをぶら下げているかなめのつぶやく。何本ものコードを首元に刺したかなめの姿に少しばかり誠は驚きの表情を浮かべた。

『神前。何見てんだよ?』 

 かなめの言葉に心を見透かされたように感じた誠は意味も無く頭を下げた。

『システムを制圧した。カウラ。包囲してる機動隊の上に連絡して07式のパイロットを抑えさせろ』 

 誠はようやく力が抜けてだらりとシートに身体を投げた。すでに日付をまたごうとしていた。07式の機能停止により東都警察の機動隊は投光車両を並べて一斉に誠の機体と、大破した灰色の07式を闇夜に映し出している。

『ご苦労さん……良い仕事したじゃねえか』 

 そう言いながらタバコを取り出そうとしているかなめに目をやっていたときに誠の意識に強烈な一撃が走った。

『おい!』 

 カウラが叫んでいる。誠にはそれが聞こえるが身体が言うことを利かなかった。意識が朦朧として、そして何か恐怖のようなものが全身を走り毛根に血液が流れ込むような感覚が芽生える。

『どうした!神前!』 

 再びカウラの声が意識から遠くなっていくような状況で聞こえた。とりあえずわずかに言うことをきく左腕でオートに設定して07式に取り付こうとする機動隊の隊員達から離れるのがやっとだった。

『神前!どうしたんだ?顔色が悪いぞ』 

 かなめの声も聞こえるが、まるで電波の悪いところの無線通信のような聞こえ方をしていた。異変に気づいたカウラがモニターの中で地下で作戦行動中のランの隊に連絡をつけようとしているのが見える。

『そうか……クバルカ中佐達が出会ったのかな……彼等に……』 

 かすかに意識の果てに浮かぶ誠の思い。そしてそれゆえにこの異変があの法術師開発用の生態プラントにされた難民達の意識のなせる技であることを確信していた。

「決着は……まだついていないんだ……」 

 そう思うと誠は全身に自分の力を流し込もうとしてみた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...