レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第20章 鋼の巨人

市街戦

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「お待たせしました!」 

 先頭切って小走りでカウラを先頭に誠達第一小隊の三人はトレーラーの隣に展開された仮設テントに入った。

「遅いわね」 

 テーブルで部下の技師達から報告を受けていたアメリアが視線も上げずに誠達を迎え入れる。

「マジで市街地で起動かよ?大丈夫なのか」 

 かなめはそう言いながら手前の端末を操作していた技術下士官をどかせてその端末を乗っ取る。

「一応、丙種出動許可は出てるわよ。治安維持活動と言うことだから使用できる機能に制限があるけどね」 

 そう言って笑いながらアメリアは隣で作業をしていたパーラに声をかける。彼女は敬礼をするとそのままテントを出て行った。

「重力制御装置の使用禁止。パルス動力系統システムの封印。レールガンをはじめとする重火器の使用禁止……まあ当然といえば当然ですが……神前の得意の『剣』も封印だな」 

 カウラはポニーテールの後ろ髪を右手で撫でる癖を見せた。こういう時は彼女はかなり悩んでいることを誠も知るようになっていた。

「二次被害を出すわけには行きませんからね。でも本当に市民の避難の誘導とかは……」 

「馬鹿ねえ、誠ちゃんはそんな気を回す必要は無いのよ。それは安城隊長のお仕事なんだから。それよりそこ!」 

 アメリアの視線の先には端末をかなめに奪われておたおたしている整備員の姿が見える。仕方が無いと敬礼して見せた彼はかなめを指差す。

「いいわよ、かなめちゃんにはそこで管制を担当してもらうわ。でもまあ……」 

 アメリアはそのままテントの入り口に歩き出した。そこにタイミングよくパイロット用ヘルメットと作業服を持ってきた西が立っていた。

「一応こちらに着替えてね。どうせこの状況では対Gスーツなんて要らないでしょ?」 

「はあ」 

 まくし立てるアメリアに圧倒されるようにして誠はそのままテントから出ようとする。

「どこ行くの?」 

「ちょっと着替えを……」 

 そこまで誠が言ったところでアメリアは大きなため息をついた。

「酒が入るといつも脱いでるじゃないの。そこの奥なら場所があるからそこで着替えなさい」 

 どこかぴりぴりした雰囲気のアメリアに逆らえずに誠はそのままテントの奥に置かれた銃器の間でジャンバーを脱いだ。

「がんばれよー」 

 明らかにやる気の無い調子で小火器管理の責任者として使用火器のチェックをしていた技術士官が声をかけてくるのに愛想笑いを浮かべながら誠はベルトに手をかけた。

「でもリョウ・ライラ中佐のレンジャーは何をしているんですか?」 

 着替えている誠を完全に無視しているカウラの言葉が聞こえる。

「ああ、ライラさんもバックアップで動いてくれるわよ。隊長が……気を利かせているみたいだけど……」 

 誠は上着のボタンをつけている。見ているわけではないのだがアメリアが苦笑いを浮かべているのが想像できた。

「そうは言うけど分かりきっていても心の整理はつかないものよ。人間って」

 アメリアは毅然とした調子でそう言った。作業着に着替え終わり誠は装備を身につけている。暗い話も一段落したようなのでそのままヘルメットを手に二人の前に立つ。

「ああ、早かったわね。行きましょう」 

 そう言うとそのままアメリアは誠とカウラをつれてテントを出た。トレーラーには巨大な司法局実働部隊の切り札の人型兵器アサルト・モジュール05式乙型が搭載されていた。

「じゃあ指揮だけど、そこの軽装甲車両でいいかしら?」 

 アメリアが指差したのは治安出動用として導入されたもののまるで使用機会の無かった軽乗用車に装甲を施した車両だった。

「では遼州同盟司法局所属、実働部隊第一小隊、出動します!」 

 カウラはそう言ってアメリアに向けて敬礼すると走って車両へと向かう。誠はそれを見ながら05式のコックピットに乗り込んだ。

『おう、おせえぞ!』 

 システムを起動するとすぐにかなめの声が響いた。モニターには相変わらず私服で作業を続けるかなめの姿が見える。

「すいません!それより進行状況は?」 

 誠はそう言いながらシートベルトを締める。起動したシステムが全集モニタを起動して同盟司法本局ビルの周りの闇を映す。

『現在はレンジャーと司法局機動部隊が厚生局本局ビルに続く道の封鎖を始めたところだ。安城の姐御は上空でヘリで待機中。作戦開始と同時に合同庁舎にラベリング降下で突入する準備は万全だ。それに加えてちっちゃい姐御が地下から潜入中……敵さんは完全に包囲されてる』 

 かなめはそう言ってニヤリと笑う。隣のモニターが開きかなめの不謹慎な笑顔に頭を抱えるカウラが映し出された。

『神前曹長、すぐに機体を立てろ。それから西園寺には最新のデータを私の手元に送るように』 

『人使いの荒い隊長さんだこと』 

 ぶつぶつとつぶやきながら首筋のスロットからコードを出して手前の端末に差し込んでいるかなめの姿が見える。

『クバルカ中佐達が動き出したな……神前曹長!』 

 カウラの言葉に合わせてトレーラーのデッキアップが開始される。それまで寝ているような体勢だった誠も次第に垂直に起き上がっていく感触で興奮してくるのを感じていた。

 目の前には官庁街らしく煌々と光る窓からの明かりに照らされながら灰色の機体が司法局の裏庭に聳え立つ。

『なるほど都会は良いねえ……道が広くて。これが豊川だったら電柱を破壊しながら進むことになるからな』 

 ニヤニヤと笑うかなめを一瞥した後、誠はそのままトレーラーから伸びるコードを愛機からパージして自立させた。

『とりあえずこのまま合同庁舎まで進行するぞ』 

 足元を走るカウラの軽装甲車両の先導で進む誠の『痛特機』。避難する官庁街の人々の視線が痛々しく突き刺さるがそれが誠には痛快だった。

『見られてるぞ、神前』 

 呆れたようにかなめがつぶやく。だが、誠はそれに満面の笑顔で答える。

『現在地下通信ケーブルの中をクバルカ中佐の部隊が進行中だ。とりあえず視線をこちらに集めることが当面の目的になるな』 

 カウラの言葉が終わるまもなく目に入った合同庁舎からロケット弾が05式に浴びせられる。

『厚生局の対麻薬取締り部隊か。重火器はほとんど持っていねえはずだから余裕で……』 

 そう言うかなめの一言が思い込みだというのが誠は目の前の巨大な影ですぐに分かった。東和陸軍保有と思われる07式特戦が視界に入った。その姿に誠は驚きを隠せなかった。

『07式だと?こんなのもまで用意していたのか……神前とりあえず抜刀だ!』 

 カウラの叫びがコックピット内に響く。目の前の07式は東都陸軍の海外派遣軍に一部採用されているアサルト・モジュールである。その手には市街地だというのにレールガンまで装備されている。誠はすぐに距離を取ればやられると察知して抜刀した。

 丙種出動では最強の武器である法術反応式軍刀を掲げて誠の機体が07式に斬りかかる。厚生局の機体だが、動きは明らかにランの教導部隊を思わせる的確な動きで誠の斬撃を次々とかわす。

『神前!熱くなるな!』 

 カウラの言葉が響いたと同時に誠は機体が爆発で吹き飛ばされるのを感じた。誠の05式はバランスを崩しかけるが何とか左足を踏ん張らせて体勢を立て直しにかかる。

『空間破砕……相手も法術師か?』 

 おもわずかなめがつぶやいていた。干渉空間の内部の分子構造を一挙に崩れさせる空間破砕。嵯峨が得意とする法術だとランから聞いていた。その展開のスピードから明らかに相手がランの教導を受けた法術師であることがそのことからも誠にも分かった。

『ランの餓鬼の教導を受けた法術使いのパイロット。難敵だな。こっちは飛び道具が無いんだ。距離は詰めておけよ』 

 かなめの言葉を待つまでも無く誠も体勢を整えながら敵のレールガンをけん制するように敵の右手に絡み付ける距離を保ちながら身構えている。

『今クバルカ中佐が厚生局の地下に突入した!現在例の化け物を捜索中だ。とりあえず時間を稼げ』 

 カウラの言葉で少し気が楽になった誠はじりじりと敵との間合いをつめる。距離が稼ぐのが無理だと悟ったのか、07式はレールガンを放り投げた。

「良い覚悟だ!」 

 その瞬間に07式の右側に回りこんだ誠はそのまま上段から軍刀を振り下ろした。相手も素早くレーザーソードを抜いてこれを受ける。激しい剣のぶつかる光が辺りを照らし出す。

『そのまま押せ!こういう場所でのシミュレーション経験の差を見せろ!』 

 かなめの叫びに合わせて今度は中段から突きを三回、下段から足を狙っての斬撃をくわえる。

 最後の右足への斬撃が直撃して07式は体勢を崩した。

「これで!」 

 誠は叫びと共に中段に構えた軍刀の突きを07式の頭部に突き立てる。07式の頭部ははじかれるように胴体を離れて路上に転がり落ちた。センサーを失い07式の動きが鈍る。

『右足を取れ!』 

 カウラの言葉が飛ぶと誠はそのまま軍刀を07式の右足に突きたてた。動きを止めた敵機を見ながら誠は大きく肩で息をして気持ちを整えた。
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