1,264 / 1,505
第6章 陰謀
権謀術数
しおりを挟む
「餌を撒いて相手を混乱させる……まあ思うとおりに行きますかね……」
革ジャンを着たサングラスの男がいた。その男、北川公平はただ同盟軍事機構本部ビルの一室から乾いた北風の吹きすさぶ東都の町を眺めていた。
「どういうことでしょうか?」
そう丁寧にたずねたのは同盟軍事機構の東和の代表である菱川真二大佐だった。北川は諦めたようなため息をつくと軍の高官である菱川を尻目に応接ソファーに体を投げた。
「なあに、知識の開拓に熱心な研究者の連中には警告はしましたから仕事を急いでもらえると思ったんですがね。そちらも司法局への恐喝……逆に連中の動きが激しくなってる……陛下も気にされていますよ。火の粉がこちらまで飛んできたら迷惑ですな」
北川の言葉に明らかに怒りの表情を浮かべる菱川だった。そこに北川の携帯の着信音が響いた。
「こちらも暇ができたらまた脅しをかけておきますから。とりあえず今日はご挨拶だけで」
そう言うと北川は菱川の神経を逆なでするような憎たらしい笑みを浮かべるとそそくさと立ち上がり、そのまま部屋を出て扉が閉まるのを確認してようやく端末の回線を開いた。
「はい?」
『俺だ』
向こう側の低い声の持ち主を特定すると北川の表情がゆがんだ。
「桐野さん。俺の予定表も知っているでしょ?今かけてくるのはやばいですよ」
苦々しげにつぶやく北川だが、電話の向こう側にいる桐野孫四郎。通称『人斬り孫四郎』はまったく気にしていないというようにからからと笑った。
『なあにそのときは一人の悪趣味な男が世界から消えるだけだ。別に困ることも無い』
あっさりとそう答える桐野に北川は唖然とする。
「その悪趣味な男から言わせて貰いますがね、これは廃帝のご存じの作戦行動なんですか?司法局に絡むのは面倒なことになりますよ」
桐野が示した法術師の能力研究を目的とする地下研究所の支援の案。それを桐野が独断で北川に突きつけたときから北川はそのことが気になっていた。
法術師の支配する銀河の秩序を建設する。それが彼等の主である長髪の男『廃帝ハド』の意思だった。遼州人の世界を作るということで協調している菱川大佐の東和陸軍内部の有志達と北川が行動をともにしているのはとりあえず地球人をこの惑星遼州とその勢力圏から叩き出すと言う目的を共有しているからだったので北川も理解できた。だが、桐野が顔をつないでいる法術能力の強制発動研究施設。そんなものとの妥協などありえないと北川は思っていた。
『陛下はご存知では無い。我々に協力したいと言う人物の紹介で俺は動いている』
そうあっさり言い切る桐野に北川は呆れた。はじめから桐野には期待はしていなかった。ただの人斬り、死に行く敵の断末魔の声を聞きたいだけの殺人鬼に過ぎない桐野に何を言うつもりも無い。今回も彼が待ち焦がれている『同類』だと言う司法局実働部隊隊長嵯峨惟基をおびき出したい一心での作戦なのだろう。
「それじゃあ俺はいつでも証拠を消せるようにしておきますから」
そう言って北川は一方的に電話を切った。
「まったくただの人殺しらしく隠れていてくれると良いんだけど」
そう言うと北川は携帯端末を切った。振り返ると菱川は北川の様子など気にも留めていないというように茶を啜っていた。
「すみませんね。ちょっと急用ができましてね、大佐殿」
「あなたもお互い忙しい身分ですから。また情報があったら接触しましょう。連絡先は……例のサーバーを経由させますか?それとも……」
菱川の頬に笑みが浮かぶ。この菱川コンツェルンの御曹司でありながら東和共和国陸軍での派閥を形成する人物に改めて北川は敵意を抱いた。
「またこちらから連絡しますよ」
そう言って北川は笑顔を見せ付けてそのまま菱川の執務室のドアから誰もいない廊下に出た。
「世間知らずのぼんぼんか……あんなのが一派の首領とは……東和も終わりだな……せっかくこちらが連中を監視していることを教えてやったのに……研究熱心な技術者の方々にはもう少し仕事を急いでもらわないとな」
鼻で笑った北川は桐野が連絡してきた新しい研究施設の下見に向かおうとそのままエレベータに向かって歩き出した。
革ジャンを着たサングラスの男がいた。その男、北川公平はただ同盟軍事機構本部ビルの一室から乾いた北風の吹きすさぶ東都の町を眺めていた。
「どういうことでしょうか?」
そう丁寧にたずねたのは同盟軍事機構の東和の代表である菱川真二大佐だった。北川は諦めたようなため息をつくと軍の高官である菱川を尻目に応接ソファーに体を投げた。
「なあに、知識の開拓に熱心な研究者の連中には警告はしましたから仕事を急いでもらえると思ったんですがね。そちらも司法局への恐喝……逆に連中の動きが激しくなってる……陛下も気にされていますよ。火の粉がこちらまで飛んできたら迷惑ですな」
北川の言葉に明らかに怒りの表情を浮かべる菱川だった。そこに北川の携帯の着信音が響いた。
「こちらも暇ができたらまた脅しをかけておきますから。とりあえず今日はご挨拶だけで」
そう言うと北川は菱川の神経を逆なでするような憎たらしい笑みを浮かべるとそそくさと立ち上がり、そのまま部屋を出て扉が閉まるのを確認してようやく端末の回線を開いた。
「はい?」
『俺だ』
向こう側の低い声の持ち主を特定すると北川の表情がゆがんだ。
「桐野さん。俺の予定表も知っているでしょ?今かけてくるのはやばいですよ」
苦々しげにつぶやく北川だが、電話の向こう側にいる桐野孫四郎。通称『人斬り孫四郎』はまったく気にしていないというようにからからと笑った。
『なあにそのときは一人の悪趣味な男が世界から消えるだけだ。別に困ることも無い』
あっさりとそう答える桐野に北川は唖然とする。
「その悪趣味な男から言わせて貰いますがね、これは廃帝のご存じの作戦行動なんですか?司法局に絡むのは面倒なことになりますよ」
桐野が示した法術師の能力研究を目的とする地下研究所の支援の案。それを桐野が独断で北川に突きつけたときから北川はそのことが気になっていた。
法術師の支配する銀河の秩序を建設する。それが彼等の主である長髪の男『廃帝ハド』の意思だった。遼州人の世界を作るということで協調している菱川大佐の東和陸軍内部の有志達と北川が行動をともにしているのはとりあえず地球人をこの惑星遼州とその勢力圏から叩き出すと言う目的を共有しているからだったので北川も理解できた。だが、桐野が顔をつないでいる法術能力の強制発動研究施設。そんなものとの妥協などありえないと北川は思っていた。
『陛下はご存知では無い。我々に協力したいと言う人物の紹介で俺は動いている』
そうあっさり言い切る桐野に北川は呆れた。はじめから桐野には期待はしていなかった。ただの人斬り、死に行く敵の断末魔の声を聞きたいだけの殺人鬼に過ぎない桐野に何を言うつもりも無い。今回も彼が待ち焦がれている『同類』だと言う司法局実働部隊隊長嵯峨惟基をおびき出したい一心での作戦なのだろう。
「それじゃあ俺はいつでも証拠を消せるようにしておきますから」
そう言って北川は一方的に電話を切った。
「まったくただの人殺しらしく隠れていてくれると良いんだけど」
そう言うと北川は携帯端末を切った。振り返ると菱川は北川の様子など気にも留めていないというように茶を啜っていた。
「すみませんね。ちょっと急用ができましてね、大佐殿」
「あなたもお互い忙しい身分ですから。また情報があったら接触しましょう。連絡先は……例のサーバーを経由させますか?それとも……」
菱川の頬に笑みが浮かぶ。この菱川コンツェルンの御曹司でありながら東和共和国陸軍での派閥を形成する人物に改めて北川は敵意を抱いた。
「またこちらから連絡しますよ」
そう言って北川は笑顔を見せ付けてそのまま菱川の執務室のドアから誰もいない廊下に出た。
「世間知らずのぼんぼんか……あんなのが一派の首領とは……東和も終わりだな……せっかくこちらが連中を監視していることを教えてやったのに……研究熱心な技術者の方々にはもう少し仕事を急いでもらわないとな」
鼻で笑った北川は桐野が連絡してきた新しい研究施設の下見に向かおうとそのままエレベータに向かって歩き出した。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる