レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第2章 翌日の出来事

朝のできごと

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 翌朝、誠はいつものように定時に布団から起き上がった。寮の自分の部屋。カーテン越しの日差しが一日の経過を表している。そして昨日の化け物の断末魔の声を聞いたような感覚を思い出し首をすくめた。

「しばらく見るだろうな。こんな夢」 

 そう思った誠が布団から起き上がろうとして左手を動かす。

 何かやわらかいものに触れた。誠は恐る恐るそれを見つめる。

「おう、早いな」 

 そこには眠そうに目をこするかなめの姿があった。そして彼女の胸に誠の左手が乗っていた。

「お約束!」 

 手を引き剥がすと跳ね上がってベッドから飛び出し、そのまま誠は部屋の隅のプラモデルが並んでいる棚に這っていく。

「おい、お約束ってなんだよ。アタシがせっかく添い寝をしてあげてやったっつうのによ!」 

 かなめはそう言うと自分の部屋から持ってきた布団から這い出し、枕元に置いてあったタバコに火をつける。そのまま手元に灰皿を持ってくるが、そこに数本の吸殻があることから、かなめが来てかなり時間が経っているのを感じた。

 とりあえず誠は息を整えて立ち上がり、カーテンを開けさらに窓を開けた。

「寒くないのか?」 

 タバコをふかしながらかなめは誠を見上げる。

「タバコのにおいがしたらばれるじゃないですか!」 

「誰にばれるんだ?そうすると誰が困るんだ?」 

 かなめはニヤニヤと笑う。

「あのですねえ……」 

 そう言った時に部屋のドアがいきなり開く。

「自分の部屋にいないと思ったら……西園寺!」
 
 踏み込んできたのはカウラだった。隣になぜか寮長の島田までいる。

「おう!来たか純情隊長!」 

 かなめは満足げな笑みを浮かべる。誠はその姿を見るといつもどおりブラもつけないタンクトップにタイトスカートだけと言うかなめの姿と青筋を立てている勤務服姿のカウラを見比べる。

「ああ、西園寺さん。一応……寮には寮の規律って奴がありまして……ってちょっとどいてくださいね」 

 そう言うと島田はそのまま部屋に入り誠のプラモデルコレクションのメイドのフィギュアをどかして小さな四角い箱を取り出す。

「おい、隠しカメラって奴か?なんだ、何もしなかったのがばれてたわけか」 

「かなめちゃん!」 

 カウラをからかう言葉を用意しようとしたかなめの頬にカウラ達をすり抜けて飛び込んできたアメリアのローキックが炸裂した。

 一見、グラマラスな美女に見えるかなめだが、100kgを超える軍用義体の持ち主である。そして骨格は新世代チタニュウム製と言う鋼鉄より硬い材質でできている。そのままアメリアは蹴り上げた右手を中心に回転して誠の頭に全体重をかけての頭突きをかますことになった。

「痛いじゃないの!かなめちゃん!」 

 アメリアが叫ぶがかなめは涼しい顔でタバコをくゆらせている。

「オメー等何やってんだ?」 

 入り口に現れたのは小さなランがトランクを抱えたと言うか大きなトランクに押しつぶされそうな状態で立っていた。そして隣には同じように大きな荷物を抱えた茜とラーナがいた。

「なんだ?引越しか?」 

「仕方ねーだろ?昨日の件でオメー等の監視をしなきゃならねーんだから。一応、昨日のアレについちゃ口外無用でね」 

 ランはかなめのタバコのにおいに嫌な顔をしながらそう言った。

「ごめんなさいね、皆さんを信用できないみたいな感じで。まあちょうど技術部の方が六人ほど本局に異動になって部屋が空いたと島田さんから連絡があってそれで……」 

 茜の言葉にかなめ、カウラ、アメリアの視線が島田に向いた。

「しょうがないだろ!同盟司法局の指示書を出されたら文句なんて言えないじゃないですか!」 

 島田が叫ぶとそのすねをランが思い切り蹴飛ばす。

「何か?アタシ等がいると都合が悪いことでもしてんのか?」 

 ランに弁慶の泣き所を蹴り上げられて島田はそのまま転がって痛がる。

「そう言うわけだ。しばらく世話になるぜ」 

 そう言ってランはいつの間にか同じようにトランクを持って待機していたサラの手引きで階段に向けて歩き出した。

「どうすんだよ!ちっちゃい姐御が来たら……」 

「みなの緊張感が保たれて綱紀が粛正される。問題ないな」 

「カウラ!テメエ!」 

 カウラとかなめがにらみ合う。ようやく痛みがひいたのかゆっくりと立ち上がったアメリアがすねを抱えて転げまわっていた島田の襟首をつかんで引き寄せた。

「正人ちゃん。サラも下に来てた様な気がするんだけど……それも指示書にあったの?」 

「ありました!なんならお見せましょうか?」 

 サラとの付き合いが公然の事実である島田が開き直る。そしてそのままアメリアは胡坐をかいて目をつぶり熟考していた。

「茜さんは元々仕事以外には関心が無い。問題ないわね。ラーナも同じ。そしてサラはいつも私達とつるんでいるから別に問題ない。そうすると……」 

「やっぱちびじゃねえか!問題なのは!」 

 かなめとアメリアが頭を抱える。ほとんどの隊の馬鹿な企画の立案者のアメリアとその企画で暴走するかなめにとってはそのたびに長ったらしい説教や体罰を加える元東和陸軍特機教導隊の鬼隊長の同盟司法局実働部隊副長クバルカ・ラン中佐と寝食を共にするのは悪夢以外の何者でもなかった。

「まあ、おとなしくしていることだ。というわけで西園寺。部屋に帰るぞ」 

 そう言うと立ち上がったカウラがかなめの首根っこを掴む。

「わあった!出りゃ良いんだろ!またな」 

 かなめはカウラに引き立てられるようにして立ち上がる。アメリアはぶつぶつ独り言を良いながらそれに続いた。

「まったく。面倒な話だな」 

 島田も彼女達を一瞥するとそのまま立ち上がり、誠の部屋のドアを閉めた。

『だんだん偉い人が増えるんだな』 

 そう思いながら着替えをしていた誠だが、すぐに緊張して周りを見回した。先ほどの隠しカメラの件もある。どこにどういう仕掛けがあるかは島田しか知らないだろう。そう思うと出来るだけ部屋の隅で小さくなって着替える。

「寒!」 

 思い出してみれば窓が開いたまま。とりあえず窓を閉めてたんすからジーンズを取り出した。そのまま何とか出勤できるように上着を羽織って廊下に出た。いつものようにあわただしい寮の雰囲気。夜勤明けの整備班員が喫煙所から吐き出す煙を吸いながら階段を下りて食堂に入る。
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