1,237 / 1,505
第28章 ニューカマー
噂の妹
しおりを挟む
「第二小隊って……ついにですか?」
「まあ、いろいろあったからな……ああ、新人来てたよな」
かなめが意味ありげに笑う。そこで扉が開く。
「失礼します!アン・ナン・パク軍曹着任のご挨拶に来ました!」
きっちりと司法局の制服を着込んだアンが敬礼する。かなめもすぐに立ち上がり敬礼を返した。そしてそれを見て誠も我に返ったように敬礼をしてそのままネクタイを締めなおした。
「ああ、僕は隊長に呼ばれているんで……」
そう言って立ち去ろうとする誠に向け微笑を浮かべながらアンが誠の手を握った。
「僕もついていっていいですか?隊長に着任の挨拶も済ませてないので」
誠はアンの視線を受けつつランにすがるような視線を向けた。
「神前、連れてってやれ」
淡白にそう言うとランは席に座って新聞の続きを読み始めた。誠はとりあえず握ってくるアンの手を離そうとした。しかしその華奢な体に似合わず握る手の力に誠は手を離すことをあきらめた。
「あのー……」
何かを言いたげにアンが見つめてくる。確かにその整った面立ちは部隊最年少の西兵長と運行部の女性隊員の人気を奪い合うことになるだろうと想像できるものだった。
「とりあえず手は離してくれるかな?」
自分の声が裏返っていることに気づくが、誠にはどうもできなかった。実働部隊の詰め所を覗くと、中でかなめが腹を抱えて笑っている。
「すいません!気がつかなくて……」
そう言うとようやくアンは手を離した。そしてそのまま何も言わずにアンは誠に続いて廊下をついてくる。振り向いたらだめだと心で念じながら隊長室の前に立った。
「失礼します」
誠はノックの後、返事も待たずに隊長室に入った。
中では難しい顔をして机に座っている嵯峨がいた。その手には棒状のものを持っている。いつものように銃器の調整でもしていると思って誠は咳払いをする。
「おう、神前か。ご苦労だったね」
それだけ言うと嵯峨は視線を隣の小柄な少年に向けた。アンは自分が見つめられていることに気づくとすばやく敬礼をした。
「自分は……」
「別にいいよ、形式の挨拶なんざ」
そう言うと嵯峨は今度は手元から細長い棒を取り出してじっと眺め始めた。
「隊長、用事があるんじゃないですか?」
「ああ、神前。そう言えばそうなんだけどさ」
ようやく用事を思い出したと言うように手にした棒を机に置くと立ち上がり、二人の前に立つ。
「実は人を迎えに行って貰いたいんだが……。ああ、アンはクバルカのところに行っていいよ。説明は全部あいつがするから」
「はい!」
緊張した敬礼をしてアンは部屋を出て行く。目の前の嵯峨の顔がにやけている。先ほどかなめが向けてきた視線と同じものを感じて誠は咳払いをした。
「誰を迎えに行くんですか?」
「別にそんなにつんけんするなよ。豊川の駅の南口の噴水の前で甲武海軍の少佐と大尉の制服を着た新入りが待ってるからそいつを拾って来いや」
「なんで名前とか言わないんですか?それに少佐と大尉って……第二小隊の」
「そうだよ、日野かえで少佐と渡辺リン大尉。まさかかなめ坊に拾って来いとは言えねえだろ?」
いかにもうれしそうに言う嵯峨に誠は思わずため息をついた。
嵯峨の姪にしてかなめの妹、日野かえで少佐。甲武海軍兵学校卒業後すぐに海軍大学に進んだエリートと言うことは一応聞いてはいた。だが、彼女の話が出ると十中八九かなめが暴れだし収拾がつかなくなる。
妹である彼女になぜかなめが拒絶反応を示すのかはあまり詮索しないほうがいい、カウラのその助言に従って誠はそれ以上の質問は誰にもしなかった。
「わかりましたけど……でも本当に僕で良いんですか?」
頭を掻きながら誠が再び執務室に腰掛けた嵯峨にたずねる。
「別に誰だって良いんだけどさ。かなめ坊以外なら」
そう言って再び嵯峨は机の上の棒を見つめる。誠は埒があかないと気づいてそのまま部屋を出る。そこにはなぜか彼が出てくるのを待っていたアンがいた。
「なんだ?クバルカ中佐が待ってるだろ?」
そう言う誠をアンは潤んだ瞳で見上げる。
「あの、僕……」
「あ、俺は急いでるんでこれで!」
そう言うと誠はそのまま早足で正面玄関に続く廊下を歩いた。そしてそのまま更衣室の角を曲がり、ひよこがポエムを書いている医務室の前の階段を下り、運行部の部屋の前の正面玄関を抜け出る。
そして誰もいない警備室の中の鍵もかかっていない公用車のキーを集めたボックスからライトバンのキーを取り出す。
「本当にこんなので大丈夫なのかな……盗まれたりしても知りませんかね」
誠は独り言を言うとダークグリーンのライトバンのドアを開ける。
「それじゃあ行くか」
誠は車を出す。そのまま閑散としたゲートをくぐって菱川の工場に車を走らせた。
「まあ、いろいろあったからな……ああ、新人来てたよな」
かなめが意味ありげに笑う。そこで扉が開く。
「失礼します!アン・ナン・パク軍曹着任のご挨拶に来ました!」
きっちりと司法局の制服を着込んだアンが敬礼する。かなめもすぐに立ち上がり敬礼を返した。そしてそれを見て誠も我に返ったように敬礼をしてそのままネクタイを締めなおした。
「ああ、僕は隊長に呼ばれているんで……」
そう言って立ち去ろうとする誠に向け微笑を浮かべながらアンが誠の手を握った。
「僕もついていっていいですか?隊長に着任の挨拶も済ませてないので」
誠はアンの視線を受けつつランにすがるような視線を向けた。
「神前、連れてってやれ」
淡白にそう言うとランは席に座って新聞の続きを読み始めた。誠はとりあえず握ってくるアンの手を離そうとした。しかしその華奢な体に似合わず握る手の力に誠は手を離すことをあきらめた。
「あのー……」
何かを言いたげにアンが見つめてくる。確かにその整った面立ちは部隊最年少の西兵長と運行部の女性隊員の人気を奪い合うことになるだろうと想像できるものだった。
「とりあえず手は離してくれるかな?」
自分の声が裏返っていることに気づくが、誠にはどうもできなかった。実働部隊の詰め所を覗くと、中でかなめが腹を抱えて笑っている。
「すいません!気がつかなくて……」
そう言うとようやくアンは手を離した。そしてそのまま何も言わずにアンは誠に続いて廊下をついてくる。振り向いたらだめだと心で念じながら隊長室の前に立った。
「失礼します」
誠はノックの後、返事も待たずに隊長室に入った。
中では難しい顔をして机に座っている嵯峨がいた。その手には棒状のものを持っている。いつものように銃器の調整でもしていると思って誠は咳払いをする。
「おう、神前か。ご苦労だったね」
それだけ言うと嵯峨は視線を隣の小柄な少年に向けた。アンは自分が見つめられていることに気づくとすばやく敬礼をした。
「自分は……」
「別にいいよ、形式の挨拶なんざ」
そう言うと嵯峨は今度は手元から細長い棒を取り出してじっと眺め始めた。
「隊長、用事があるんじゃないですか?」
「ああ、神前。そう言えばそうなんだけどさ」
ようやく用事を思い出したと言うように手にした棒を机に置くと立ち上がり、二人の前に立つ。
「実は人を迎えに行って貰いたいんだが……。ああ、アンはクバルカのところに行っていいよ。説明は全部あいつがするから」
「はい!」
緊張した敬礼をしてアンは部屋を出て行く。目の前の嵯峨の顔がにやけている。先ほどかなめが向けてきた視線と同じものを感じて誠は咳払いをした。
「誰を迎えに行くんですか?」
「別にそんなにつんけんするなよ。豊川の駅の南口の噴水の前で甲武海軍の少佐と大尉の制服を着た新入りが待ってるからそいつを拾って来いや」
「なんで名前とか言わないんですか?それに少佐と大尉って……第二小隊の」
「そうだよ、日野かえで少佐と渡辺リン大尉。まさかかなめ坊に拾って来いとは言えねえだろ?」
いかにもうれしそうに言う嵯峨に誠は思わずため息をついた。
嵯峨の姪にしてかなめの妹、日野かえで少佐。甲武海軍兵学校卒業後すぐに海軍大学に進んだエリートと言うことは一応聞いてはいた。だが、彼女の話が出ると十中八九かなめが暴れだし収拾がつかなくなる。
妹である彼女になぜかなめが拒絶反応を示すのかはあまり詮索しないほうがいい、カウラのその助言に従って誠はそれ以上の質問は誰にもしなかった。
「わかりましたけど……でも本当に僕で良いんですか?」
頭を掻きながら誠が再び執務室に腰掛けた嵯峨にたずねる。
「別に誰だって良いんだけどさ。かなめ坊以外なら」
そう言って再び嵯峨は机の上の棒を見つめる。誠は埒があかないと気づいてそのまま部屋を出る。そこにはなぜか彼が出てくるのを待っていたアンがいた。
「なんだ?クバルカ中佐が待ってるだろ?」
そう言う誠をアンは潤んだ瞳で見上げる。
「あの、僕……」
「あ、俺は急いでるんでこれで!」
そう言うと誠はそのまま早足で正面玄関に続く廊下を歩いた。そしてそのまま更衣室の角を曲がり、ひよこがポエムを書いている医務室の前の階段を下り、運行部の部屋の前の正面玄関を抜け出る。
そして誰もいない警備室の中の鍵もかかっていない公用車のキーを集めたボックスからライトバンのキーを取り出す。
「本当にこんなので大丈夫なのかな……盗まれたりしても知りませんかね」
誠は独り言を言うとダークグリーンのライトバンのドアを開ける。
「それじゃあ行くか」
誠は車を出す。そのまま閑散としたゲートをくぐって菱川の工場に車を走らせた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる