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第11章 奇妙な休日
にぎやかな面々
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「でも意外だよな、アメリアがこんな雰囲気のいい喫茶店に出入りしているなんてよ」
そう言いながらかなめは周りの調度品を眺める。甲武四大公家の筆頭、西園寺家の当主であるかなめから見てもこの店の調度品は趣味の良いものに感じられたらしかった。ただかなめはこれだけのこだわりのあるアンティークを並べた店は慣れているらしく、時々立ち上がってはそれぞれの品物の暖かく輝く表面を触っている。
「なによ、それならかなめちゃんも実は行きつけのバーがあるって……」
コーヒーを飲み干したアメリアがにやけながらつぶやく。
「おい、アメリア。それ以上しゃべるんじゃねえぞ!」
かなめはそう言うとアメリアを威圧するようににらみつけた。
「そんなお店があるなら誠ちゃんを連れて行ってあげればいいのに」
「馬鹿、コイツを連れて行かねえのは飲み方知らねえからだよ!なあ神前!」
アメリアに向けてそう言うかなめの言葉に誠はただうなづくしかなかった。誠は自分でも酒を飲めば意識が飛ぶと言う習性を思い出して苦笑いをする。
「日本酒がねーんだろ?じゃあアタシは勘弁だな」
「いやいや……たぶんそれ以前に姐御は見た目で入れてもらえねえから……」
苦笑いを浮かべるランに向かってそう言うとかなめはコーヒーを口にする。マスターがカウラ達に切り分けたケーキを運んでいく。
「そう言えば明日か?殿上会は」
かなめの言葉で全員が現実に引き戻された。遼州星系の最大の軍事力を誇る甲武国の最高意思決定機関である殿上会。庶民院と貴族院を通過した法案のうちの重要案件の許諾を行うその機関の動きは、誠達司法局実働部隊の隊員にとっては大きな意味を持つことだった。今回の殿上会の議題にも遼州同盟機構への協力の強化、特に西モスレムに用意される軍事組織への協力の是非がかけられることになっていた。
「しつこいようだけどあんたはいいの?一応、四大公家の当主じゃないの」
そう言ってアメリアは流し目を送る。妙に色気のある瞳にかなめはうろたえながら言葉を継いだ。
「何度も言わせるなよ馬鹿。あそこは四大公、平公爵、一代公爵、侯爵家までの出席だけが認められるからな。親父が太政大臣の位をほっぽり出して正式な家督相続を受けていないアタシはお呼びじゃないんだ。それに水干直垂とか十二単なんか着込むんだぜ。柄じゃねえよ」
そう言い切るかなめだが、アメリアはさらに相好を崩してかなめを見つめる。
「そう言えば今回は嵯峨隊長の隠居が議題になってるわね。かえでさんが嵯峨家の養子になって跡を継ぐことになるんだけど……」
かなめは『日野かえで』の名前が出たところでびくりと体を動かした。
「頼むわ。奴の名前を出すな」
そう言ってかなめはうつむく。マスターは不思議そうな顔をしているが、全員はかなめの気持ちがわからないわけではなかった。時々まったく空気を読まないかなめ宛の大荷物を司法局に送りつけてくるかなめに心奪われた妹の存在は実働部隊では知られたものだった。生まれついてのサディスト西園寺かなめに尽くすことに喜びを感じていると言うアメリアの発言でその人物像が極めて怪しい人物であると誠は思っていた。とりあえずかえでの名前を聞いてからこめかみをひくつかせているかなめに遠慮して全員が言葉を飲み込んだことは正解だった。
そんな中、一人この状況を知らない人物がいた。
「おい、西園寺。かえでは今月中には司法局に配属になるんだぞ」
ぼそりとランがつぶやいた。誠は周りを見回すと彼と同じく係わり合いになることを避けたいと言う表情のカウラの姿がそこにあった。
思わずかなめは立ち上がっていた。
「落ち着けよ、西園寺」
カウラの一言でそのままかなめは椅子に座った。誠はランの耳に口を寄せる。
『頼みますよ中佐。こんなところで西園寺さんが暴れたら大変でしょ?』
誠がそう言うとかなめの表情を見てすぐに合点が行ったというようにランは静かにコーヒーをすする。
「別に気にするなよ」
言葉とは裏腹にかなめの低い声に殺意がこもっている。誠は思わず乾いた笑いを浮かべた。
「まあいいじゃないですか!コーヒーおいしいなあ!アメリアさん本当にありがとうございます!」
うつろな誠の世辞が店内に響いた。空気を察してかなめのテーブルに同席しているカウラは意味も無くカチカチとテーブルを突いた。
「ああ、そう言えば皆さんの会計は……私は払わないわよ」
思い出したようにコーヒーを飲み終えたアメリアの言葉が福音にも聞こえた。
「なんだよ、ケチだなあ」
かなめの意識がアメリアの誘導したとおり別の話題にすりかえられた。
「まあ、しかたないんじゃないか?私達はただ尾行していただけだしな私も自分の分は払うつもりだ」
静かにカウラがうなづく。かなめは同調してくれることを願うようにランに目を向ける。
「なんならアタシが払ってやっても良かったのによー」
「じゃあ、ちっちゃい隊長!アタシの……」
「バーカ。全員のなら上官と言うことで払ってもやったが、西園寺だけの勘定をアタシが払う理由はねーだろ?それに人の気にしていることを平気で口にする馬鹿な部下を奢るほどアタシは心が広くねーんだ」
そんな言葉にうなだれながらかなめはポケットからカードを取り出す。
「じゃあお勘定お願いします」
そう言うアメリアはすでにジーンズからカードを取り出して席をたっていた。
「今度は僕に払わせてくださいよ」
誠の言葉にアメリアは首を振る。気になって振り向いた誠の前には鋭く突き刺さるかなめとカウラの視線があった。
「ちゃんとアタシ等が出るまで待ってろよな!」
そう言ってランはコーヒーのカップを傾ける。誠は彼女達を置いて一足先に店を出た。
そう言いながらかなめは周りの調度品を眺める。甲武四大公家の筆頭、西園寺家の当主であるかなめから見てもこの店の調度品は趣味の良いものに感じられたらしかった。ただかなめはこれだけのこだわりのあるアンティークを並べた店は慣れているらしく、時々立ち上がってはそれぞれの品物の暖かく輝く表面を触っている。
「なによ、それならかなめちゃんも実は行きつけのバーがあるって……」
コーヒーを飲み干したアメリアがにやけながらつぶやく。
「おい、アメリア。それ以上しゃべるんじゃねえぞ!」
かなめはそう言うとアメリアを威圧するようににらみつけた。
「そんなお店があるなら誠ちゃんを連れて行ってあげればいいのに」
「馬鹿、コイツを連れて行かねえのは飲み方知らねえからだよ!なあ神前!」
アメリアに向けてそう言うかなめの言葉に誠はただうなづくしかなかった。誠は自分でも酒を飲めば意識が飛ぶと言う習性を思い出して苦笑いをする。
「日本酒がねーんだろ?じゃあアタシは勘弁だな」
「いやいや……たぶんそれ以前に姐御は見た目で入れてもらえねえから……」
苦笑いを浮かべるランに向かってそう言うとかなめはコーヒーを口にする。マスターがカウラ達に切り分けたケーキを運んでいく。
「そう言えば明日か?殿上会は」
かなめの言葉で全員が現実に引き戻された。遼州星系の最大の軍事力を誇る甲武国の最高意思決定機関である殿上会。庶民院と貴族院を通過した法案のうちの重要案件の許諾を行うその機関の動きは、誠達司法局実働部隊の隊員にとっては大きな意味を持つことだった。今回の殿上会の議題にも遼州同盟機構への協力の強化、特に西モスレムに用意される軍事組織への協力の是非がかけられることになっていた。
「しつこいようだけどあんたはいいの?一応、四大公家の当主じゃないの」
そう言ってアメリアは流し目を送る。妙に色気のある瞳にかなめはうろたえながら言葉を継いだ。
「何度も言わせるなよ馬鹿。あそこは四大公、平公爵、一代公爵、侯爵家までの出席だけが認められるからな。親父が太政大臣の位をほっぽり出して正式な家督相続を受けていないアタシはお呼びじゃないんだ。それに水干直垂とか十二単なんか着込むんだぜ。柄じゃねえよ」
そう言い切るかなめだが、アメリアはさらに相好を崩してかなめを見つめる。
「そう言えば今回は嵯峨隊長の隠居が議題になってるわね。かえでさんが嵯峨家の養子になって跡を継ぐことになるんだけど……」
かなめは『日野かえで』の名前が出たところでびくりと体を動かした。
「頼むわ。奴の名前を出すな」
そう言ってかなめはうつむく。マスターは不思議そうな顔をしているが、全員はかなめの気持ちがわからないわけではなかった。時々まったく空気を読まないかなめ宛の大荷物を司法局に送りつけてくるかなめに心奪われた妹の存在は実働部隊では知られたものだった。生まれついてのサディスト西園寺かなめに尽くすことに喜びを感じていると言うアメリアの発言でその人物像が極めて怪しい人物であると誠は思っていた。とりあえずかえでの名前を聞いてからこめかみをひくつかせているかなめに遠慮して全員が言葉を飲み込んだことは正解だった。
そんな中、一人この状況を知らない人物がいた。
「おい、西園寺。かえでは今月中には司法局に配属になるんだぞ」
ぼそりとランがつぶやいた。誠は周りを見回すと彼と同じく係わり合いになることを避けたいと言う表情のカウラの姿がそこにあった。
思わずかなめは立ち上がっていた。
「落ち着けよ、西園寺」
カウラの一言でそのままかなめは椅子に座った。誠はランの耳に口を寄せる。
『頼みますよ中佐。こんなところで西園寺さんが暴れたら大変でしょ?』
誠がそう言うとかなめの表情を見てすぐに合点が行ったというようにランは静かにコーヒーをすする。
「別に気にするなよ」
言葉とは裏腹にかなめの低い声に殺意がこもっている。誠は思わず乾いた笑いを浮かべた。
「まあいいじゃないですか!コーヒーおいしいなあ!アメリアさん本当にありがとうございます!」
うつろな誠の世辞が店内に響いた。空気を察してかなめのテーブルに同席しているカウラは意味も無くカチカチとテーブルを突いた。
「ああ、そう言えば皆さんの会計は……私は払わないわよ」
思い出したようにコーヒーを飲み終えたアメリアの言葉が福音にも聞こえた。
「なんだよ、ケチだなあ」
かなめの意識がアメリアの誘導したとおり別の話題にすりかえられた。
「まあ、しかたないんじゃないか?私達はただ尾行していただけだしな私も自分の分は払うつもりだ」
静かにカウラがうなづく。かなめは同調してくれることを願うようにランに目を向ける。
「なんならアタシが払ってやっても良かったのによー」
「じゃあ、ちっちゃい隊長!アタシの……」
「バーカ。全員のなら上官と言うことで払ってもやったが、西園寺だけの勘定をアタシが払う理由はねーだろ?それに人の気にしていることを平気で口にする馬鹿な部下を奢るほどアタシは心が広くねーんだ」
そんな言葉にうなだれながらかなめはポケットからカードを取り出す。
「じゃあお勘定お願いします」
そう言うアメリアはすでにジーンズからカードを取り出して席をたっていた。
「今度は僕に払わせてくださいよ」
誠の言葉にアメリアは首を振る。気になって振り向いた誠の前には鋭く突き刺さるかなめとカウラの視線があった。
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