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第11章 奇妙な休日
ゲーセン
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マルヨを出たとたん、急にアメリアが誠を振り向いた。甘えるような先ほどまでとは違う趣味人としての表情がそこにあった。
「そう言えば……『アニクラ』は今日はなんか発売日があったような……やっぱりやめましょう」
アメリアが隣のアニメショップ『アニクラ』が入ったビルを凝視した後、そのままそのビルを通り過ぎて駅への一本道を誠を引っ張って歩く。だが明らかに未練があるようにちらちらとその看板を眺めるアメリアに誠は微笑を浮かべていた。道を行くOLは見てすぐわかるほどの美女のアメリアに好意的とは言いがたいような視線を送っている。誠にも仕事に疲れた新人サラリーマンと思しき人々からの痛々しい視線が突き刺さってくる。
「そっちじゃないわよ!誠ちゃん!」
そう言って駅に向かって直進しようとする誠を引っ張り大きなゲーセンのあるビルへとアメリアは誠を誘導する。パチンコ屋の前には路上に置かれた灰皿を囲んで談笑する原色のジャケットを着た若者がたむろしている。その敵意を含んだ視線を誠は全身に浴びた。
哀願するようにアメリアを見る誠だったが、そんな彼の心を知っていてあえて無視すると言うようにアメリアは胸を誠に押し付けてきた。
「ここね」
そう言うとアメリアはそのままゲームセンターの自動ドアの前へと誠を引きずってきた。
騒々しい機械音が響き渡るゲームセンターの中はほとんど人がいない状況だった。
考えてみれば当然の話だった。もうすぐ期末試験の声が聞こえる高校生達の姿も無く、暇つぶしの営業マンが立ち寄るには時間が遅い。見受けられるのはどう見ても誠達より年上の男達が二次元格闘ゲームを占拠して対戦を続けているようすだけだった。
「誠ちゃん、あれはなあに?」
そう言ってアメリアが指差すのは東和陸軍のシミュレータをスケールダウンした大型筐体の戦闘機アクションシミュレータだった。アメリアがそれが何かを知らないわけは無いと思いながら誠はアメリアを見つめた。明らかにいつものいたずらを考えているときの顔である。
「あれやるんですか?」
誠の顔が少し引きつる。大型筐体のゲームは高い。しかもかつて誠もこれを一度プレーしたが、いつも部隊で05式のシミュレータを使用している誠には明らかに違和感のある設定がなされていた。そして誠にとってこれが気に食わないのは、このゲームを以前やったとき、彼がCPU相手にほぼ瞬殺されたと言う事実が頭をよぎったからだった。
「お金なら大丈夫よ。こう見えても佐官だからお給料は誠ちゃんの倍はもらってるんだから!」
そう言ってアメリアは誠をシミュレータの前に連れて行く。そのまま何もせずに乗り込もうとするアメリアを引き止めて誠はゲームの説明が書かれたプレートを指して見せた。
「一応、この説明が書きを読んで……」
「必要ないわよ。一応私も予備のパイロットなのよ!それに実はやったことあるのよ、これ」
そう言ってアメリアは乗り込んだ。彼女は隣のマシンを誠に使えと指を指す。しかたなく誠も付き合うように乗り込んだ。すでにプリペイドカードでアメリアが入金を済ませたらしく設定画面が目の前にあった。
「最新式にバージョンアップしてるわね……って05式もあるじゃないの」
インターフォン越しにアメリアの声が響く。アメリアはそのまま05式を選択。誠もこれに習うことにする。誠ははじめて知ったが、このマシンは他の系列店のマシンと接続しているようで次々とエントリー者の情報が画面に流れていく。
「はあ、世の中には暇な人もいるのね」
そう言いながらアメリアはパルス動力システムのチェックを行う。誠はこの時点でアメリアがこのゲームを相当やりこんでいることがわかってきた。05式の実機を操縦した経験を持つ誠だが、ゲームの設定と実際の性能にかなりの差があることはすぐに分かった。それ以上に実機と違うコンソールや操作レバーにいまひとつしっくりとしないと感じていた。
「エントリーする?それとも一戦目は傍観?」
そう言うアメリアの言葉がかなり明るい。それが誠のパイロット魂に火をつけた。
「大丈夫です、行けますよ」
誠はそう言ったが、実際額には脂汗が、そして手にもねっとりとした汗がにじむ感覚がある。
エントリーが行われた。チーム分けはゲームセンターの場所を根拠にしているようで、32人のエントリー者は東と西に分けられた。誠とアメリアは東に振り分けられた。
「法術無しでどれだけできるか見せてよね」
アメリアの声が出動前の管制官の声をさえぎるようにして誠の耳に届いた。
『負けられない!』
へたれの自覚がある誠にも意地はある。撃墜スコアー6機に戦艦一隻撃沈。エースの末席にいる誠はスタートと同時に敵に突進して行った。
『誠ちゃん!それじゃあ駄目よ。まず様子を見てから……』
そんなアメリアの声が耳を掠める。敵はミサイルを発射していた。
27世紀も終わりに近づく中、実戦においてミサイルの有効性はすでに失われていた。アンチショックパルスと呼ばれる敵の攻撃に対し高周波の波動エネルギーを放射してミサイル等を破壊する技術は、現在の最新鋭のアサルト・モジュールには標準装備となっている防御システムである。
当然05式にも搭載されているそのシステムを利用して、一気に弾幕の突破を図る。
『へ?』
初弾は防いだものの次弾が命中する、そして次々と誠の機体に降り注ぐ敵のミサイルはあっさりと05式の装甲を破壊した。
『はい、ゲームオーバー』
アメリアの声が響いた。
「これ!違うじゃないですか!ミサイル防御システムが……」
『言い訳は無しよ。このゲームではアンチショックパルスシステムなんかも再現されてはいるけどゲームバランスの関係であまり使えないのよ』
そう言いながらレールガンを振り回し、アメリアは敵機を次々と撃墜していく。誠はそのままゲーム機のハッチを開けて外に出た。格闘ゲームに飽きたというようにギャラリーがアメリアの機体のモニターを映した大画面を見つめている。
圧倒的だった。
アメリアの機体の色がオリジナルと違うのを見て、誠はもう一度丁寧にゲーム機の説明を読んだ。そこには端末登録をすることである程度の撃墜スコアーの合計したポイントを使って機体の設定やカスタムが可能になると書いてある。
「やっぱりやりこんでるんだなあ」
敵の半分はすでにアメリア一人の活躍で撃墜されていた。空気を読んだのかアメリアはそのまま友軍機のフォローにまわるほどの余裕を持っている。
味方の集団を挟撃しようとする敵を警戒しつつ損傷を受けた味方を援護する。
「あのオリジナルカラーの機体の奴、凄いぜ」
「また落したよ、いったいこれで何機目だ?」
小声でギャラリーがささやきあう。誠はアメリアの活躍を複雑な表情で見つめていた。
最後の一機がアメリアのレールガンの狙撃で撃墜されると、モニターにアメリアの写真が大写しにされる。
「すっげー美人じゃん」
「女だったのかよ」
周りでざわめいて筐体から顔を出そうとするアメリアをギャラリーが驚嘆の目で見つめる。
「はい!これが見本ね」
そう言ってゲーム機から降りたアメリアが誠の頭を軽く叩く。誠は周りを見回した。10人くらいのギャラリーが二人を見つめている。明らかにアメリアが誠とこのゲームセンターに一緒に来たと分かると彼らは悔しそうな顔で散っていく。
「もう一回やる?」
そう言うアメリアの得意げな顔を見ると、誠は静かに首を横に振った。
「遠慮します。やりこんでいる人には勝てませんから」
「言うわね」
アメリアは苦笑いを浮かべると再び誠の腕を手に取った。
「そう言えば……『アニクラ』は今日はなんか発売日があったような……やっぱりやめましょう」
アメリアが隣のアニメショップ『アニクラ』が入ったビルを凝視した後、そのままそのビルを通り過ぎて駅への一本道を誠を引っ張って歩く。だが明らかに未練があるようにちらちらとその看板を眺めるアメリアに誠は微笑を浮かべていた。道を行くOLは見てすぐわかるほどの美女のアメリアに好意的とは言いがたいような視線を送っている。誠にも仕事に疲れた新人サラリーマンと思しき人々からの痛々しい視線が突き刺さってくる。
「そっちじゃないわよ!誠ちゃん!」
そう言って駅に向かって直進しようとする誠を引っ張り大きなゲーセンのあるビルへとアメリアは誠を誘導する。パチンコ屋の前には路上に置かれた灰皿を囲んで談笑する原色のジャケットを着た若者がたむろしている。その敵意を含んだ視線を誠は全身に浴びた。
哀願するようにアメリアを見る誠だったが、そんな彼の心を知っていてあえて無視すると言うようにアメリアは胸を誠に押し付けてきた。
「ここね」
そう言うとアメリアはそのままゲームセンターの自動ドアの前へと誠を引きずってきた。
騒々しい機械音が響き渡るゲームセンターの中はほとんど人がいない状況だった。
考えてみれば当然の話だった。もうすぐ期末試験の声が聞こえる高校生達の姿も無く、暇つぶしの営業マンが立ち寄るには時間が遅い。見受けられるのはどう見ても誠達より年上の男達が二次元格闘ゲームを占拠して対戦を続けているようすだけだった。
「誠ちゃん、あれはなあに?」
そう言ってアメリアが指差すのは東和陸軍のシミュレータをスケールダウンした大型筐体の戦闘機アクションシミュレータだった。アメリアがそれが何かを知らないわけは無いと思いながら誠はアメリアを見つめた。明らかにいつものいたずらを考えているときの顔である。
「あれやるんですか?」
誠の顔が少し引きつる。大型筐体のゲームは高い。しかもかつて誠もこれを一度プレーしたが、いつも部隊で05式のシミュレータを使用している誠には明らかに違和感のある設定がなされていた。そして誠にとってこれが気に食わないのは、このゲームを以前やったとき、彼がCPU相手にほぼ瞬殺されたと言う事実が頭をよぎったからだった。
「お金なら大丈夫よ。こう見えても佐官だからお給料は誠ちゃんの倍はもらってるんだから!」
そう言ってアメリアは誠をシミュレータの前に連れて行く。そのまま何もせずに乗り込もうとするアメリアを引き止めて誠はゲームの説明が書かれたプレートを指して見せた。
「一応、この説明が書きを読んで……」
「必要ないわよ。一応私も予備のパイロットなのよ!それに実はやったことあるのよ、これ」
そう言ってアメリアは乗り込んだ。彼女は隣のマシンを誠に使えと指を指す。しかたなく誠も付き合うように乗り込んだ。すでにプリペイドカードでアメリアが入金を済ませたらしく設定画面が目の前にあった。
「最新式にバージョンアップしてるわね……って05式もあるじゃないの」
インターフォン越しにアメリアの声が響く。アメリアはそのまま05式を選択。誠もこれに習うことにする。誠ははじめて知ったが、このマシンは他の系列店のマシンと接続しているようで次々とエントリー者の情報が画面に流れていく。
「はあ、世の中には暇な人もいるのね」
そう言いながらアメリアはパルス動力システムのチェックを行う。誠はこの時点でアメリアがこのゲームを相当やりこんでいることがわかってきた。05式の実機を操縦した経験を持つ誠だが、ゲームの設定と実際の性能にかなりの差があることはすぐに分かった。それ以上に実機と違うコンソールや操作レバーにいまひとつしっくりとしないと感じていた。
「エントリーする?それとも一戦目は傍観?」
そう言うアメリアの言葉がかなり明るい。それが誠のパイロット魂に火をつけた。
「大丈夫です、行けますよ」
誠はそう言ったが、実際額には脂汗が、そして手にもねっとりとした汗がにじむ感覚がある。
エントリーが行われた。チーム分けはゲームセンターの場所を根拠にしているようで、32人のエントリー者は東と西に分けられた。誠とアメリアは東に振り分けられた。
「法術無しでどれだけできるか見せてよね」
アメリアの声が出動前の管制官の声をさえぎるようにして誠の耳に届いた。
『負けられない!』
へたれの自覚がある誠にも意地はある。撃墜スコアー6機に戦艦一隻撃沈。エースの末席にいる誠はスタートと同時に敵に突進して行った。
『誠ちゃん!それじゃあ駄目よ。まず様子を見てから……』
そんなアメリアの声が耳を掠める。敵はミサイルを発射していた。
27世紀も終わりに近づく中、実戦においてミサイルの有効性はすでに失われていた。アンチショックパルスと呼ばれる敵の攻撃に対し高周波の波動エネルギーを放射してミサイル等を破壊する技術は、現在の最新鋭のアサルト・モジュールには標準装備となっている防御システムである。
当然05式にも搭載されているそのシステムを利用して、一気に弾幕の突破を図る。
『へ?』
初弾は防いだものの次弾が命中する、そして次々と誠の機体に降り注ぐ敵のミサイルはあっさりと05式の装甲を破壊した。
『はい、ゲームオーバー』
アメリアの声が響いた。
「これ!違うじゃないですか!ミサイル防御システムが……」
『言い訳は無しよ。このゲームではアンチショックパルスシステムなんかも再現されてはいるけどゲームバランスの関係であまり使えないのよ』
そう言いながらレールガンを振り回し、アメリアは敵機を次々と撃墜していく。誠はそのままゲーム機のハッチを開けて外に出た。格闘ゲームに飽きたというようにギャラリーがアメリアの機体のモニターを映した大画面を見つめている。
圧倒的だった。
アメリアの機体の色がオリジナルと違うのを見て、誠はもう一度丁寧にゲーム機の説明を読んだ。そこには端末登録をすることである程度の撃墜スコアーの合計したポイントを使って機体の設定やカスタムが可能になると書いてある。
「やっぱりやりこんでるんだなあ」
敵の半分はすでにアメリア一人の活躍で撃墜されていた。空気を読んだのかアメリアはそのまま友軍機のフォローにまわるほどの余裕を持っている。
味方の集団を挟撃しようとする敵を警戒しつつ損傷を受けた味方を援護する。
「あのオリジナルカラーの機体の奴、凄いぜ」
「また落したよ、いったいこれで何機目だ?」
小声でギャラリーがささやきあう。誠はアメリアの活躍を複雑な表情で見つめていた。
最後の一機がアメリアのレールガンの狙撃で撃墜されると、モニターにアメリアの写真が大写しにされる。
「すっげー美人じゃん」
「女だったのかよ」
周りでざわめいて筐体から顔を出そうとするアメリアをギャラリーが驚嘆の目で見つめる。
「はい!これが見本ね」
そう言ってゲーム機から降りたアメリアが誠の頭を軽く叩く。誠は周りを見回した。10人くらいのギャラリーが二人を見つめている。明らかにアメリアが誠とこのゲームセンターに一緒に来たと分かると彼らは悔しそうな顔で散っていく。
「もう一回やる?」
そう言うアメリアの得意げな顔を見ると、誠は静かに首を横に振った。
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「言うわね」
アメリアは苦笑いを浮かべると再び誠の腕を手に取った。
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