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第2章 実験
観測室にて
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壁にひびの目立つ廊下を歩きながら立ち止まって敬礼をしてくる部下達の前を通り過ぎる。高梨渉参事、クバルカ・ラン中佐の二人はそのまま管制室へ向かうエレベータに乗り込んだ。
沈黙が支配するエレベータを降りたラン達の前に広がる管制室の機器の壁が見える。その中でラフなつなぎ姿で小さなキーボードをいじっている女性下士官がいた。
「どうだ、ひよこ」
声をかけたランに、ひよこは何も言わずに振り返るとそのままキーボードで端末への入力を続けていた。
「とりあえず非破壊設定での指定範囲への砲撃を一回。それから干渉空間を設定しての同じく非破壊設定射撃。どちらも隊長が失敗した課題ですね」
モニターに目を向けたまま語るひよこの言葉に高梨は眉をひそめた。
「嵯峨さんが失敗ですか?」
高梨にとっては腹違いの兄、嵯峨惟基が失敗をするということが信じられないことだった。だが、その言葉を聞いて作業を中断したひよこの顔はきわめて冷静だった。
「隊長の法術能力は確かに最高の部類に入るんですが、制御能力には著しい欠点があるんです。まあ法術能力の封印をろくに解除の技術も無いアメリカ陸軍が興味本位でその封印を解いたものですから……どうしても制御にかかる負担が大きすぎるんですよ」
そう言ってまたひよこはモニターに向き直る。ランは周りを見回す。目の前には巨大なモニターが三つ。一つは背後から誠の乗る05式の姿を大写ししている。その隣のモニターには演習場全域に配置された法術反応の観測の為のセンサーの位置が映っている。どれもまだ緑色で法術反応を受けていないことが表示されていた。そしてその隣の一番左のモニターはコックピットの中で静かに腕組みをしている誠の姿が映されていた。
「しかし、この指定範囲。ホントにここすべてを効果範囲にするのか?やりすぎじゃねーの?」
手元に並ぶ小さなモニターで巨大な演習場のすべてを映し出しているのをランは見つめた。演習場の各地点に置かれた法術反応を測定する機器のマーカーが正面の画面に映されている。そこに映る地図がこの演習場の全域を表示しているのはすぐに理解できた。
「この範囲を活動中の意識を持った生物に法術ダメージでノックアウトする兵器か。確かにこれは脅威ですね」
この二ヶ月間。時にCQB訓練やシミュレータを使っての訓練と言う名目で機動部隊の訓練を続けてきたランから見ても、誠の干渉空間制御能力の上昇は著しいものだった。
閉所戦闘において自らの作り出した空間の侵食に気付いた時には、すでに誠とツーマンセルで動いているかなめやバックアップのカウラが訓練用の銃を敵の背中に向けている。誠の空間把握能力とそれを利用した連携は日々進歩を続けていた。
だが、閉所室内戦闘の訓練場の広さは広くて600メートル四方。今回の試射の範囲とは桁が違った。それだけの広域にわたって干渉空間を形成する。ランは目の前のむちゃくちゃな実験に半ば呆れていた。
「本当にこれだけの範囲を制圧可能な兵器なんて……」
「高梨参事。誠さんの実力からしたら計算上は可能なんです。そうでもなければこの演習場を午前中一杯借り切るなんて無駄なことはしません」
「そうなのか……」
苦笑いを浮かべる高梨にひよこは少し得意げに返す。
「まー実験だ……うまく行くに越したことはねーが……失敗しても……」
「失敗しませんよ、誠さんは」
ひよこは自信ありげにそう言うとようやくデータの設定が終わったと言うように伸びをした。
「じゃあ見てやっか、あの『出来損ない』の落ちこぼれがどこまで化け物に進化したか」
そう言うとランは空いている管制官用の椅子に腰を下ろした。高梨はただ二人の自信ありげな表情に気おされながら画面に目を向けた。
沈黙が支配するエレベータを降りたラン達の前に広がる管制室の機器の壁が見える。その中でラフなつなぎ姿で小さなキーボードをいじっている女性下士官がいた。
「どうだ、ひよこ」
声をかけたランに、ひよこは何も言わずに振り返るとそのままキーボードで端末への入力を続けていた。
「とりあえず非破壊設定での指定範囲への砲撃を一回。それから干渉空間を設定しての同じく非破壊設定射撃。どちらも隊長が失敗した課題ですね」
モニターに目を向けたまま語るひよこの言葉に高梨は眉をひそめた。
「嵯峨さんが失敗ですか?」
高梨にとっては腹違いの兄、嵯峨惟基が失敗をするということが信じられないことだった。だが、その言葉を聞いて作業を中断したひよこの顔はきわめて冷静だった。
「隊長の法術能力は確かに最高の部類に入るんですが、制御能力には著しい欠点があるんです。まあ法術能力の封印をろくに解除の技術も無いアメリカ陸軍が興味本位でその封印を解いたものですから……どうしても制御にかかる負担が大きすぎるんですよ」
そう言ってまたひよこはモニターに向き直る。ランは周りを見回す。目の前には巨大なモニターが三つ。一つは背後から誠の乗る05式の姿を大写ししている。その隣のモニターには演習場全域に配置された法術反応の観測の為のセンサーの位置が映っている。どれもまだ緑色で法術反応を受けていないことが表示されていた。そしてその隣の一番左のモニターはコックピットの中で静かに腕組みをしている誠の姿が映されていた。
「しかし、この指定範囲。ホントにここすべてを効果範囲にするのか?やりすぎじゃねーの?」
手元に並ぶ小さなモニターで巨大な演習場のすべてを映し出しているのをランは見つめた。演習場の各地点に置かれた法術反応を測定する機器のマーカーが正面の画面に映されている。そこに映る地図がこの演習場の全域を表示しているのはすぐに理解できた。
「この範囲を活動中の意識を持った生物に法術ダメージでノックアウトする兵器か。確かにこれは脅威ですね」
この二ヶ月間。時にCQB訓練やシミュレータを使っての訓練と言う名目で機動部隊の訓練を続けてきたランから見ても、誠の干渉空間制御能力の上昇は著しいものだった。
閉所戦闘において自らの作り出した空間の侵食に気付いた時には、すでに誠とツーマンセルで動いているかなめやバックアップのカウラが訓練用の銃を敵の背中に向けている。誠の空間把握能力とそれを利用した連携は日々進歩を続けていた。
だが、閉所室内戦闘の訓練場の広さは広くて600メートル四方。今回の試射の範囲とは桁が違った。それだけの広域にわたって干渉空間を形成する。ランは目の前のむちゃくちゃな実験に半ば呆れていた。
「本当にこれだけの範囲を制圧可能な兵器なんて……」
「高梨参事。誠さんの実力からしたら計算上は可能なんです。そうでもなければこの演習場を午前中一杯借り切るなんて無駄なことはしません」
「そうなのか……」
苦笑いを浮かべる高梨にひよこは少し得意げに返す。
「まー実験だ……うまく行くに越したことはねーが……失敗しても……」
「失敗しませんよ、誠さんは」
ひよこは自信ありげにそう言うとようやくデータの設定が終わったと言うように伸びをした。
「じゃあ見てやっか、あの『出来損ない』の落ちこぼれがどこまで化け物に進化したか」
そう言うとランは空いている管制官用の椅子に腰を下ろした。高梨はただ二人の自信ありげな表情に気おされながら画面に目を向けた。
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