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第2章 実験
睡眠
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「神前!神前!」
クバルカ・ラン中佐のかわいらしい声で誠は目を覚ました。東和陸軍裾野基地。寝ぼけた目をこすりながらランの車から降りると、誠はのんびりと伸びをした。辺りは秋のつるべ落としの太陽のせいですっかり暗くなっていた。
「さあ、行くぞ」
そんなランの言葉にもう一度意識をはっきりとさせて周りを見渡す。周りに茂る木々のシルエット。停まっている車の数も少ない。そのまま東和陸軍射爆場本部の建物に誠とランは吸い込まれていった。
建て付けの悪いガラス戸を開いて入った廊下には、夕方の訓練を終えて着替えを済ませたばかりというような東和陸軍の兵士達がたむろしていた。自動販売機の前で四、五人の兵士達の視線が二人を見つける。突然来訪したランと誠だが、東都陸軍と仕様が同じ司法局実働部隊の制服を見て、彼等はすぐに関心を失って雑談を再開した。
「とりあえず今夜中に豊川の基地からオメーの05式が搬送されてくる。実験は明日の朝一番に行う予定だ。神前は仮眠室で寝てろ。事務関係の細かい打ち合わせはアタシがやっから」
そう言うとランはそのまま雑談する陸軍の兵士達を横目に見ながら隣にあるエレベータに乗り込んだ。誠はそのまま周りを眺める。ここは何度か東和宇宙軍幹部候補生養成課程で来たことのあるこの建物だった。構造は分かっているのでそのままロビーを抜け狭い廊下に入った。
東和陸軍裾野基地は東和でも最大級の射爆場を抱えている。今回は誠の専用機持込での法術兵器の実験ということしか誠は知らされてはいなかった。司法局実働部隊隊長の嵯峨惟基特務大佐は元々憲兵上がりと言うこともあり、情報管理には非常に慎重を期すタイプの指揮官だと言われていた。これまでも何度か法術系のシステム調整の出張があったが、多くは実際に実験が始まるまで誠にはその内容が秘匿されることが普通になっていた。
誠はそのまま仮眠施設のある別館へと向かう渡り廊下にたどり着いていた。正直、金に厳しい東和軍らしくかなり老朽化した建物に足を踏み入れるのは気の進む話ではなかった。
そのまま湿気のある空気がよどんで感じる基地付属の簡易宿泊所に足を踏み入れる。別棟の女子の宿泊所はかなり設備も整っていると聞いているが、誠が今居る男性隊員用の宿泊所はいかにも手入れが行き届いていないのが良く分かる建物だった。
暗い廊下を歩いていって手前から三つ目の部屋が空いているのを見つけた。どうせ今の時間なら管理の担当職員も帰った後だろう。そう思ったので誠は管理部門への直通端末にデータを打ち込むこともせずにその部屋のドアを開いた。そして、そのまま安物のベッドに体を横たえた。
「実験か……どんな兵器なんだろう?」
誠は天井のシミを見ながらそうつぶやいた。
自分の特技である干渉空間を敵めがけて剣状に展開する『剣』のことを思い出した。
そして、初めてそれを展開した『近藤事件』でのその威力を想像すると誠は少し憂鬱になった。
「力が欲しかったわけじゃないんだ……力が欲しかったわけじゃ……」
いつの間にかそうつぶやいている自分を誠は少し嫌になっていた。遼州人の持つ力に関心を持っている勢力は多い。実際、瞬時に巡洋艦のブリッジを消し飛ばした威力には誠自身驚くことしかできなかった。
そして明日また新たな誠の力が目覚めるかもしれない。
「この力……壊すことばかりじゃなくて、少しは良いことに……生産的なことに使えればいいのに……」
少し憂鬱になった誠は腕で顔を覆い、寝返りを打ってそのまま眠りについた。
クバルカ・ラン中佐のかわいらしい声で誠は目を覚ました。東和陸軍裾野基地。寝ぼけた目をこすりながらランの車から降りると、誠はのんびりと伸びをした。辺りは秋のつるべ落としの太陽のせいですっかり暗くなっていた。
「さあ、行くぞ」
そんなランの言葉にもう一度意識をはっきりとさせて周りを見渡す。周りに茂る木々のシルエット。停まっている車の数も少ない。そのまま東和陸軍射爆場本部の建物に誠とランは吸い込まれていった。
建て付けの悪いガラス戸を開いて入った廊下には、夕方の訓練を終えて着替えを済ませたばかりというような東和陸軍の兵士達がたむろしていた。自動販売機の前で四、五人の兵士達の視線が二人を見つける。突然来訪したランと誠だが、東都陸軍と仕様が同じ司法局実働部隊の制服を見て、彼等はすぐに関心を失って雑談を再開した。
「とりあえず今夜中に豊川の基地からオメーの05式が搬送されてくる。実験は明日の朝一番に行う予定だ。神前は仮眠室で寝てろ。事務関係の細かい打ち合わせはアタシがやっから」
そう言うとランはそのまま雑談する陸軍の兵士達を横目に見ながら隣にあるエレベータに乗り込んだ。誠はそのまま周りを眺める。ここは何度か東和宇宙軍幹部候補生養成課程で来たことのあるこの建物だった。構造は分かっているのでそのままロビーを抜け狭い廊下に入った。
東和陸軍裾野基地は東和でも最大級の射爆場を抱えている。今回は誠の専用機持込での法術兵器の実験ということしか誠は知らされてはいなかった。司法局実働部隊隊長の嵯峨惟基特務大佐は元々憲兵上がりと言うこともあり、情報管理には非常に慎重を期すタイプの指揮官だと言われていた。これまでも何度か法術系のシステム調整の出張があったが、多くは実際に実験が始まるまで誠にはその内容が秘匿されることが普通になっていた。
誠はそのまま仮眠施設のある別館へと向かう渡り廊下にたどり着いていた。正直、金に厳しい東和軍らしくかなり老朽化した建物に足を踏み入れるのは気の進む話ではなかった。
そのまま湿気のある空気がよどんで感じる基地付属の簡易宿泊所に足を踏み入れる。別棟の女子の宿泊所はかなり設備も整っていると聞いているが、誠が今居る男性隊員用の宿泊所はいかにも手入れが行き届いていないのが良く分かる建物だった。
暗い廊下を歩いていって手前から三つ目の部屋が空いているのを見つけた。どうせ今の時間なら管理の担当職員も帰った後だろう。そう思ったので誠は管理部門への直通端末にデータを打ち込むこともせずにその部屋のドアを開いた。そして、そのまま安物のベッドに体を横たえた。
「実験か……どんな兵器なんだろう?」
誠は天井のシミを見ながらそうつぶやいた。
自分の特技である干渉空間を敵めがけて剣状に展開する『剣』のことを思い出した。
そして、初めてそれを展開した『近藤事件』でのその威力を想像すると誠は少し憂鬱になった。
「力が欲しかったわけじゃないんだ……力が欲しかったわけじゃ……」
いつの間にかそうつぶやいている自分を誠は少し嫌になっていた。遼州人の持つ力に関心を持っている勢力は多い。実際、瞬時に巡洋艦のブリッジを消し飛ばした威力には誠自身驚くことしかできなかった。
そして明日また新たな誠の力が目覚めるかもしれない。
「この力……壊すことばかりじゃなくて、少しは良いことに……生産的なことに使えればいいのに……」
少し憂鬱になった誠は腕で顔を覆い、寝返りを打ってそのまま眠りについた。
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