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第8章 海と特殊な部隊
革命家と追跡者
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しかし、松の梢が続く遊歩道に入ったところでかなめは不意に立ち止まると誠に小声でささやいた。
「神前、気づいてるか?」
誠はかなめのどすの利いた言葉に不安に襲われた。かなめの目が鋭く光っていた。タレ目で迫力はあまり無いが、彼女の性格を知っている誠を驚かすには十分だった。
「気づくって……つけられているんですか?」
先月の近藤事件の発端も、自分が誘拐されたところから始まっただけあって、誠は辺りの気配を探った。見る限りにはそれらしい人影は無い。しかし、以前、菱川重工の生協で感じた時と同じような緊張感が流れていた。
「素人じゃねえ、かなりのスキルだ。こっちが気づいたら不意に気配が消えやがった。どうする?」
かなめがサングラス越しに誠を見つめる。その口元が笑っているのは、いつものことだと諦めた。
「でも丸腰じゃないですか?」
「そうでもないぜ」
かなめが先ほど羽織ったジャケットをめくって見せる。かなめの愛銃、スプリングフィールドXDM40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけには行かないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。かなめも同感のようで静かにうなづいた。
「偶然かもしれないからな。もう少し引っ張ろう。あそこに見える岬まで行けば邪魔は入らないだろうからな」
そう言うとかなめは誠の手を取って早足で歩き始めた。午後を過ぎて風が出始めた海べりの道を進む。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらにばれることはすでに想定済みといった風に男はついてくる。かなめはすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、かなめは男に向き直った。
「見ねえ面だな。ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな」
かなめは銃口を男に向ける。今のかなめならすぐにでも発砲するかもしれないと思っていた誠だが、かなめの引き金にかけられた指に力が入ることは無かった。
「これは辛らつな意見ですね。確かに俺は東和共和国生まれですからね。兵役も無いこの国だ……軍事教練など受けたことが無いもので」
角刈り、やつれているように見える細面が見るものを不安にする。アロハシャツから出ている鍛えられた跡などない締まりのない両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元甲武国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺かなめ大尉。そして東和宇宙軍から遼州司法局に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応してかなめは銃口を向ける。
「知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、かなめは二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。かなめの表情に一瞬驚きのようなものが浮かぶのが誠にも見えた。
「さすがですね、正確な射撃だ。でも現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?まあ私も話すつもりはありませんが」
また一歩男は左足を踏み出す。銃が効かないとわかり、かなめはいつでも動けるように両足に力をこめる。だがそれをあざ笑うかのように男は言葉を続ける。
「神前君。君の力を我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて四百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人や同盟の売国奴の側にいると言うことは……」
「うるせえ!化け物!」
かなめは今度は頭と右足、そして左肩に向けてそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び弾丸は銀色の壁に吸い込まれて消える。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前君」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。
誠は精神を集中した。
「どうする気だ!神前!」
かなめの叫ぶ先に銀色の空間が現れる。
「そのくらいのことは出来て当然と言うことですか。確かに私の力ではそれを突破することは難しいでしょう。ただ……」
男はそう言うと自らが生成した銀色の空間に飛び込んだ。銀色の空間もまた消える。
「どこ行った!」
銃を手にかなめは全方位を警戒する。
「ここですよ」
「何!」
かなめの足元の岩が銀色に光りだす。思わずかなめは飛びのいてそこに銃を向ける。誠は一度、銀色の干渉空間を解いた。相手はどこからでも空間を拡げる事が出来る。誠と同じ法術師であるクバルカ・ラン中佐に聞いた限りでは、その空間に他者が侵入すればかなめが撃った弾丸同様蒸発することになると言う。
完全に手詰まりだった。
「逃げましょう!西園寺さん」
銃を手にかなめは周りを警戒する。戦場と似た緊張した空気がそうさせるのか、かなめの顔には引きつったような笑顔があった。
「馬鹿言うな!逃げられる相手なら最初から逃げてる!」
「騒動にならぬように人気の無いところで仕掛けたのが運の尽きですね」
男の声がまるでテレパシーのように二人の頭の中で響く。
「銃声で誰かが来れば……」
かなめは自分の後ろに銀色の空間が生成されようとしたことに気づいて発砲する、スライドがロックされ弾切れを示す。
「弾が無いのですか」
また再び地上に銀色の空間が現れ、その中から赤いアロハシャツの男が現れる。
「これでわかったでしょう」
男の顔に勝利を確信した笑みが浮かんだ。
「この糞野郎!きっちり勝負しろ!」
「甲武四大公爵家筆頭の大公殿下がそんな口をきいてはいけませんねえ」
男は今度は確実に一歩一歩、二人に近づいてきた。
「あなたは何者ですか」
ようやく誠が搾り出せた言葉は、自分でも遅きに失している言葉だった。
「なるほど、こういう時はこちらから名乗るのが筋ですね。もっとも私個人の名前などあなた達の関心ではないでしょうが。私は遼州人の権利と自由を守るために活動している団体の構成員の一人です。屈辱の四百年の歴史にピリオドを打つべく立ち上がりました……カッコつけて言えば『革命家』ですかね」
「アタシ等も遼州人なんだけどねえ……まあ革命家さんには縁がねえが」
もはや言葉で時間を稼ぐしかない、そう判断したかなめが皮肉めいた笑みを浮かべながらアロハシャツの男に声をかけた。
「確かにあなたの母上、西園寺康子様は本来、遼朝王弟家の出。かなめ様、あなたにも我々と志を同じくする資格があると言うことですが……いかがいたしましょうか?」
男はまた一歩踏み込んできた。
「くだらねえなあ!アタシは貴族とかつまんねえ肩書きが嫌で陸軍に入ったんだ」
「ほう、それもまたよし。私達は王党派とも組しません。ただ遼州人全体の幸福を……」
「それで何が起きるんですか?」
誠は男の言葉をさえぎった。ゆっくりとうろたえることも無く、誠は男に近づいていった。
「今の遼州には多くの人が生きています。地球人、遼州人、そして先の大戦で作られた人工人間。でもあなたは遼州人のための世界を作ると言いましたね」
思いもかけずに誠が自分に近づいてくる。驚いたような表情を浮かべていた男もそれが誠の本心だとわかってゆっくりとわかりやすいようにと心がけるように話を続けた。
「仕方ないでしょう。我々は力を持っている。そして他の人々は持っていない。力のあるものが生き延びるのは宇宙の摂理で……」
再び遼州人の力を誇示するような言葉を口にした男に顔を上げて強くにらみつけた。男は誠の表情の変化に少しばかり動揺したように見えたがすぐさまポーカーフェイスに戻った。
「神前、気づいてるか?」
誠はかなめのどすの利いた言葉に不安に襲われた。かなめの目が鋭く光っていた。タレ目で迫力はあまり無いが、彼女の性格を知っている誠を驚かすには十分だった。
「気づくって……つけられているんですか?」
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「素人じゃねえ、かなりのスキルだ。こっちが気づいたら不意に気配が消えやがった。どうする?」
かなめがサングラス越しに誠を見つめる。その口元が笑っているのは、いつものことだと諦めた。
「でも丸腰じゃないですか?」
「そうでもないぜ」
かなめが先ほど羽織ったジャケットをめくって見せる。かなめの愛銃、スプリングフィールドXDM40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけには行かないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。かなめも同感のようで静かにうなづいた。
「偶然かもしれないからな。もう少し引っ張ろう。あそこに見える岬まで行けば邪魔は入らないだろうからな」
そう言うとかなめは誠の手を取って早足で歩き始めた。午後を過ぎて風が出始めた海べりの道を進む。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらにばれることはすでに想定済みといった風に男はついてくる。かなめはすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、かなめは男に向き直った。
「見ねえ面だな。ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな」
かなめは銃口を男に向ける。今のかなめならすぐにでも発砲するかもしれないと思っていた誠だが、かなめの引き金にかけられた指に力が入ることは無かった。
「これは辛らつな意見ですね。確かに俺は東和共和国生まれですからね。兵役も無いこの国だ……軍事教練など受けたことが無いもので」
角刈り、やつれているように見える細面が見るものを不安にする。アロハシャツから出ている鍛えられた跡などない締まりのない両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元甲武国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺かなめ大尉。そして東和宇宙軍から遼州司法局に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応してかなめは銃口を向ける。
「知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、かなめは二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。かなめの表情に一瞬驚きのようなものが浮かぶのが誠にも見えた。
「さすがですね、正確な射撃だ。でも現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?まあ私も話すつもりはありませんが」
また一歩男は左足を踏み出す。銃が効かないとわかり、かなめはいつでも動けるように両足に力をこめる。だがそれをあざ笑うかのように男は言葉を続ける。
「神前君。君の力を我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて四百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人や同盟の売国奴の側にいると言うことは……」
「うるせえ!化け物!」
かなめは今度は頭と右足、そして左肩に向けてそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び弾丸は銀色の壁に吸い込まれて消える。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前君」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。
誠は精神を集中した。
「どうする気だ!神前!」
かなめの叫ぶ先に銀色の空間が現れる。
「そのくらいのことは出来て当然と言うことですか。確かに私の力ではそれを突破することは難しいでしょう。ただ……」
男はそう言うと自らが生成した銀色の空間に飛び込んだ。銀色の空間もまた消える。
「どこ行った!」
銃を手にかなめは全方位を警戒する。
「ここですよ」
「何!」
かなめの足元の岩が銀色に光りだす。思わずかなめは飛びのいてそこに銃を向ける。誠は一度、銀色の干渉空間を解いた。相手はどこからでも空間を拡げる事が出来る。誠と同じ法術師であるクバルカ・ラン中佐に聞いた限りでは、その空間に他者が侵入すればかなめが撃った弾丸同様蒸発することになると言う。
完全に手詰まりだった。
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銃を手にかなめは周りを警戒する。戦場と似た緊張した空気がそうさせるのか、かなめの顔には引きつったような笑顔があった。
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「騒動にならぬように人気の無いところで仕掛けたのが運の尽きですね」
男の声がまるでテレパシーのように二人の頭の中で響く。
「銃声で誰かが来れば……」
かなめは自分の後ろに銀色の空間が生成されようとしたことに気づいて発砲する、スライドがロックされ弾切れを示す。
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男はまた一歩踏み込んできた。
「くだらねえなあ!アタシは貴族とかつまんねえ肩書きが嫌で陸軍に入ったんだ」
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「それで何が起きるんですか?」
誠は男の言葉をさえぎった。ゆっくりとうろたえることも無く、誠は男に近づいていった。
「今の遼州には多くの人が生きています。地球人、遼州人、そして先の大戦で作られた人工人間。でもあなたは遼州人のための世界を作ると言いましたね」
思いもかけずに誠が自分に近づいてくる。驚いたような表情を浮かべていた男もそれが誠の本心だとわかってゆっくりとわかりやすいようにと心がけるように話を続けた。
「仕方ないでしょう。我々は力を持っている。そして他の人々は持っていない。力のあるものが生き延びるのは宇宙の摂理で……」
再び遼州人の力を誇示するような言葉を口にした男に顔を上げて強くにらみつけた。男は誠の表情の変化に少しばかり動揺したように見えたがすぐさまポーカーフェイスに戻った。
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