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第8章 海と特殊な部隊
ホッとする瞬間
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「ラブラブ!!」
背後で聞きなれた甲高い声がして、二人は飛び上がって後ろを見た。手に袋を持った小夏が突っ立っている。
「外道!神前の兄貴に色仕掛けを仕掛ける気か!」
小夏が走り出そうとしたが、彼女の頭を押さえつけた春子の手がそれを邪魔した。
「余計なことするんじゃないよ!野暮天が!」
いつもの女将さんといった風情から気風の良い女の顔に変わっているように見える。小夏は母の一にらみで静かに座り込んでいた。だがそれも一瞬のことで次の瞬間にはいつもの世話焼きの女将の姿に戻っていた。
二人の後ろでひよこがポエムノートを手に様子をうかがっているのが見えた。
「私達は戻るけど、かなめさん達は……」
いつもの優しい春子の声。かなめはいつものかなめに戻って右肩をぐるぐると回して気分を変える。
「戻るぞ、神前」
そう言って立ち上がったかなめはずんずん一人で先に浜辺に向かう。小夏はかなめにまとわりついては拳骨を食らいながら笑っている。
「邪魔しちゃったかしら」
そう言いながら春子は誠を見上げる。一児の母とは思えないプロポーションに誠は思わず頬を朱に染めている自分に気づいた。
「いえ……そんなに簡単にわかることが出来る人じゃないですから」
そう言うと誠も春子を置いて砂浜に向かう。
「実働部隊の人はみんな……本当に不器用で」
そう言いながら小夏が置いていったバケツを拾うと春子も誠の後に続いた。
「帰ってきたんだ。ちょうどよかったわ」
戻ってきた誠達に向けてアメリアが微笑んでいた。
「ほら、神前の分だ」
カウラはスイカ割りの結果生まれたかけらを二人に渡す。不恰好なスイカのかけらを受け取って誠は苦笑いを浮かべた。
「クラウゼの姐御!アタシのは!」
「オメエのはこっち」
島田が割れたスイカを解体している。小夏はすぐに大きな塊に手を伸ばす。その手を叩き落として菰田が自分のスイカを確保する。
「アタシはアメリアの割れた脳みそが……」
先ほどまで埋められていたと言うのにアメリアはやたらと元気にスイカの分配の指揮をしていた。それを見上げてかなめがポツリとつぶやく。
「かなめちゃん。私を食べようって言うの?やっぱり百合の気が……」
そう言って顔を近づけてくるアメリアの額をかなめは指ではじく。
「うるせえ」
そう言うとかなめはアメリアからスイカのかけらを奪い取って口に放り込む。それでも懲りないと言うようにアメリアは顔をかなめに近づける。
「ねえ、どうなのよ。私があまりに美しいから惚れてしまうのも仕方ないことかもしれないけど……」
「うぜえ!離れろ!馬鹿野郎!」
アメリアの額を叩くかなめだが、本気ではないのでアメリアは懲りずに続ける。
「嫌よ嫌よも好きのうち……」
「だから言ってんだろ!アタシはテメエが大嫌いだって!」
かなめはひたすら顔を寄せてくるアメリアを押しのけようとする。そんな二人を無視して整備班の男子隊員達はスイカの破片が散らばるビニールシートの整理にかかった。
「ちゃんと砂は落とせよ!西!ちゃんと引っ張れ!」
島田が西に指示を出す。
「なんかホッとしませんか?」
スイカの種をとりながら誠が声をかける。食べ終えたスイカの皮をアメリアの顔面に押し付けて黙らせて、ようやく一心地ついたかなめに誠が声をかける。
「そうか?……そうかもしれないな」
再びアメリアがキープしていた不恰好に割れたスイカにかぶりつきながら、かなめはそうつぶやいた。誠はかなめを見る。見返すかなめの頬に笑みが浮かんでいた。
「何かあったのか?」
カウラが不思議そうに二人を見つめる。
「何でもねえ!何でもねえよ!」
そう言うとかなめは再び大きくスイカの塊に食いついた。かなめにスイカの皮を押し付けられてべとべとになった顔をアメリアはタオルで拭った。
「ああ、飽きた。神前!行くぞ」
かなめの言葉にうなづくと誠は何もわからないまま言われるままに立ち上がって彼女の手からビーチサンダルを受け取った。今度は先ほど向かった岩場とは反対側に歩く。観光客は東都に帰る時間なのだろう、一部がすでに片付けの準備をしていた。
「もう風が変わってきましたね」
松の並木が現れ、その間を海に飽きたというようなカップルと何度もすれ違った。
「そうだな」
会話をするのが少しもったいないように感じた。なぜか先ほどの時と違って黙って並んで歩いているだけで心地よい。そんな感じを味わうように誠はかなめと海辺の公園と言った風情の道を歩いた。
背後で聞きなれた甲高い声がして、二人は飛び上がって後ろを見た。手に袋を持った小夏が突っ立っている。
「外道!神前の兄貴に色仕掛けを仕掛ける気か!」
小夏が走り出そうとしたが、彼女の頭を押さえつけた春子の手がそれを邪魔した。
「余計なことするんじゃないよ!野暮天が!」
いつもの女将さんといった風情から気風の良い女の顔に変わっているように見える。小夏は母の一にらみで静かに座り込んでいた。だがそれも一瞬のことで次の瞬間にはいつもの世話焼きの女将の姿に戻っていた。
二人の後ろでひよこがポエムノートを手に様子をうかがっているのが見えた。
「私達は戻るけど、かなめさん達は……」
いつもの優しい春子の声。かなめはいつものかなめに戻って右肩をぐるぐると回して気分を変える。
「戻るぞ、神前」
そう言って立ち上がったかなめはずんずん一人で先に浜辺に向かう。小夏はかなめにまとわりついては拳骨を食らいながら笑っている。
「邪魔しちゃったかしら」
そう言いながら春子は誠を見上げる。一児の母とは思えないプロポーションに誠は思わず頬を朱に染めている自分に気づいた。
「いえ……そんなに簡単にわかることが出来る人じゃないですから」
そう言うと誠も春子を置いて砂浜に向かう。
「実働部隊の人はみんな……本当に不器用で」
そう言いながら小夏が置いていったバケツを拾うと春子も誠の後に続いた。
「帰ってきたんだ。ちょうどよかったわ」
戻ってきた誠達に向けてアメリアが微笑んでいた。
「ほら、神前の分だ」
カウラはスイカ割りの結果生まれたかけらを二人に渡す。不恰好なスイカのかけらを受け取って誠は苦笑いを浮かべた。
「クラウゼの姐御!アタシのは!」
「オメエのはこっち」
島田が割れたスイカを解体している。小夏はすぐに大きな塊に手を伸ばす。その手を叩き落として菰田が自分のスイカを確保する。
「アタシはアメリアの割れた脳みそが……」
先ほどまで埋められていたと言うのにアメリアはやたらと元気にスイカの分配の指揮をしていた。それを見上げてかなめがポツリとつぶやく。
「かなめちゃん。私を食べようって言うの?やっぱり百合の気が……」
そう言って顔を近づけてくるアメリアの額をかなめは指ではじく。
「うるせえ」
そう言うとかなめはアメリアからスイカのかけらを奪い取って口に放り込む。それでも懲りないと言うようにアメリアは顔をかなめに近づける。
「ねえ、どうなのよ。私があまりに美しいから惚れてしまうのも仕方ないことかもしれないけど……」
「うぜえ!離れろ!馬鹿野郎!」
アメリアの額を叩くかなめだが、本気ではないのでアメリアは懲りずに続ける。
「嫌よ嫌よも好きのうち……」
「だから言ってんだろ!アタシはテメエが大嫌いだって!」
かなめはひたすら顔を寄せてくるアメリアを押しのけようとする。そんな二人を無視して整備班の男子隊員達はスイカの破片が散らばるビニールシートの整理にかかった。
「ちゃんと砂は落とせよ!西!ちゃんと引っ張れ!」
島田が西に指示を出す。
「なんかホッとしませんか?」
スイカの種をとりながら誠が声をかける。食べ終えたスイカの皮をアメリアの顔面に押し付けて黙らせて、ようやく一心地ついたかなめに誠が声をかける。
「そうか?……そうかもしれないな」
再びアメリアがキープしていた不恰好に割れたスイカにかぶりつきながら、かなめはそうつぶやいた。誠はかなめを見る。見返すかなめの頬に笑みが浮かんでいた。
「何かあったのか?」
カウラが不思議そうに二人を見つめる。
「何でもねえ!何でもねえよ!」
そう言うとかなめは再び大きくスイカの塊に食いついた。かなめにスイカの皮を押し付けられてべとべとになった顔をアメリアはタオルで拭った。
「ああ、飽きた。神前!行くぞ」
かなめの言葉にうなづくと誠は何もわからないまま言われるままに立ち上がって彼女の手からビーチサンダルを受け取った。今度は先ほど向かった岩場とは反対側に歩く。観光客は東都に帰る時間なのだろう、一部がすでに片付けの準備をしていた。
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「そうだな」
会話をするのが少しもったいないように感じた。なぜか先ほどの時と違って黙って並んで歩いているだけで心地よい。そんな感じを味わうように誠はかなめと海辺の公園と言った風情の道を歩いた。
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