1,150 / 1,505
第7章 海の出来事
お姫様と絵
しおりを挟む
部屋に戻った誠は荷物を片付ける仕事があった。島田は入り口のそばで屈伸をしている。
「早くしろよー!」
サングラスをかけた島田が上目遣いに誠をにらむ。誠はそそくさと隣の和室に入ると、かけてあった儀礼服をバックに突っ込んだ。
「それだけか?荷物」
「ええ、とりあえず一泊ですから」
そう言うとジッパーを閉めてバッグを小脇に抱えた。大型のリュックを背負って島田が立ち上がる。
「おい!行くぞ」
ドアをたたいて島田が呼んでいるのが聞こえた。
「暑いなあ、さすがに。ビールでも飲みたい気分だな」
「島田先輩、帰りも運転でしょ?警察が飲酒運転したらまずいでしょ」
「まったく……うちの隊員で大型一種は誰でも持ってるくせに二種は……まあ、オメエに愚痴っても仕方ねえか」
島田はそう言うと苦笑いを浮かべた。
「それにしてもいい天気だな」
誠は島田の言葉に釣られて大きな窓に目を向けた。水平線ははっきりと見える。空の青はその上に広がり、太陽がそのすべてに等しく日差しを振りまいている。
「よしっと」
窓の前で島田が再び屈伸をした。彼が履いているのはビーチサンダルでいかにも浜辺に向かうのに適した格好に見えた。
「もしかしてプライベートビーチとかですか?」
ホテルの裏の、時期にしては閑散としているように見える浜辺を見た誠がつぶやく。
「いやあ……そこまでは……。それにどうせアメリアのおばさんが『プライベートビーチなど邪道だ!』とか意味不明なこと言い出すから。一般海水浴場に行くんだと」
「誰がおばさんよ!誰が!」
いきなりドアが開いて胸だけを隠しているように見える大胆な格好をしたアメリアが怒鳴り込んできた。彼女はそのまま島田の耳をつまみ上げる。
「痛い!痛いですよ!鍵がかかってるでしょ?どうやって入ったんですか?」
島田がそう言う後ろから、一枚のカードを持ったかなめが入ってくる。
「一応、このホテルの名義はアタシだからな。当然マスターキーも持ってるわけだ」
「聞いてないっすよ!」
島田の驚く顔を見てかなめは満足げに頷く。涙目になりかけた島田を離したアメリアが誠の手をつかんで引っ張った。誠はとりあえずかなめの機嫌がよくなっていることに気づいてほっと胸を撫で下ろす。
「さあ誠ちゃん!行きましょうね!」
紺色の長い髪をなびかせながら誠を引っ張ってアメリアは廊下に出る。廊下には遠慮がちにアメリアの荷物を持たされている淡い緑色のキャミソールを着たカウラがやれやれと言ったように二人を眺めていた。
「んじゃー行くぞ!」
かなめが手を振ると皆はエレベータルームに向かった。
「西園寺さん。この絵、本物ですか?」
明らかにこの集団が通るにはふさわしくない瀟洒な廊下が続いている。そこにかけてあるのは一枚の絵画だった。
印象派、ということしか誠には分からない絵を指してかなめに尋ねた。かなめはまったく絵を見ることはしない。
「ああ、モネの睡蓮な。模写に決まってるだろ」
「そうですよね」
「本物は甲武の美術館にある」
かなめは当たり前のようにそう言った。
「へー。遼州星系にあるんですね……なんていう名前の美術館なんですか?そこ」
「西園寺記念美術館」
それだけ言ってかなめは立ち去る。あまりにも自然で当然のように振舞うかなめにただ呆然とする誠だった。
「本物持ってるの?かなめちゃん」
思わずアメリアが突っ込む。かなめはめんどくさそうに額に乗っけていたサングラスを鼻にかける。
「まあ、あの美術館の所有品は全部アタシ名義だからな……持ってるって言えば持ってるわけか……親父が9歳誕生日にプレゼントだってくれた」
相変わらずかなめはそっけなかった。
「誕生日プレゼントに……モネ……」
誠は『モネ』と言う画家が何者かは分からなかったが、それなりに価値のあるものらしいということだけは分かった。
「アタシは印象派は趣味じゃねえけどな……」
開いたエレベータの扉に入る。感心したようにかなめを見つめるアメリアと島田。カウラは意味がわからないと言うように首をひねりながら誠を見つめている。
「さすがにお嬢様ねえ。昨日の格好も伊達じゃないってことね」
アメリアが独り言のようにつぶやくと、かなめは彼女をにらみつけた。
「怖い顔しないでよ。他意はないんだから」
アメリアはサイボーグのかなめを怒らせても得は無いことは知っているのでなんとか笑ってごまかそうとする。
島田は両手で計算をしている。誠にはつぶやいている内容からして、実物のモネの睡蓮の値段でも推理しているように見えた。
扉が開き、エレベータルームを抜けたところで、先頭を歩いていたかなめの足が止まった。
「早くしろよー!」
サングラスをかけた島田が上目遣いに誠をにらむ。誠はそそくさと隣の和室に入ると、かけてあった儀礼服をバックに突っ込んだ。
「それだけか?荷物」
「ええ、とりあえず一泊ですから」
そう言うとジッパーを閉めてバッグを小脇に抱えた。大型のリュックを背負って島田が立ち上がる。
「おい!行くぞ」
ドアをたたいて島田が呼んでいるのが聞こえた。
「暑いなあ、さすがに。ビールでも飲みたい気分だな」
「島田先輩、帰りも運転でしょ?警察が飲酒運転したらまずいでしょ」
「まったく……うちの隊員で大型一種は誰でも持ってるくせに二種は……まあ、オメエに愚痴っても仕方ねえか」
島田はそう言うと苦笑いを浮かべた。
「それにしてもいい天気だな」
誠は島田の言葉に釣られて大きな窓に目を向けた。水平線ははっきりと見える。空の青はその上に広がり、太陽がそのすべてに等しく日差しを振りまいている。
「よしっと」
窓の前で島田が再び屈伸をした。彼が履いているのはビーチサンダルでいかにも浜辺に向かうのに適した格好に見えた。
「もしかしてプライベートビーチとかですか?」
ホテルの裏の、時期にしては閑散としているように見える浜辺を見た誠がつぶやく。
「いやあ……そこまでは……。それにどうせアメリアのおばさんが『プライベートビーチなど邪道だ!』とか意味不明なこと言い出すから。一般海水浴場に行くんだと」
「誰がおばさんよ!誰が!」
いきなりドアが開いて胸だけを隠しているように見える大胆な格好をしたアメリアが怒鳴り込んできた。彼女はそのまま島田の耳をつまみ上げる。
「痛い!痛いですよ!鍵がかかってるでしょ?どうやって入ったんですか?」
島田がそう言う後ろから、一枚のカードを持ったかなめが入ってくる。
「一応、このホテルの名義はアタシだからな。当然マスターキーも持ってるわけだ」
「聞いてないっすよ!」
島田の驚く顔を見てかなめは満足げに頷く。涙目になりかけた島田を離したアメリアが誠の手をつかんで引っ張った。誠はとりあえずかなめの機嫌がよくなっていることに気づいてほっと胸を撫で下ろす。
「さあ誠ちゃん!行きましょうね!」
紺色の長い髪をなびかせながら誠を引っ張ってアメリアは廊下に出る。廊下には遠慮がちにアメリアの荷物を持たされている淡い緑色のキャミソールを着たカウラがやれやれと言ったように二人を眺めていた。
「んじゃー行くぞ!」
かなめが手を振ると皆はエレベータルームに向かった。
「西園寺さん。この絵、本物ですか?」
明らかにこの集団が通るにはふさわしくない瀟洒な廊下が続いている。そこにかけてあるのは一枚の絵画だった。
印象派、ということしか誠には分からない絵を指してかなめに尋ねた。かなめはまったく絵を見ることはしない。
「ああ、モネの睡蓮な。模写に決まってるだろ」
「そうですよね」
「本物は甲武の美術館にある」
かなめは当たり前のようにそう言った。
「へー。遼州星系にあるんですね……なんていう名前の美術館なんですか?そこ」
「西園寺記念美術館」
それだけ言ってかなめは立ち去る。あまりにも自然で当然のように振舞うかなめにただ呆然とする誠だった。
「本物持ってるの?かなめちゃん」
思わずアメリアが突っ込む。かなめはめんどくさそうに額に乗っけていたサングラスを鼻にかける。
「まあ、あの美術館の所有品は全部アタシ名義だからな……持ってるって言えば持ってるわけか……親父が9歳誕生日にプレゼントだってくれた」
相変わらずかなめはそっけなかった。
「誕生日プレゼントに……モネ……」
誠は『モネ』と言う画家が何者かは分からなかったが、それなりに価値のあるものらしいということだけは分かった。
「アタシは印象派は趣味じゃねえけどな……」
開いたエレベータの扉に入る。感心したようにかなめを見つめるアメリアと島田。カウラは意味がわからないと言うように首をひねりながら誠を見つめている。
「さすがにお嬢様ねえ。昨日の格好も伊達じゃないってことね」
アメリアが独り言のようにつぶやくと、かなめは彼女をにらみつけた。
「怖い顔しないでよ。他意はないんだから」
アメリアはサイボーグのかなめを怒らせても得は無いことは知っているのでなんとか笑ってごまかそうとする。
島田は両手で計算をしている。誠にはつぶやいている内容からして、実物のモネの睡蓮の値段でも推理しているように見えた。
扉が開き、エレベータルームを抜けたところで、先頭を歩いていたかなめの足が止まった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる