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特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』 第1章 事の起こりは
既定の事実
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「すいませーん!皆さん!みんなで海に行く事になったんで!」
澄んだ、どこまでも澄んだ女性の声ががらんとしただだっ広い部屋に響いた。
ここは『特殊な部隊』の別名で知られる遼州同盟司法局実働部隊の本部の一室、機動部隊詰め所と呼ばれる部屋だった。
機動ロボット兵器『アサルト・モジュール』パイロットの詰め所は、節電の為に薄暗い照明があるばかりである。四つの机が置かれているものの、それ以外のスペースがあまりに大きすぎた。
その一番小さな机に張り付いて隊の草野球チームの投球練習中にボールをぶつけた警邏用車両の修理費の請求書を書いていた神前誠曹長はその澄んだ声に引っ張られるようにして思わず顔を上げた。
声を発したのは紺色の長い髪と、ワイシャツに銀のラインが入った東和警察の夏服の女性だった。司法局実働部隊一と自他とも認める女芸人、運用艦『ふさ』の艦長、アメリア・クラウゼ少佐である。
彼女は満面の笑みを浮かべてドアを開けて立っていた。後ろには笑顔のサラ・グリファン中尉と彼女達の無茶の尻拭い担当のパーラ・ラビロフ大尉が立ち尽くしていた。
彼女達がかつて遼州星系外惑星の大国ゲルパルトで製造された人造兵士『ラストバタリオン』だということは、その自然ではありえない紺やピンクや水色の髪の色以外では想像することはできない。
それほどまでに人造人間としてはなじみ切った表情を彼女達は浮かべていた。
「今更海かよ……クラゲが出るぞ。それよりアメリア。お前、艦長研修終わったのか?」
そう突っ込んだのは誠の隣のデスクの主だった。司法局実働部隊第二小隊二番機パイロット、西園寺かなめ大尉が肩の辺りの髪の毛を気にしながら呆れたようにつぶやく。半袖の夏季士官夏用勤務服から伸びている腕には、人工皮膚の結合部がはっきりと見えて、彼女がサイボーグであることを示していた。
いつもの事とは言え、突然のアメリアの発言。それを挑発するかなめの言葉は同じ第一小隊所属の下士官である誠をあわてさせるに十分だった。
「終わったわよ!あんなのこっちはロールアウトした時から頭に入ってんだから!まあ、インプリントされていた内容がドイツ語だったから頭の中で日本語に翻訳するのに手間取ったけど」
そう言うと手にしていたバッグを開く。アメリアの入室時の突拍子もない一言に呆然としていた第一小隊の小隊長、カウラ・ベルガー大尉が緑のポニーテールを冷房の空気の中になびかせて立ち上がる。
ニヤニヤ笑いながらそのそばまで行ったアメリアが暇なので目の前のモニターにパチンコの画面を映して過ごしていたカウラをのぞき込んだ。
「アメリアの判断は的確だ。特に問題にはならないだろう」
カウラは喜んでいいのか呆れるべきなのか判断しかねたような困った表情でアメリアの得意顔を見つめている。
しかしそのままアメリアがニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくるのでカウラは少しばかり後ずさった。
「カウラちゃん!あなた『近藤事件』の時、誠ちゃんに『一緒に海に行って!』て言ってたそうじゃないの……技術部の大尉殿がきっちり盗聴してんのよ……ん?」
アメリアの一言は実働部隊の他の隊員の耳も刺激することになった。一同の視線は自然と頬を赤らめて照れるカウラへと向けられた。
「それは……」
カウラは口ごもる。見事なエメラルドグリーンの髪を頭の後ろで結んでポニーテールにしている彼女もまた戦闘用人造人間『ラストバタリオン』である。比較的表情が希薄なところから彼女は少し人造人間らしく見えた。そんなカウラが珍しく顔を赤らめ羞恥の表情を浮かべている。
誠はそんなカウラを見ながら冷や汗をかきながら机に突っ伏した。
澄んだ、どこまでも澄んだ女性の声ががらんとしただだっ広い部屋に響いた。
ここは『特殊な部隊』の別名で知られる遼州同盟司法局実働部隊の本部の一室、機動部隊詰め所と呼ばれる部屋だった。
機動ロボット兵器『アサルト・モジュール』パイロットの詰め所は、節電の為に薄暗い照明があるばかりである。四つの机が置かれているものの、それ以外のスペースがあまりに大きすぎた。
その一番小さな机に張り付いて隊の草野球チームの投球練習中にボールをぶつけた警邏用車両の修理費の請求書を書いていた神前誠曹長はその澄んだ声に引っ張られるようにして思わず顔を上げた。
声を発したのは紺色の長い髪と、ワイシャツに銀のラインが入った東和警察の夏服の女性だった。司法局実働部隊一と自他とも認める女芸人、運用艦『ふさ』の艦長、アメリア・クラウゼ少佐である。
彼女は満面の笑みを浮かべてドアを開けて立っていた。後ろには笑顔のサラ・グリファン中尉と彼女達の無茶の尻拭い担当のパーラ・ラビロフ大尉が立ち尽くしていた。
彼女達がかつて遼州星系外惑星の大国ゲルパルトで製造された人造兵士『ラストバタリオン』だということは、その自然ではありえない紺やピンクや水色の髪の色以外では想像することはできない。
それほどまでに人造人間としてはなじみ切った表情を彼女達は浮かべていた。
「今更海かよ……クラゲが出るぞ。それよりアメリア。お前、艦長研修終わったのか?」
そう突っ込んだのは誠の隣のデスクの主だった。司法局実働部隊第二小隊二番機パイロット、西園寺かなめ大尉が肩の辺りの髪の毛を気にしながら呆れたようにつぶやく。半袖の夏季士官夏用勤務服から伸びている腕には、人工皮膚の結合部がはっきりと見えて、彼女がサイボーグであることを示していた。
いつもの事とは言え、突然のアメリアの発言。それを挑発するかなめの言葉は同じ第一小隊所属の下士官である誠をあわてさせるに十分だった。
「終わったわよ!あんなのこっちはロールアウトした時から頭に入ってんだから!まあ、インプリントされていた内容がドイツ語だったから頭の中で日本語に翻訳するのに手間取ったけど」
そう言うと手にしていたバッグを開く。アメリアの入室時の突拍子もない一言に呆然としていた第一小隊の小隊長、カウラ・ベルガー大尉が緑のポニーテールを冷房の空気の中になびかせて立ち上がる。
ニヤニヤ笑いながらそのそばまで行ったアメリアが暇なので目の前のモニターにパチンコの画面を映して過ごしていたカウラをのぞき込んだ。
「アメリアの判断は的確だ。特に問題にはならないだろう」
カウラは喜んでいいのか呆れるべきなのか判断しかねたような困った表情でアメリアの得意顔を見つめている。
しかしそのままアメリアがニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくるのでカウラは少しばかり後ずさった。
「カウラちゃん!あなた『近藤事件』の時、誠ちゃんに『一緒に海に行って!』て言ってたそうじゃないの……技術部の大尉殿がきっちり盗聴してんのよ……ん?」
アメリアの一言は実働部隊の他の隊員の耳も刺激することになった。一同の視線は自然と頬を赤らめて照れるカウラへと向けられた。
「それは……」
カウラは口ごもる。見事なエメラルドグリーンの髪を頭の後ろで結んでポニーテールにしている彼女もまた戦闘用人造人間『ラストバタリオン』である。比較的表情が希薄なところから彼女は少し人造人間らしく見えた。そんなカウラが珍しく顔を赤らめ羞恥の表情を浮かべている。
誠はそんなカウラを見ながら冷や汗をかきながら机に突っ伏した。
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