1,119 / 1,505
第43章 勝利の宴
人造人間の苦悩
しおりを挟む
「隊長にお願いしたい事がありますれす!」
カウラはそう言うと急に背筋を伸ばし敬礼した。かなめとアメリアはいかにも嫌そうな顔でカウラの動向を見る。
「何?聞きたくねえけど、仕方ねえから聞いてやるよ」
完全にどうでもいいという表情の嵯峨がそう尋ねた。
「わらくし!カウラ・ベルガー大尉はなやんれいるのれあります!」
嵯峨の表情がさらにうんざりしたものに変わり、そのまま右手の端で鍋からクエの身を取り出して酒をあおった。
「悩んでるんだ……へー……」
薄情な嵯峨の言葉がカウラの言葉を翻訳する。
「何言い出すんだ!馬鹿!」
かなめが思わずカウラを止めようとするが、『駄目人間』とは言え人生の先輩の嵯峨はすばやくその機先を制する。
「そう。じゃあ隊長として聞かなければならねえな。続けていいよ」
話半分にシイタケをつまみに焼酎を飲みながら、嵯峨は話の先を促した。
「はいれす!わたひは!その!」
またカウラの足元がおぼつかなくなる。仕方なく支える誠。エメラルドグリーンの切れ長の目がとろんと誠を見つめている。
「何言いだすつもりだ?この酔っ払い!」
カウラから奪い取ったグラスにラム酒を注ぎながら、かなめはやけになって叫んだ。しかし、誠から離れたカウラの瞳がじっと自分を見つめている、自分の胸を見つめている事に気づくと、かなめはわざとその視線から逃れるように天井を見てだまって酒を口に含む。
「このおっぱい魔人が神前をたぶらかそうとしれるのれあります!」
かなめはカウラの突然の言葉に思わず酒を噴出す。そんなかなめを見ながら、アメリアはカウラの言葉に同調してうなづく。
「たぶらかすだと!なんでアタシがそんな事しなきゃならねえんだ?まあ、こいつが勝手に、その、なんだ、あのだな、ええと……」
「たぶらかしてるわね……支配して調教しているわね……銃で」
いつの間にかこのテーブルにやってきていたライトブルーのショートカットのパーラ・ラビロフ中尉がそう言った。
その一言に鍋を見回ってきていた島田とサラもうなづいている。
「テメエ等!無事に地面を踏めると思うなよ!この糞野郎!」
「だって事実じゃないの?どう思う正人?」
「俺は……興味ねえことにならねえかな?」
あっさりとパーラの言葉を受け止めたサラと、かなめの殺気を野生の勘で察して逃げ腰の島田がそこにいた。
「じゃあ聞くわ。ベルガー。この『女王様』とそこの馬鹿がくっつくとなんかおまえさんにとって困る事があるの?」
ほとんど鍋の具を一人で食べきった嵯峨がそう尋ねた。
そして、誠と同い年ぐらいに見える割には46歳らしい老獪ないやらしい笑みを浮かべた嵯峨はカウラを眺めた。誠は助けを呼ぼうと周りのテーブルを見回した。
技術部の島田の兵隊達やアメリアの部下の運航部の面々は、完全にこの『特殊』な状況を面白がるというように無視を続けていた。
軍医を探しに行っていたはずのランですら、嵯峨の居た上座の鍋を占拠して誠達を一瞥することもなく箸を鍋に突っ込んでいた。
「それはれすね!西園寺のような『女王様』に苛められると、神前がマゾにめざめるのれす! そうするとアメリアがその様子を盗撮してネットにながすのれす!困るひとはわたしなのれす!」
「神前がマゾに目覚める?そいつはまずいなあ……ねえ、『偉大なる中佐殿』」
意味不明なカウラの言葉に嵯峨はそう言って話題をランに振った。
「違法じゃなきゃいーんじゃねーか?まーそう言う趣味の人もいるみてーだし」
「ちっちゃいのに何てこというんですか!」
今のところはマゾに目覚めたくない誠はやる気のないランの言葉にそう叫んで反論した。
「なるほどねえ……かなめちゃんが、誠ちゃんに餌をやったり芸を仕込んだりするところを撮影してネットにあげれば……結構儲かるかも」
アメリアは糸目をさらに細くして満足げな笑みを浮かべる。
『誰か止めて!』
しかし誰も止めるつもりは無い。それでもまだカウラの演説は続く。
「わたしは!見過ごせないのれす!誠君がタレ目オッパイの奴隷として覚醒を迎えるのを見過ごせないのれす!ですから隊長!」
急にカウラは直立不動の姿勢をとる。
その時嵯峨は〆のうどん玉を鍋に投入している最中だった。また自分に話題がやってきたことに驚きつつ、嵯峨は仕方なく作業を中断する。
「だからなに?」
さすがに飽きてきたのか、嵯峨の口調は投げやりだった。
「こういう状況で何をするべきか、それをおしえれいららきたいのれす!誠!わらしはなにをしたらいいのら!」
「ベルガーが何をしたらいいのかねえ……って神前支えろ!」
嵯峨の言葉を聞いて誠はまた仰向けにひっくり返りそうになったカウラを支えた。その誠の頭をぽかぽかとカウラは柔らかいこぶしで殴る。パーラ、サラ、島田の三人は呆れるものの、次のカウラの絡み酒の標的になる事を恐れて退散するタイミングを計っている。
一方、アメリアは誠がぶっ壊れて意味不明なことを言い出さないので苛立っているように見えた。
カウラはそう言うと急に背筋を伸ばし敬礼した。かなめとアメリアはいかにも嫌そうな顔でカウラの動向を見る。
「何?聞きたくねえけど、仕方ねえから聞いてやるよ」
完全にどうでもいいという表情の嵯峨がそう尋ねた。
「わらくし!カウラ・ベルガー大尉はなやんれいるのれあります!」
嵯峨の表情がさらにうんざりしたものに変わり、そのまま右手の端で鍋からクエの身を取り出して酒をあおった。
「悩んでるんだ……へー……」
薄情な嵯峨の言葉がカウラの言葉を翻訳する。
「何言い出すんだ!馬鹿!」
かなめが思わずカウラを止めようとするが、『駄目人間』とは言え人生の先輩の嵯峨はすばやくその機先を制する。
「そう。じゃあ隊長として聞かなければならねえな。続けていいよ」
話半分にシイタケをつまみに焼酎を飲みながら、嵯峨は話の先を促した。
「はいれす!わたひは!その!」
またカウラの足元がおぼつかなくなる。仕方なく支える誠。エメラルドグリーンの切れ長の目がとろんと誠を見つめている。
「何言いだすつもりだ?この酔っ払い!」
カウラから奪い取ったグラスにラム酒を注ぎながら、かなめはやけになって叫んだ。しかし、誠から離れたカウラの瞳がじっと自分を見つめている、自分の胸を見つめている事に気づくと、かなめはわざとその視線から逃れるように天井を見てだまって酒を口に含む。
「このおっぱい魔人が神前をたぶらかそうとしれるのれあります!」
かなめはカウラの突然の言葉に思わず酒を噴出す。そんなかなめを見ながら、アメリアはカウラの言葉に同調してうなづく。
「たぶらかすだと!なんでアタシがそんな事しなきゃならねえんだ?まあ、こいつが勝手に、その、なんだ、あのだな、ええと……」
「たぶらかしてるわね……支配して調教しているわね……銃で」
いつの間にかこのテーブルにやってきていたライトブルーのショートカットのパーラ・ラビロフ中尉がそう言った。
その一言に鍋を見回ってきていた島田とサラもうなづいている。
「テメエ等!無事に地面を踏めると思うなよ!この糞野郎!」
「だって事実じゃないの?どう思う正人?」
「俺は……興味ねえことにならねえかな?」
あっさりとパーラの言葉を受け止めたサラと、かなめの殺気を野生の勘で察して逃げ腰の島田がそこにいた。
「じゃあ聞くわ。ベルガー。この『女王様』とそこの馬鹿がくっつくとなんかおまえさんにとって困る事があるの?」
ほとんど鍋の具を一人で食べきった嵯峨がそう尋ねた。
そして、誠と同い年ぐらいに見える割には46歳らしい老獪ないやらしい笑みを浮かべた嵯峨はカウラを眺めた。誠は助けを呼ぼうと周りのテーブルを見回した。
技術部の島田の兵隊達やアメリアの部下の運航部の面々は、完全にこの『特殊』な状況を面白がるというように無視を続けていた。
軍医を探しに行っていたはずのランですら、嵯峨の居た上座の鍋を占拠して誠達を一瞥することもなく箸を鍋に突っ込んでいた。
「それはれすね!西園寺のような『女王様』に苛められると、神前がマゾにめざめるのれす! そうするとアメリアがその様子を盗撮してネットにながすのれす!困るひとはわたしなのれす!」
「神前がマゾに目覚める?そいつはまずいなあ……ねえ、『偉大なる中佐殿』」
意味不明なカウラの言葉に嵯峨はそう言って話題をランに振った。
「違法じゃなきゃいーんじゃねーか?まーそう言う趣味の人もいるみてーだし」
「ちっちゃいのに何てこというんですか!」
今のところはマゾに目覚めたくない誠はやる気のないランの言葉にそう叫んで反論した。
「なるほどねえ……かなめちゃんが、誠ちゃんに餌をやったり芸を仕込んだりするところを撮影してネットにあげれば……結構儲かるかも」
アメリアは糸目をさらに細くして満足げな笑みを浮かべる。
『誰か止めて!』
しかし誰も止めるつもりは無い。それでもまだカウラの演説は続く。
「わたしは!見過ごせないのれす!誠君がタレ目オッパイの奴隷として覚醒を迎えるのを見過ごせないのれす!ですから隊長!」
急にカウラは直立不動の姿勢をとる。
その時嵯峨は〆のうどん玉を鍋に投入している最中だった。また自分に話題がやってきたことに驚きつつ、嵯峨は仕方なく作業を中断する。
「だからなに?」
さすがに飽きてきたのか、嵯峨の口調は投げやりだった。
「こういう状況で何をするべきか、それをおしえれいららきたいのれす!誠!わらしはなにをしたらいいのら!」
「ベルガーが何をしたらいいのかねえ……って神前支えろ!」
嵯峨の言葉を聞いて誠はまた仰向けにひっくり返りそうになったカウラを支えた。その誠の頭をぽかぽかとカウラは柔らかいこぶしで殴る。パーラ、サラ、島田の三人は呆れるものの、次のカウラの絡み酒の標的になる事を恐れて退散するタイミングを計っている。
一方、アメリアは誠がぶっ壊れて意味不明なことを言い出さないので苛立っているように見えた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる