レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第41章 戦地

任務と死

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 誠は『殺人』を犯した事実と自分の乗り物酔いが致命的なことに気づいて少しばかり落ち込んでいた。

 誠は静かに目の前の空間を眺めた。

 何もない空間。

『先ほどの通信位置測定から『那珂』のブリッジにいた近藤中佐の死亡が推測されます……任務は終了です』

 サラの言葉が重く誠にのしかかる。

「終わったんだ……」

 決起部隊からは投降の信号が発せられていた。第六艦隊の近藤一派捕縛の部隊もすでに近づいてきていた。

 誠はただ茫然とその様子を全天周囲モニターで確認していた。

『よくやった……アタシの部下としてはまーいー出来だ』

 ちっちゃな『偉大なる中佐殿』、クバルカ・ラン中佐はそう言って誠をなだめた。

「褒められても……僕は人殺しですから……」

 誠はそう言ってうつむいた。

 たとえ犯罪者だからと言って簡単に人を殺すことを受け入れることは誠にはできなかった。

 英雄になるつもりも資格も無い。誠にはそのことは分かっていた。

『だからいーんだよ。オメーは』

 ランはそう言って静かにうなづいた。

『アタシも今回は一機も落としてねーかんな』

「そんな……5機は落としてましたけど」

 反論する誠に向けてランは余裕のある笑みを浮かべた。

『あいつ等は未熟だから事故で死んだ。アタシは機動部隊長だから撃墜スコアーのカウントも仕事のうちだ。アタシは一機も落としたなんて記録しねーかんな。西園寺も誰も殺してねーんだ。死んだ奴は全部、『操縦未熟による事故死』って扱いになる』

 誠は絶句した。いくら勇敢に戦おうがこの『特殊な部隊』と出会った敵は『処刑』され、結果『事故死』として処理されるというランの言葉を理解できずにいた。

 ランは小さな画面の中でその小さな顔に笑顔を浮かべてなだめすかすように続けた。

『神前。分かんねーかな?その力で近藤の旦那が始めたいような『絶滅戦争』を始めれば……人がやたら死ぬ。だから、お前は『武装警察官』なんだ。『警察官』に撃墜スコアーは必要ねーんだ。職務を執行する技量だけがあればいい』

 誠はそう言って笑うランの言葉が理解できずに視線をかなめに向けた。

『なんだ?神前』

 先ほどの死を覚悟した表情はどこかに行ってしまったようにかなめは静かに葉巻をくゆらせていた。

「西園寺さん……」

 誠はそう言いながらかなめが自分に視線を投げてくるのを眺めていた。

『今回は死んだな……何人も……アタシも、オメエも人をたくさん殺した』

 そう言ってかなめは太い葉巻を右手に持った。

『近藤さんの部下の連中はたまたま死ぬべきだったから死んだだけそう思おうや』

 はっきりとそう言い切るかなめに誠は少しの違和感を感じていた。

「僕はそう簡単には人の死を割り切ることはできません」

 珍しくかなめに反抗的な表情を向ける誠にかなめはそのたれ目を向けてほほ笑む。

『済まねえな。もし、アタシに力があれば……人殺しにゃ向かねえオメエに殺しはさせなかったんだが……アタシに殺させるか、オメエが殺すか、それはオメエの心次第だな。無茶言った、すまねえ、聞かなかったことにしてくれ』

 かなめの言葉に、また、この『特殊な部隊』の自分の思う社会とは違う側面を感じて、誠は彼女から目をそむけた。

 誠は視線を全天周囲モニターの端っこに映るカウラに向けた。

 彼女は呆然と自分を見つめてくる誠に優しい微笑みを向けてきた。

 戦うために作られた『ラストバタリオン』であるカウラにとって戦場は日常空間なのかもしれない。

 そんなことを思っている誠に見つめられたカウラは静かにこう言った。

『神前、貴様は私の用意した『戦場』を見事に消した。立派な『死刑』を執行した。その時点でお前は本当の意味で私の小隊の一員になった。私は貴様を誇りに思う』

 そう言って笑い返してくるカウラ。

 誠は彼女にも違和感を感じた。

 普通に生きて普通に暮らしてきた自分がなぜこんなに『普通とは違う』人達の中で暮らしていく現在があるのか。

 そして、自分に『普通とは違う』能力が備わってしまったのか。

 自分の『法術』が何をこの『遼州同盟』にもたらすのか。

 それを考えながら誠は静かに目をつぶった。
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