1,094 / 1,505
第37章 彼女達の思い
人の尊卑
しおりを挟む
誠はカウラが食堂を去るのを見送ると目の前のかつ丼のどんぶりを手に取った。
「なんだか……食欲なくなってきたな」
食べるタイミングを『特殊』な上司のカウラに外されたことで、なんとなく誠はかつ丼に箸を伸ばせずにいた。
「食ってんだ」
かつ丼とにらめっこをしている誠の正面からハスキーな女性の声がした。
西園寺かなめ中尉だった。ライトブルーの実働部隊の制服の左わきには彼女らしく愛銃『スプリングフィールドXDM40』を入れたホルスターが見えた。
「食べたいんですけど……なかなか口に運ぶ気力が無くて……」
お茶を濁すような言葉を並べて誠はまたかつ丼のどんぶりをテーブルに置いた。
「今度の出動は、アタシが『近藤一派』全員処刑するからな。弾の補給を頼むわ」
誠の前に座ったかなめは表情も変えずにそう言った。あまりにあっさりとした『処刑宣言』に誠は呆然とかなめを見つめた。
「なんだ?射殺してほしいのか?」
「いえ!違います!……でも……『処刑』だなんて……」
誠は焦ってそう答えた。かなめの右手が銃に向けて動いているのを見たからだった。
「アタシが『近藤貴久中佐』と言う男を処刑すると言うのがそんなにおかしいか?近藤の旦那の本心を知ってて放置していた本間提督みたいに奴に甘い顔をしろとでも?」
表情を殺した『女サイボーグ』の瞳に見つめられると、誠は動くこともできなくなった。
「なんでそんな酷いことが……言えるんですか?人間ですよ、相手は」
誠は目の前の恐ろしいたれ目のサイボーグに語り掛けた。かなめはあっけらかんとした顔になる。
「そりゃあ、近藤中佐は『歴史に名を残したい貴族主義者』だろ?アタシが上意討ちにして、『逆族』としてちゃんと歴史に名を刻んでやるのが礼儀だろ?」
「『上意討ち』……って何ですか?」
誠の突拍子もない問いにかなめの表情は凍った。
「『上意討ち』も知らねえのか……お上に逆らった逆賊は殺されて当然なのが『甲武国』なんだよ。あそこの政府に軍人が逆らえばそれは『逆賊』だから討って構わねえんだよ」
誠は何度聞いてもかなめの言葉が理解できなかった。目の前の機械の体のかなめがそれなりの高位の貴族の出なのは分かったがその発想は庶民の誠には分かりかねた。
「西園寺さん……確かにクーデターは悪いことですし、貴族主義なんて僕には理解できないですけど……いきなり殺すなんてひどくないですか?」
信じられずに確認する誠を見てかなめはさわやかな笑みを浮かべた。
「そりゃあ東和共和国の内部の理屈だ。甲武には甲武の理屈がある」
誠の庶民的発想の疑問をかなめは一言で完全粉砕した。
「それに、アタシも好きで『貴族』に生まれたんじゃねえんだよ。先祖の『西園寺さん』と仲間達が『甲武国』を建国して『貴族制』を始めたから仕方なく『貴族主義者』の顔を立ててやってんの」
「『甲武国』を建国?」
さらにかなめの言葉は誠の社会常識の欠如を自覚させるものだった。考えてみれば『甲武国』は地球圏からの移民が独立して建てた『貴族制国家』である。地球圏からの独立を『誰か』がやったということは当然その時『建国』しているわけである。『貴族制』と言うことはその時の功労者が貴族になっているのは当たり前だということは誠にも理解できる。
「しかし……近藤の旦那も馬鹿だよな、『貴族主義』とか『官派』とか言うけど、どう頑張っても下級士族の出身の近藤の旦那は『甲武国』じゃこれ以上出世の見込みなんてねえのにな……何が楽しくて『貴族は偉い』とか言ってんのかね?理解できねえな」
かなめは誠には理解不能な『特殊』な世界観を語った。誠はただ絶句してかなめのたれ目を眺めていた。
「親父はアタシに言うんだ。『人は尊く生まれるんじゃ無い。尊くなろうと努力するのが人なんだ』ってな」
「尊く生まれるんじゃ無い。尊くなろうと努力する……」
誠はかなめの口にした言葉を繰り返した。
そして、まだ見ぬ『かなめの父』の言葉に心を動かされた。
「親父は無責任な男だが、その言葉は信用してやる。アタシに貴族の位を譲って民の政治をしたいというのも許してやってる……親孝行だからな!アタシは」
かなめの言葉には『父』への『愛』が感じられた。
庶民である自分とは違う、かなめの独特の父への尊敬がそこにあると誠はかなめを見ながら感じていた。
「だから、その娘として、『特殊な部隊』の一員として近藤の野望は砕く。『甲武国』一番の貴族として、貴族主義者の連中に『死』を遣わしてやる。結果として連中は『逆臣』として歴史に名を刻めるんだ。本望だろ?」
残酷な言葉を並べるかなめがおどけたように笑う。
「神前。そのためにおめえはアタシのフォローをしろ!アタシの銃の弾が尽きたら弾を運べ!アタシに何かあったら『回収』しろ!それが本来の『貴族の戦いだ!」
かなめの言葉に迷いは無かった。
『かわいい正義の味方』であるランが指揮し、『美しいが少し変』なカウラが戦場を用意する。そして、『気高き機械の体』の姫君が裁きを下す。
誠はこの『特殊な部隊』が実は『正義の味方』なのかもしれないと思っている自分を発見した。
「神前。食えよ、かつ丼」
誠は少しかなめの素敵な言葉にあこがれて、目の前のどんぶりの中身のことを忘れていた。
「すみません……なんだか……西園寺さんが見かけによらず、立派なことを言うから忘れてました」
そう言うと誠はかつ丼のどんぶりを手にした。
「だけどな。アタシはある『野望』があるから、『貴族主義者』には、存在していてもらわなきゃ困るんだな」
かなめはそう言ってほほ笑んだ。誠はかなめの表情に『殺気』を感じて箸を止めた。
「『野望』ですか……」
こういう時にかなめがろくなことを言わないことは誠も学習していた。
「叶うといいですね……その野望」
とりあえず誠はそう言って上機嫌のかなめからどんぶりへと視線を落とした。
「なんだよ……どんな『野望』か聞かねえのかよ」
「聞いてもろくなことになりそうにないので」
誠はそう言うとかつ丼を口にかきこんだ。久しぶりの固形物の感触に胃が喜んでいるのが分かり誠は笑顔でかつ丼を食べ続けた。
「なんだか……食欲なくなってきたな」
食べるタイミングを『特殊』な上司のカウラに外されたことで、なんとなく誠はかつ丼に箸を伸ばせずにいた。
「食ってんだ」
かつ丼とにらめっこをしている誠の正面からハスキーな女性の声がした。
西園寺かなめ中尉だった。ライトブルーの実働部隊の制服の左わきには彼女らしく愛銃『スプリングフィールドXDM40』を入れたホルスターが見えた。
「食べたいんですけど……なかなか口に運ぶ気力が無くて……」
お茶を濁すような言葉を並べて誠はまたかつ丼のどんぶりをテーブルに置いた。
「今度の出動は、アタシが『近藤一派』全員処刑するからな。弾の補給を頼むわ」
誠の前に座ったかなめは表情も変えずにそう言った。あまりにあっさりとした『処刑宣言』に誠は呆然とかなめを見つめた。
「なんだ?射殺してほしいのか?」
「いえ!違います!……でも……『処刑』だなんて……」
誠は焦ってそう答えた。かなめの右手が銃に向けて動いているのを見たからだった。
「アタシが『近藤貴久中佐』と言う男を処刑すると言うのがそんなにおかしいか?近藤の旦那の本心を知ってて放置していた本間提督みたいに奴に甘い顔をしろとでも?」
表情を殺した『女サイボーグ』の瞳に見つめられると、誠は動くこともできなくなった。
「なんでそんな酷いことが……言えるんですか?人間ですよ、相手は」
誠は目の前の恐ろしいたれ目のサイボーグに語り掛けた。かなめはあっけらかんとした顔になる。
「そりゃあ、近藤中佐は『歴史に名を残したい貴族主義者』だろ?アタシが上意討ちにして、『逆族』としてちゃんと歴史に名を刻んでやるのが礼儀だろ?」
「『上意討ち』……って何ですか?」
誠の突拍子もない問いにかなめの表情は凍った。
「『上意討ち』も知らねえのか……お上に逆らった逆賊は殺されて当然なのが『甲武国』なんだよ。あそこの政府に軍人が逆らえばそれは『逆賊』だから討って構わねえんだよ」
誠は何度聞いてもかなめの言葉が理解できなかった。目の前の機械の体のかなめがそれなりの高位の貴族の出なのは分かったがその発想は庶民の誠には分かりかねた。
「西園寺さん……確かにクーデターは悪いことですし、貴族主義なんて僕には理解できないですけど……いきなり殺すなんてひどくないですか?」
信じられずに確認する誠を見てかなめはさわやかな笑みを浮かべた。
「そりゃあ東和共和国の内部の理屈だ。甲武には甲武の理屈がある」
誠の庶民的発想の疑問をかなめは一言で完全粉砕した。
「それに、アタシも好きで『貴族』に生まれたんじゃねえんだよ。先祖の『西園寺さん』と仲間達が『甲武国』を建国して『貴族制』を始めたから仕方なく『貴族主義者』の顔を立ててやってんの」
「『甲武国』を建国?」
さらにかなめの言葉は誠の社会常識の欠如を自覚させるものだった。考えてみれば『甲武国』は地球圏からの移民が独立して建てた『貴族制国家』である。地球圏からの独立を『誰か』がやったということは当然その時『建国』しているわけである。『貴族制』と言うことはその時の功労者が貴族になっているのは当たり前だということは誠にも理解できる。
「しかし……近藤の旦那も馬鹿だよな、『貴族主義』とか『官派』とか言うけど、どう頑張っても下級士族の出身の近藤の旦那は『甲武国』じゃこれ以上出世の見込みなんてねえのにな……何が楽しくて『貴族は偉い』とか言ってんのかね?理解できねえな」
かなめは誠には理解不能な『特殊』な世界観を語った。誠はただ絶句してかなめのたれ目を眺めていた。
「親父はアタシに言うんだ。『人は尊く生まれるんじゃ無い。尊くなろうと努力するのが人なんだ』ってな」
「尊く生まれるんじゃ無い。尊くなろうと努力する……」
誠はかなめの口にした言葉を繰り返した。
そして、まだ見ぬ『かなめの父』の言葉に心を動かされた。
「親父は無責任な男だが、その言葉は信用してやる。アタシに貴族の位を譲って民の政治をしたいというのも許してやってる……親孝行だからな!アタシは」
かなめの言葉には『父』への『愛』が感じられた。
庶民である自分とは違う、かなめの独特の父への尊敬がそこにあると誠はかなめを見ながら感じていた。
「だから、その娘として、『特殊な部隊』の一員として近藤の野望は砕く。『甲武国』一番の貴族として、貴族主義者の連中に『死』を遣わしてやる。結果として連中は『逆臣』として歴史に名を刻めるんだ。本望だろ?」
残酷な言葉を並べるかなめがおどけたように笑う。
「神前。そのためにおめえはアタシのフォローをしろ!アタシの銃の弾が尽きたら弾を運べ!アタシに何かあったら『回収』しろ!それが本来の『貴族の戦いだ!」
かなめの言葉に迷いは無かった。
『かわいい正義の味方』であるランが指揮し、『美しいが少し変』なカウラが戦場を用意する。そして、『気高き機械の体』の姫君が裁きを下す。
誠はこの『特殊な部隊』が実は『正義の味方』なのかもしれないと思っている自分を発見した。
「神前。食えよ、かつ丼」
誠は少しかなめの素敵な言葉にあこがれて、目の前のどんぶりの中身のことを忘れていた。
「すみません……なんだか……西園寺さんが見かけによらず、立派なことを言うから忘れてました」
そう言うと誠はかつ丼のどんぶりを手にした。
「だけどな。アタシはある『野望』があるから、『貴族主義者』には、存在していてもらわなきゃ困るんだな」
かなめはそう言ってほほ笑んだ。誠はかなめの表情に『殺気』を感じて箸を止めた。
「『野望』ですか……」
こういう時にかなめがろくなことを言わないことは誠も学習していた。
「叶うといいですね……その野望」
とりあえず誠はそう言って上機嫌のかなめからどんぶりへと視線を落とした。
「なんだよ……どんな『野望』か聞かねえのかよ」
「聞いてもろくなことになりそうにないので」
誠はそう言うとかつ丼を口にかきこんだ。久しぶりの固形物の感触に胃が喜んでいるのが分かり誠は笑顔でかつ丼を食べ続けた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる